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5Gの実力を引き出すカギ。Beyond 5Gを見据えた新技術 「SRv6 MUP」

5Gの実力を引き出すカギ。Beyond 5Gを見据えた新技術 「SRv6 MUP」

皆さん、たくさんの人が集まる場所でスマホの通信が遅かったりつながりづらかったりするのを経験したことはありませんか。

1つの場所で一斉にスマホが使われると、急激なトラフィックの増加でネットワークが混雑して通信しづらい状況が発生することがありますが、これはインターネットの世界全体でも同じことが言えます。
生活のあらゆるものに直結するインフラとしてこれからもさらに増え続けるモバイルの通信を快適に届けるため、ソフトバンクが開発したのが「SRv6 MUP」という技術。

「SRv6 MUP」とはどんな技術なのか、ソフトバンク株式会社のテクニカルマイスター 松嶋聡に話を聞きました。

松嶋聡

松嶋 聡

ソフトバンク株式会社 テクノロジーユニット エンタープライズ・アーキテクチャ室所属。インフラ分野のテクニカルマイスターとしてSRv6,MPLS,経路制御関連などインフラネットワーク構築に従事。MPLS JAPAN実行委員/IETF WG Co-chair(Distributed Mobility Management WG)/3GPP CT4 ラポータ(FS_UPPS)/SRv6研究会 主宰 も務める。

モバイル通信の概念を変える「SRv6 MUP」

「SRv6 MUP」とは何でしょうか?

松嶋聡

「SRv6 MUP」は、簡単に言うと高速なモバイル通信で、同時にたくさんのサービスを効率的に利用するための技術です。
SRv6の「SR」は、セグメントルーティングの略で、ネットワーク上でデータをパケットに包んで効率的に届けるために最適なルートやパケット転送方法を選択する経路制御技術です。
このセグメントルーティングの技術を、データを送る際の宛先アドレスにIPv6アドレスを用いて実現するのが「SRv6」。そしてこのSRv6をモバイル通信(Mobile User Plane)に応用したものが「SRv6 MUP」と呼ばれる技術です。

なぜこの技術が必要なのでしょうか?

松嶋聡

ソフトバンクがおうちのWi-Fiとして提供している「SoftBank Air」のように、最近は自宅でも固定回線の代わりにモバイル回線を使用するユーザーも増えてきています。

インターネットにつながる機器が増え、通信量やアプリケーションの種類も増えていく中で、モバイルの通信規格としては高速大容量・低遅延の通信が可能な5Gが導入されましたが、その性能を十分に生かしていくためには、ネットワークの仕組みを固定回線と同じように効率的な形にする必要があります。

固定回線と同じような仕組みとは?

松嶋聡

実は、モバイル回線でインターネットに接続するのと、固定回線で接続するのでは、データが届く経路や仕組みが異なります。

たとえば、固定回線で動画を送る場合。PCで動画を送信すると、動画は分割されたパケットに包まれて、光ファイバーを通ったあと、ネットワークの入り口にあるルーターから出口のルーターまで、バケツリレーのようにルーターからルーターへパケットが運ばれて、最も短い経路でパケットに書かれた受信者の宛先アドレス(IPアドレス)に送り届けることができます。

このネットワークは複雑に接続された、たくさんのルーターで構成されているのですが、ルーター同士がお互いに連携し合うことで、受信者の近くのルーターへの最適なルートを見つけ出し、受信者の端末に無駄のないルートでデータを届けることができます。また、ネットワークのどこかで故障が発生した際にも、ルーターが自動的に別のルートを選択して通信を再開できるなど、いわば分散的で弾力性のある仕組みとなっています。

