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東京都が取り組むDX。データを生かして、都民のQOL(Quality of Life)向上へ

東京都が取り組むDX。「スマート東京」を支えるのは、データの “チカラ” (仮)

「データは21世紀の石油」ー マイナンバーカードの交付促進からデジタル庁新設まで、行政においてもデータという資源を利活用した地域課題の解決や新ビジネスの創出が、国家プロジェクトとして動き出しています。

2021年4月、東京都は新たに「デジタルサービス局」を設立。都庁のデジタル化の陣頭指揮をとる、元ヤフー社長の宮坂学副知事直下、キモ入りと言われるこの組織でどのような取り組みがされているのでしょうか? デジタルサービス局の担当者にインタビューしました。

高橋 葉夏(たかはし・はなつ)さん

高橋 葉夏(たかはし・はなつ)さん

東京都デジタルサービス局 データ利活用担当部長
大学卒業後、 東京都庁に入都。総務局、産業労働局、足立区役所などを経て、2021年4月より、デジタルサービス局 データ利活用担当部長として、東京データプラットフォーム、デジタルツイン、オープンデータなどを担当

データも会議も情報も「オープン」が基本。都庁のデジタル化をけん引するのが、デジタルサービス局

データも会議も情報も「オープン」が基本。都庁のデジタル化をけん引するのが、デジタルサービス局

ペーパーレス促進の象徴として、デジタルサービス局の入り口では、ヤギのぬいぐるみがお出迎え

今日はよろしくお願いします。なんだかオフィスの雰囲気が他の局と違いますね…。

高橋さん

都庁の中でここだけがフリーアドレスです。袖机も撤廃して積極的にペーパーレスに取り組んでいます。ウェブ会議も日常的に行っています。

お役所は資料が山積みというイメージがあります。この局だけ違うのですか?

高橋さん

ペーパーレスは全庁的に取り組んでいます。会議用の資料配布も減らして、宮坂副知事への報告も執務室に行かずに、よくウェブ会議でしています。

デジタルサービス局は設立間もないにもかからず、多岐にわたる業務を行っていると聞きました。どんな業務をやるところなのですか?

高橋さん

東京都は都政サービスの質向上のため、抜本的な構造改革に着手しています。紙やはんこをベースにしたアナログ環境からデジタル環境へと転換し、都政のDX推進につなげていくという考えで、ペーパーレスやフリーアドレスなどの導入もその一環。デジタルサービス局は、デジタルに関して庁内のDX推進をスピード感持って実行していく旗振り役ですね。

なるほど。

高橋さん

さらに、都庁各局が保有するデータのオープン化を推進しています。それらのデータを民間企業などが活用してサービスを創出する、新たなスタイルの構築を目指して、これまで庁内で各局がバラバラに持っていたデータを集めています。

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都庁のDX

東京都は、「稼ぐ力」の中核となるAIやビッグデータなどの技術の社会実装を通じて、経済発展と社会的課題の解決を両立させる「スマート東京(東京版Society5.0)」の実現を目指し、さまざまな取り組みを行っています。

コラム:都庁のDX

出典:「スマート東京実施戦略」

デジタルサービス局は、①各局区市町村のDX推進を技術面からサポート、➁デジタルに関するけん引・旗振り役、③デジタル人材の結集と都庁職員の育成の3つの機能を中心にデジタルガバメント・都庁の実現を推進。

また、スマート東京の実現に向け、電波の道で「つながる東京」、公共施設や都民サービスのデジタルシフト=「街のDX」、行政のデジタルシフト=「行政のDX」の3つの柱で施策を展開しており、さまざまな施策の検討会は、誰もが参加できるようウェブ会議で実施。「都知事杯オープンデータ・ハッカソン」の開催も行っています。

「都知事杯オープンデータ・ハッカソン」の詳細はこちら
開催期間:2021年12月15日~19日、応募締め切り:2021年12月8日

行政がやるべきは、データを利用者に届ける道筋をつくること

行政がやるべきは、データを利用者に届ける道筋をつくること

集めたデータはどう活用するのですか?

