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成人年齢が18歳に。菊地弁護士に聞いた成人として身につけておきたい契約トラブル回避法

成人年齢が18歳に。菊池弁護士に聞いた成人として身につけておきたい契約トラブル回避法

明治時代から140年近く続いてきた「20歳になったら成人」という常識。2022年4月1日からは、これが「18歳」に引き下げられます。

そこで大きく変わるのが、親の同意なしで契約行為が行えるようになることです。しかし、社会経験が浅い若者が契約トラブルに遭うケースは後を絶ちません。この改正で、18歳以上の子どもを持つ親と本人が知っておくべきこととは? お茶の間でおなじみの菊地幸夫弁護士に、「契約行為」にまつわるリスクと対策を分かりやすく教えていただきました。

目次

プロフィール

弁護士 菊地 幸夫(きくち・ゆきお)先生

菊地 幸夫(きくち・ゆきお)先生

中央大学法学部卒業。元司法研修所刑事弁護教官。現在、社会福祉法人練馬区社会福祉事業団理事、公益財団法人日本バレーボール協会監事。日本テレビ『行列のできる相談所』や『スッキリ』などに出演し、親しみやすい人柄と分かりやすい解説が幅広い年代から人気。プライベートでは体力作りにも勤しみ、小学生バレーボールチームの監督も務めている。

成人になると「一人で」契約行為ができるようになる

今回の改正で、18歳になるとどんなことができるようになるのでしょうか?

成人になると「一人で」契約行為ができるようになる

「具体的には、携帯電話やクレジットカードを自分名義で持てるようになったり、一人暮らしの部屋を借りる、銀行口座を持つといった、あらゆる契約行為を自分一人で、完全な効力を持って行えるようになります。また、結婚ができる最低年齢も変わり、これまでは男性18歳・女性16歳だったのが、改正後は男女とも18歳に。飲酒や喫煙、競馬・競輪などのギャンブルができるようになる年齢は、改正後も20歳のままです」

改正後、18歳からできること

  • 親の同意なしで契約行為ができる
    例)携帯電話、クレジットカード、銀行ローン、一人暮らしの部屋を借りるなど
  • 10年有効のパスポートを取る
  • 国家資格を取る
    例)公認会計士、司法書士、医師免許、薬剤師免許など
  • 結婚
    ※男女ともに18歳から可能になる
  • 性同一性障害の人が性別取り扱いの変更審判を受ける

(従来どおり)

  • 選挙への投票
  • 普通自動車免許の取得

引き続き20歳にならないとできないこと

  • 飲酒
  • 喫煙
  • ギャンブル
    例)競馬、競輪、オートレースなど
  • 養子を迎える
  • 大型・中型自動車運転免許の取得

18歳になると同時に、一気にいろいろなことができるようになるのですね…。

菊地 幸夫(きくち・ゆきお)先生

「成人とは、つまり『法律的な行為を一人で完全にできる年齢に達した人』のこと。未成年のうちは、契約をしても完全な効力が発生せず、後から取り消すことができます。逆に言えば、成年に達した後は、自分が結んだ契約を一方的に取り消すことはできない。だからこそ、契約について正しい知識を持つことが大切なんです」

注意!成年を迎えたばかりの若者が遭いやすい契約トラブル事例

菊地 幸夫(きくち・ゆきお)先生

※取材はオンラインで行いました。

そもそも「契約」とは、法律上どのようなものなのですか?

売買契約とサービス契約

「契約とは、『当事者同士の合意に基づく、お互いを拘束する法律的な約束』です。言葉だけで見ると、少し難しいですね(笑)。例えば、私たちがコンビニでペンを買う時には『売買契約』が成立しています。一方、お金を払ってマッサージを受けたり髪を切ってもらったりするのは、『サービス契約』と呼ばれるものです。

契約を結ぶにあたっては、『その契約が、自分にとって有利か不利か』という判断が重要です。果たして、その判断が18歳でできるのか? これが成年年齢引き下げにあたっての最大の懸念だと思います」

成人になったばかりの人はトラブルに遭いやすいということでしょうか?

「そうですね。成人になりたての人は社会に関する知識や経験がまだ浅く、判断能力が十分ではない。悪徳業者にとって、格好のターゲットだと言えるでしょう」

契約トラブルには、どんなものがありますか?

