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人の移動を大きく変える「MaaS(マース)」とは? 意味やメリット、国内外の最新トピックを専門家が解説

「MaaS(マース)」とは? 意味やメリット、国内外の最新トピックを専門家が解説

「移動に革命を起こす」と言われている次世代の移動の概念「MaaS(マース)」。日本でも数年前からビジネスシーンを中心に話題になっているものの、登場して間もない概念のため、いまいちイメージできない方も多いはずです。

そこで、未来の生活のスタンダードとなるであろうMaaSの本質をつかむため、専門家である株式会社MaaS Tech Japanの日高洋祐さんを取材。MaaSとはいったい何なのか、普及によってなにが変わり、私たちの生活にどう影響するのかを教えてもらいました。

目次

教えてくれたMaaSの専門家

株式会社MaaS Tech Japan 日高洋祐(ひだか・ようすけ)

株式会社MaaS Tech Japan 日高洋祐(ひだか・ようすけ)さん
2005年、鉄道会社に入社。ICTを活用したスマートフォンアプリの開発や公共交通連携プロジェクト、モビリティ戦略策定などの業務に従事。その後MaaS Tech Japanを立ち上げ、MaaSプラットフォーム事業などを行いながら国内外のMaaSプレーヤーと積極的に交流し、日本国内での価値あるMaaSの実現を目指す。共著に『MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ』(日経BP)がある。

  • 取材はオンラインで実施しました

MaaS(マース)とは? —交通手段をまとめて、より便利な移動を実現する

MaaS(マース)とは? —交通手段をまとめて、より便利な移動を実現する

鉄道、バス、タクシー、飛行機、フェリーにシェアサイクル……私たちの身の回りには、タイプや運営事業者の異なるいろいろなモビリティサービス(交通手段)があります。「Mobility as a Service」、通称「MaaS(マース)」とは、それらを一つのサービス上に統合し、より便利な移動を実現する仕組みのこと。

MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ

引用:『MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ』(日経BP)

MaaSの定義

MaaS構築に向けた共通基盤を作り出す公民連携団体「MaaS Alliance」が2017年に発表したホワイトペーパーでは、MaaSを下記のように定義しています。

“Mobility as a Service (MaaS) constitutes the integration of various forms of transport services into a single mobility service accessible on demand.”

訳:Movility as a Service(MaaS)とは、いろいろな形式の移動サービスをひとつの交通手段として統合させたもの。

株式会社MaaS Tech Japan 日高洋祐(ひだか・ようすけ)

「例えば音楽のプラットフォーム『Spotify』では、レコード会社を超えてさまざまな音楽を検索・購入・鑑賞できますよね。その対象が交通手段に変わったもの——つまり、一つのアプリ上で多様な交通手段が検索・予約・利用できる仕組みをイメージしてもらえると、分かりやすいかもしれません」

MaaSはいつ頃生まれた? —始まりはフィンランドから

MaaSという言葉の起源はフィンランド。同国にあるMaaS Global社のサンポ・ヒータネンCEOが提唱しています。以降、モビリティの情報検索から予約や決済までできる「MaaS」のビジネスが生まれ、産業の変革が起こり始めました。

そんなMaaS先進国であるフィンランドでは、首都ヘルシンキにおいて世界初のMaaSプラットフォーム「Whim(ウィム)」というサービスを提供。月額499ユーロのプラン「Whim Unlimited」を使えば、ヘルシンキ内の鉄道やバスといった公共交通機関が利用し放題で、さらにタクシーやレンタカー、シェアサイクルも基本無料(一部時間制限や追加料金あり)。アプリ上で交通手段を横断した経路検索ができるほか、予約も利用もアプリ一つで完結できます。

MaaSはいつ頃生まれた? —始まりはフィンランドから

フィンランドはなぜMaaS先進国になれた?

フィンランドが世界に先駆けてスタートを切れた最大の理由は、国益との関連性の高さにありました。というのも、フィンランドには自家用車メーカーがないため、国民が車を購入するたび国外に国のお金が出ていってしまいます。そこで、MaaS事業を国が支援。自家用車よりも便利に街の交通網を利用できるようにすることで、国民のお金の使い道を、国外の自家用車メーカーから国内の交通事業者へと転換させることを目指したのです。交通事故の多さや、国民の環境意識の高さなどの背景も、フィンランドのMaaSの普及を後押ししたと言えるでしょう。

MaaSの5段階の「レベル」とは? —日本はまだ第1段階にいる

2021年現在、日本で暮らしている私たちにとって最も思い浮かべやすいMaaSの例といえば、地図アプリの経路検索機能でしょう。さまざまな交通手段を横断して、より安く・より早い移動経路を検索できるこうしたサービスは、移動の利便性を格段に上げてくれました。