高橋さん

データ活用で重要なのは「欲しいときに欲しいデータに簡単にアクセスできる」こと。例えば、今いるところからすぐに行ける病院はどこか? 障がい者の方が利用できるトイレは近くにあるか? そして、そこへの行き方は? など。欲しいデータを使える環境に整備するのが大切なんです。

データの使い方の整理整頓ですか?

高橋さん

整理整頓だけじゃなく、「データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト/Data Free Flow with Trust(DFFT)」という考え方ですね。行政側がやるべきことは、データをどう利用者に届けるかの道すじをつける。膨大なデータが流通するデジタル社会では、痕跡もなく改ざん、ねつ造が可能ですから、データは正確な情報であることが重要なんです。流れる元のデータをまとめたいのがデジタルサービス局のやりたいこと。

  • 信頼ある自由なデータ流通のこと。日本政府がIT戦略/ICT戦略の取り組みとして提唱している

そのデータへのアクセスは、スマホを活用するということですか?

高橋さん

みんながアクセスしやすくなる正確なデータをどうやって流していくか、そのためのインフラ整備は行政が担当しますが、使うためのサービス作りには民間企業に担当してもらうのがいいのです。アクセス手段はスマホでもパソコンからでも。

役割分担が明確ですね

高橋さん

役立つデータをニュースアプリやネットニュースなどに流す仕組みを作ったほうが、みんなに届く。オウンドメディアに固執していると情報は都民に届かないから、いろんな形で流れる仕組みを作っていくという考えですね。だからラストワンマイルは民間企業が担う役割が大きいと思うんです。

データは見えてこそ、初めて役に立つ。豊富なデータを取り込んだ「都市のデジタルツイン」3Dビューワー

データは見えてこそ、初めて役に立つ。豊富なデータを取り込んだ「都市のデジタルツイン」3Dビューワー

建物や街の様子を再現する3D都市モデル。さまざまなデータを重ね合わせることで、これまでと違う角度から東京をみることができます

デジタルサービス局で担当されている事業について具体的に教えてください。

高橋さん

ひとつ挙げるとしたら「都市のデジタルツイン」への取り組みですね。変化の激しい社会情勢の中で、各自治体は少子高齢化や人口減少など多岐にわたる課題を抱えています。加えて東京都は首都直下型地震への備えなど防災への取り組みが必須。これらの課題解決にデジタルテクノロジーの力はもはや不可欠です。そこで、各局が持っているデータを再利用可能な形で出してもらうように働きかけて、デジタルツインの構築に取り組んでいます。

データは見えてこそ、初めて役に立つ。豊富なデータを取り込んだ「都市のデジタルツイン」3Dビューワー

出典:「スマート東京実施戦略」

  • 現実空間上のモノや環境の状態を収集し、デジタル空間上にコピーし再現する技術概念

都庁もデジタルツインに取り組んでいるとは知りませんでした。進ちょく状況はいかがですか?

高橋さん

今実証中なんですけど、都内エリアのデジタルツイン3Dビューワー(β版)を作成して公開しているので、ぜひ、ご覧になっていただきたいですね。

これは、どう活用できるのですか?

高橋さん

例えば、ハザードマップとしての活用が考えられます。これまでは特定の場所の、特定の情報しか見られなかったけど、これを見れば危険な地域や避難所の場所など、関係するデータが一元化して見えます。都民がいろんなところに見に行かなくてもいい情報をワンストップで作る。デジタルツインは情報と情報をつなぎ合わせることができるんです。

データは見えてこそ、初めて役に立つ。豊富なデータを取り込んだ「都市のデジタルツイン」3Dビューワー

データの見える化ですね。

高橋さん

そうです。見えないデータをビジュアライゼーションしたことで、「データは役に立つ」と理解できて、庁内でもオープンデータの必要性をわかってもらえました。

まだβ版だそうですが、完成形はどうなるのですか?