「例えば、美容医療の無料体験。店員に『若くてきれいなお肌ですね~!』とおだてられた後、『でも見えないところで角質化していますね…』『新陳代謝が悪いみたい』などと言われ、怖くなって高額商品を購入してしまうといった話はよく聞きます」

契約トラブル

「他には、いわゆる『デート商法』と呼ばれるケースも非常に多いです。ネットを介して異性と知り合い、いざ会ってみると『今日、あのブランドの展示即売会があるんだけど一緒に行かない?』などと誘われる。相手に嫌われたくないので、『金欠だから嫌だ』なんて断れませんよね。そうして流されていくうちに、高額な商品にサインをしてしまうんです。人生の中で一番異性に対する興味がある時期ですので、余計に引っかかりやすいのかもしれませんね」

サインする前に確認を。菊地先生に聞く、契約チェックポイント

さまざまな契約の中でも、最も身近な「携帯電話」と「クレジットカード」の契約。初めて自分で契約する人は、どのようなところに気をつけたらいいのでしょうか。

携帯電話の契約

携帯電話の契約

では、契約する際に確認すべきことを教えてください。例えば、携帯電話の契約をする際はどんなことに気を付ければいいのでしょうか?

「実は、携帯電話の契約って複雑なんです。機種本体を買う『売買契約』と、電話やメール、アプリの使用といった目に見えない『サービス契約』。この2つの契約が複合されたものが、携帯電話の契約です。

自分が契約しようとしているプランが、

  • 自分に合っているか、有利か不利か
  • オプションはいつ解除できるのか
  • オプションを付けたままだとどうなるのか

サインをする前に、しっかりと確認することが必要です。

成年に達し、初めて自分で行う契約行為は、いわゆる『はじめてのおつかい』のようなもの。初めのうちは、経験のある大人について来てもらったり、親に相談したりしながら進めるのがいいと思います。大人のアドバイスをもらうことは、臆病でもなんでもありません!」

請求・料金の仕組み

機種代金や料金プランについて、ソフトバンクの請求・料金の仕組みをわかりやすく説明しています。

クレジットカードの契約

クレジットカードの契約

なるほど。では、クレジットカード契約や証券口座の開設などの場合はいかがでしょうか?

「クレジットカードは、現金を出さずにものが手に入ってしまう魔力がありますよね。契約にあたっては、自分が毎月いくらなら払えるのかを知ることが大切。毎月必要な生活費はいくらで、いくらまで自由に使えるのかといった計算をして、考えて使う経験を積むことが必要です。

証券口座の開設に始まる投資については、なかなか難しいものだと考えています。日本の学校では、お金の使い方や銀行の細かい仕組みを教えてくれません。開設した後の運用を適切に行うためには、まずはいろんな知識を仕入れるべきです。自分で正しい投資判断ができるようになるまでは、手を出さない方がいいのではないでしょうか。大人だって、それで引っかかってしまう人がたくさんいるのですから」

契約のリスクを回避するためのチェックポイント

ずばり、「危険な契約」の特徴を教えてください。

「まず、『自分が内容を理解できない契約』には、決してサインしないこと。
セールストークを全て信じて契約するのはとても危険です。実際に自分の目で契約内容を確認し、品物を見て、『これは良い商品で自分に必要なものだ』と確信してからサインしましょう。もし理解できなかったら、その先に進んではいけませんよ。自分の口で説明できない契約は、まだ自分には早いのだと思って、もっと経験を積んでからにしましょう。それに、そもそも理解できないような怪しい契約の可能性もあります。

また、『リスクをきちんと教えてくれない契約』もしない方がいいと思います。どういう条件でその契約から離脱できるのか、また違約金が発生する条件とその額を事前に確認することが大切です」

契約前にチェック!安全な契約を行うための4カ条

  • 契約を理解できているか
  • その契約は自分に必要で、お金を払う価値があるか
  • 契約から離脱する際の条件は明確か
  • 金額や支払いのスケジュールは、自分の身の丈に合っているか

自分を守れるのは自分だけ!親子で備えを万全に

もし契約トラブルに遭った場合、どのように対処したらいいのでしょうか?

「『あれ?』と思ったら、なるべく早く専門家に意見を聞くことです。消費生活センターはもちろん、自治体には無料法律相談の窓口もあります。時間が経てば経つほど、証拠がなくなったり時効の問題が出てきたりして不利になるので、速やかに相談してくださいね」

自分を守れるのは自分だけ!親子で備えを万全に

最後に、これから18歳を迎える人に向けてメッセージをお願いします!

「成人になるというのは、権利が増えるということ。自分が持つ社会的な力が強くなって世界がぐっと広がり、楽しいことがたくさん待っています。しかし社会は、あなたを騙そうとしている魑魅魍魎が罠を仕掛けて待っている場所でもあります。ぜひ、自分で自分を守れるように武装してください。早いうちから、社会やお金の仕組みが分かりやすく書いてある本を読んで勉強するのは良い手です。

そして親御さんは、お子さんに、学校では教えてもらえない社会やお金の話をしてあげてください。私の父は『子どもは金の心配なんかしなくていい。俺に任せておけ!』というタイプでした(笑)。しかし、これはもう古い考えだと思うのです。お子さんがこれから先、自分の力で生きていけるように、親子で準備をしていきましょう」

(掲載日:2022年3月11日、更新日:2022年4月1日)
文:山田宗太朗
編集:エクスライト