といっても、経路検索イコールMaaSとしてしまうと、少々認識がずれてしまうかもしれません。MaaSには、その統合度や機能に応じた0〜4までの5つの段階があり、現状の経路検索はその中でも低めの「レベル1」のサービスとなるからです。

例えば、新幹線とタクシーを使った経路が提案された場合、新幹線の空席確認や予約をするには、専用のサイトに移動しなければなりません。また、タクシーを呼ぶには配車アプリを利用するか、タクシー会社に電話して予約をする必要があります。

レベル

状態

1

情報は統合されているものの、予約や支払いのスタイルが統合されていない状態。2021年の日本は、まだこの段階にある。

2

一つのサービス上で予約や支払いまでができる。欧州を中心に続々と広がっている。

3

MaaS先進国・フィンランドで行われているような、複数の交通手段が決まった料金体系で利用できる。

4

レベル3を都市計画や国の政策として行う域に達している。現在では、まだほとんど事例がない。

MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ

引用:『MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ』(日経BP)

MaaSが加速することのメリットは? —お金や時間の使い方も大きく変わる

では、MaaSのレベルが進むことで、私たちにはどんなメリットがあるのでしょうか。生活や社会で起こるであろうポジティブな変化を、MaaSの普及フェーズごとに予想してみました。

フェーズ

予測される変化

1

  • さまざまな交通手段をシームレス(一体的)に利用できる

2

  • バラバラだった各社の運行データが集約されることで、移動が不便な時間帯やエリアが可視化され、交通手段の拡充が進む

3

  • 自家用車がなくても便利に移動できるため、車を手放したり台数を減らしたりでき、維持費用を節約できる

4

  • 自家用車を利用する人が減り、渋滞が減ったり、街の駐車場スペースが縮小して空いたスペースに新しい施設ができる
  • これまで家族の送迎に時間をとられていた人に余裕ができ、就業率が上がる
  • 高齢者や子どもがひとりで外出しやすくなる

株式会社MaaS Tech Japan 日高洋祐(ひだか・ようすけ)

「そのほか、これまでは車を使わないと楽しめなかった観光地の魅力向上や、車が生活に必須だった地域への移住促進などが進むと考えられます。かつて道路や水道の整備が地方への引っ越しの条件となっていたように、これからはMaaSの整備が重要視されるようになるのではないでしょうか。また、自動車の台数が減ることで、大気汚染などの環境問題にも貢献できると思います」

MaaSの市場規模はどのように伸びている? —9年後には現在の化粧品市場と同規模に

富士経済の国内調査によれば、MaaS市場は2018年から2030年にかけて、約3.5倍(2兆8,658億円)まで伸びると予測されています。2兆8,658億円といえば、化粧品やたばこ、パンなど、私たちにとって身近に感じられる商品の市場と同程度の規模。

2019年見込

2018年比

2030年予測

2018年比

8,673億円

106.1%

2兆8,658億円

3.5倍

(出典:MaaSの国内市場を調査(富士経済)

つまりMaaSは、利用者だけでなくビジネスを行う側にとっても、大きなメリットがある取り組みなのです。

日高さん注目の国内外のMaaS事例3選 —都市・地方の課題解決モデルから三方良しのビジネスモデルまで

ここまでの説明でかなり「MaaS」の輪郭がつかめてきたかと思いますが、理解を深めるためにはやはり具体例を知るのが一番です。ここからは、数多くのMaaS事例を見てきた日高さんが秀逸だと感じた、国内外の事例3件をご紹介します。

① 高齢者の移動ニーズをかなえる、上士幌町のオンデマンドバス&ネットスーパー

北海道の上士幌町(かみしほろちょう)では、MaaSの実証実験の一環として、高齢者向けのネットスーパーを開始。Web上で、利用したいスーパーと購入したい品物、届けてほしい日時を選択すると、自宅の近くまで配達してくれる行政サービスです。このサービスを実現したのが、同時期に提供を開始した「オンデマンドバス(利用者の予約に合わせて運行するバス)」。商品を届けるだけでなく、自宅と町内の目的地を送迎してくれる、「物」と「人」の輸送を両立した自動運転バスです。

高齢者の移動ニーズをかなえる、上士幌町のオンデマンドバス&ネットスーパー

② 石川県が取り組む、交通改革による女性の就業支援

石川県のある地域では、女性の就業率アップのため、MaaSを利用した交通改革を実施しました。というのも、この地域は駅から離れているため車移動が必須。子どもの塾の送り迎えや高齢になった親の送迎を、若い既婚女性が担っており、就業が困難になっているケースが多かったのです。

石川県が取り組む、交通改革による女性の就業支援

株式会社MaaS Tech Japan 日高洋祐(ひだか・ようすけ)