高橋さん

完成形は、官も民も関係なく仮想上にデータが乗って、自治体とか企業とか人がデータを選んで、シミュレーションなどに使えるのが目標とする姿。デジタルツインのデータをベースにして都の施策が検討され、その決定プロセスがよりクリアになるといいなぁと、個人的には思っているんですけどね。

この部署だからこそ、いろんな人がいたほうがいい。「官・民」織り交ぜながら、アジャイルに取り組む

この部署だからこそ、いろんな人がいたほうがいい。「官・民」織り交ぜながら、アジャイルに取り組む

デジタルサービス局は約200人のメンバーで構成され、その中には研修生と呼ばれる民間企業からの出向者が10人ほど在籍中。ソフトバンクからも2人が研修生として、デジタルサービス局で業務を行っています。

長船光紘(おさふね・みつひろ)さん

長船光紘(おさふね・みつひろ)さん
東京都デジタルサービス局デジタルサービス推進部

デジタルサービス推進課 データ利活用担当 課長代理

佐藤俊(さとう・しゅん)さん

佐藤俊(さとう・しゅん)さん
東京都デジタルサービス局デジタルサービス推進部
ネットワーク推進課 ネットワーク推進担当 課長代理

高橋さん

これまでも民間からの出向者は在籍していましたが、ICT関係者はいませんでした。デジタルサービス局は都庁の中で、出向者が多い部署だと思います。計画を立てるのは行政だけではなく、民間からいろいろな方に参加いただいてより良いものにしていきたいと思っています。

お二人はどんな業務をされているのですか?

長船さん

私は都が検討している「東京データプラットフォーム」の事業におけるポリシー策定(プライバシーポリシー、セキュリティポリシー、規約約款、コンプライアンス指針、データガバナンス)を担当しています。

佐藤さん

5Gネットワークの早期構築によるモバイルインターネット網を作り上げることを目指した、「TOKYO Data Highway」事業に携わっています。5Gの基地局建設のための都の資産開放を担当しています。

仕事のやり方が違うので、戸惑われることも多いのではないですか?

佐藤さん

基地局関係の仕事はわかっているし、初日から水が合いました。ソフトバンクは役職で呼ぶ文化がないので戸惑いましたが、今は役職で呼ばれると、ちょっとうれしい(笑)。あと、資料に文字が増えてきたかな…。

長船さん

自分のキャリアを模索する中で “人のために役立つ” ことを考えていて、それなら公共・自治体を経験したほうがいいと、視野を広げるために出向することを決めました。小さいカルチャーショックはありましたが、紙の文化がすごい勢いで変わって、デジタル化されていくのが体感できたのはおもしろかったですね。

この部署だからこそ、いろんな人がいたほうがいい。「官・民」織り交ぜながら、アジャイルに取り組む
この部署だからこそ、いろんな人がいたほうがいい。「官・民」織り交ぜながら、アジャイルに取り組む

高橋さん

宮坂副知事直轄で、今までやったことないことに挑戦している新しい部署ですから、アジャイルな感じでやっています。民間企業から入庁した人もいて、それぞれバックグラウンドが違うから、やり方も違う。だからブレストやったり、皆でよく議論しています。

長船さん

在籍中になんでも経験したほうがいいと言われているので、都議会にも出席させてもらいました。

佐藤さん

ここに来る前は、役所は完全に固めないと外と議論しちゃいけないというイメージがあったんですよ。ラフなアイデアレベルじゃダメだったりみたいな。でも、ここはやりたい人で話せばいいのでは?というスタンスでやりやすい。とてもオープンです。

巨大都市東京だからこそむずかしい、デジタル化への取り組み

巨大都市東京だからこそむずかしい、デジタル化への取り組み

出典:「スマート東京実施戦略」

今後の取り組みについて教えてください。

高橋さん

想像以上の速さで進む人口減少によってノウハウの継承が、国内共通の課題となっています。日本はインフラのメンテナンスなど、これまではスキルが高い人材が対応してきたので課題がなかったのですが、今はどの自治体もスマートシティ関連は人口減少にどう対応するか、という危機意識から取り組んでいます。東京都の場合、課題が多すぎて絞り切れないなど、巨大都市ならではのむずかしさを感じています。

DXへの取り組みは、各自治体共通の優先事項ですね。

高橋さん

海外のDX先進国の事例も常に参考にしていますが、エストニアなどは、もう30年以上もデータ整備をやってきているんです。私たちも行政ならではの中長期を考えて進めていきたいと思っています。スキルの高い個人に頼るのではなく、組織として継続されるものを作ろうと考えています。

(掲載日:2021年12月6日)
文:ソフトバンクニュース編集部

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