「先日、当事者の方から『交通改革のおかげで子どもたちを駅前の学習塾に通わせることができるようになり、無事志望校に受かりました!』とお手紙をいただきました。当事者にとっては移動による不便が軽減し、地域にとっては働き手が増えることで税収も増える、両者にとって大きなメリットのある取り組みなのです」

③ 月100ドル分の交通費補助が出るサンフランシスコのマンション

サンフランシスコにあるマンション「Perkmarced(パークマーセド)」には、駐車場がありません。その代わり、住人に毎月100ドル分のプリペイドカードを提供しており、「Uber」やトラムを利用できるようになっています。

  • 画像はイメージです

月100ドル分の交通費補助が出るサンフランシスコのマンション

株式会社MaaS Tech Japan 日高洋祐(ひだか・ようすけ)

「住人にとっては、自家用車を所有するコストがかからず、出先で駐車場を探す手間も省けるメリットがあります。街にとっては、駐車する車が減ることで駐車場の敷地が縮小し、空いた敷地に新たな施設を造れる。マンションを基点に考えられた、ユニークなMaaS事例ですね」

日本のMaaSの今とこれから —観光地や地方でも続々サービススタート

日本のMaaSの今とこれから —観光地や地方でも続々サービススタート

日本では、観光地でのMaaS利用やニュータウンにおける地域内の交通連携など、範囲を限定しながら各地でMaaSを使ったサービスの提供が始まっています。

株式会社MaaS Tech Japan 日高洋祐(ひだか・ようすけ)

「それらに使われているエリアごとの運行データ基盤は、いずれひとつにまとまってくると思いますが、サービス自体はいろいろなものが共存するほうがいいと思っています。

例えば高齢者向けのオンデマンドバスと、観光バスは分かれていたほうが便利ですよね。飲食店を探すときにも目的に合わせてレストラン検索サービスを使い分けるように、移動においても目的によって違う多様なサービスがあるほうが、いい街になると思います」

「それらに使われているエリアごとの運行データ基盤は、いずれひとつにまとまってくると思いますが、サービス自体はいろいろなものが共存するほうがいいと思っています。

例えば高齢者向けのオンデマンドバスと、観光バスは分かれていたほうが便利ですよね。飲食店を探すときにも目的に合わせてレストラン検索サービスを使い分けるように、移動においても目的によって違う多様なサービスがあるほうが、いい街になると思います」

MaaS発展のカギとなる「自動運転」とは? —利便性を一気に高めてくれる

MaaS発展のカギとなる「自動運転」とは? —利便性を一気に高めてくれる

日高さんは、MaaSがさらに発展するために重要なファクターとして、「自動運転」を挙げています。

株式会社MaaS Tech Japan 日高洋祐(ひだか・ようすけ)

「交通網が高度に発展している日本の都市においても、深夜・早朝の移動はまだまだスムーズにできるとは言えません。また、地方にはタクシー運転手が不足している地域も少なくありません。そうしたMaaSの穴を埋めてくれる存在が、自動運転車です。道路と車さえあれば移動のニーズを満たせるようになるので、導入すればMaaSの利便性が一気に最大化すると思います」

ソフトバンクが取り組んでいるMaaS事業の特長は?

MONET Technologies

2018年秋、ソフトバンクがトヨタ自動車と共同で設立することを発表した「MONET Technologies(モネ・テクノロジーズ)」では、自動運転やデータ活用などに関する両社の知見を生かし、移動における社会課題の解決や新たな価値創造を目指したさまざまな取り組みを行っています。

モビリティサービスについては、車内のレイアウトを柔軟に変更し、1台を移動オフィスなどのさまざまな用途で活用できる「マルチタスク車両」や、医療機器などを車内に搭載し、医療従事者との連携によって患者の自宅などを訪問してオンライン診療などを行うことができる「ヘルスケアモビリティ」など、MaaSの実現を支援する取り組みを実施。ユニークなサービスがすでに各地でその芽を出しつつあります。

株式会社MaaS Tech Japan 日高洋祐(ひだか・ようすけ)

「データ活用や自動車メーカーとの連携だけじゃなく、コンソーシアム(共同事業体)を始められるだけのビジネスプロデュース力もある。MaaSという新たな市場において、MONETコンソーシアムは、かなり中心的な役割を担っているのではないかなと思います」

MaaSで、移動に革新をもたらす

MaaSで、移動に革新をもたらす

私たちの生活を快適、便利にするモビリティサービス。そこに通信やITが組み合わさることで、さらなる可能性が広がります。例えば、自動運転が実用化すれば私たちの暮らしはさらに便利になり、移動にまつわる課題の解決も期待されます。ソフトバンクは、最先端技術を駆使することで、より良いサービスを実現します。

ソフトバンクが実現する新しい体験

(掲載日:2021年3月19日)
イラスト:小林ラン
文:坂口ナオ
編集:エクスライト