モバイル回線の仕組みは違うのでしょうか。

松嶋聡

モバイル回線では、スマホから動画を送信するとデータは固定回線と同じように分割されてパケットに包まれ、電波に乗って基地局に届いた後、大きな回線交換機のような、モバイル通信専用の設備に送られます。スマホが移動しても、この交換機が移動先の基地局へ次々とスマホの回線を張り替えてくれるので通信を続けることができます。このためパケットは必ずこの交換機を通らないといけないのですが、たとえばパケットの宛先アドレスが同じ町内であったとしても、交換機が隣町にしかなかったら、わざわざ隣町を経由しないとパケットを送り届けることができません。

このような構造は、今後MECやネットワークスライシングと言った次世代の技術を導入する際に大きなボトルネックになります。

MECとはどんな技術でしょうか。

松嶋聡

固定回線の通信が、送信者や受信者の近くのルーターを介して行われているという話を先ほどしました。それと同じように、モバイル通信にも通信相手の端末やサーバーの近くまでモバイル回線からアクセスできる機能を持たせることで効率的な通信を実現する、という技術です。

たとえば、スマホでクラウド上のサービスなどを利用する際、インターネット上にあるサーバーやデータセンターなどにアクセスしてデータのやりとりを行いますが、場合によってはそのデータの行き来や処理によって遅延が発生します。そこで、近くの基地局や通信事業者の設備に設置しているコンピュータでデータ処理(=エッジコンピューティング)を行うことで瞬時に情報をやりとりできるようになり、たとえば、アプリのサクサク感を上げることができます。

しかし交換機に通信を集約する今までのモバイル回線のままでは、近くのコンピュータをうまく活用するのがむずかしいところです。

では、ネットワークスライシングとはどんな技術でしょうか。

松嶋聡

通信を行う際の通信経路や電波など、通信に必要なものを資源のセット(スライス)と捉えて、接続やサービスの用途別に資源の割り振り方を制御する技術のことです。

これまでのモバイル通信は、通話や動画配信などのアプリケーションの違いを特に区別せず同じ通信資源で運んでいました。つまり、扱うデータはすごく小さいけれど遅延を小さくしたいアプリが、同じ通信資源の中にいる別の大容量動画配信アプリにデータが押しのけられてしまって品質が安定しない、といったことが起きやすい状態でした。

これを、大容量の動画視聴なら高帯域通信、機器の遠隔操作なら遅延の少ない通信など、用途に合わせたスライスという仮想的な通信資源のセットに分割して、アプリケーションに最適なスライスを割り当てることで、ネットワークの利用効率を上げて、快適な通信を実現する、という考え方です。

ネットワークスライシングで通信資源の分割が可能になると、分割して独立したスライスがネットワーク上のあちこちに作られるようになります。そうすると今度は、独立したスライスをつながなければ、うまくスライスを利用することができません。

このMECとネットワークスライシングを活用するために、「SRv6 MUP」が大いに役立ちます。「SRv6 MUP」は、モバイル回線の張り替えをモバイル専用交換機と同様に、ルーターも行えるようにします。さらにネットワークの中のスライスとMECを自動的につなぎ合わせて、アプリと端末の間でデータがたどり着くためのルートや制御を自律分散的に最適化することができます。

SRv6の全国展開を完了

ソフトバンクでは、2022年4月に「SRv6」技術の商用ネットワークへの全国展開を完了。さらにSRv6の新機能である「SRv6 Flex-Algo(フレックスアルゴ)」によるネットワークスライシングの商用ネットワークへの導入を開始しており、5Gネットワークのさらなる効率化・高機能化実現に向け取り組みを加速しています。詳しくはプレスリリースをご覧ください。

MWC Barcelona 2022でデモンストレーションを実施

2022年2月にスペイン・バルセロナで開催された世界最大級モバイル展示会「Mobile World Congress Barcelona 2022」(MWC Barcelona 2022)で、ソフトバンクはパートナーのIntel CorporationやVMware, Inc、およびArrcus, Inc.と共に、SRv6 MUPのデモンストレーションを展示しました。

MWCで展示されたSRv6 MUPに関する動画をご覧いただけます。

動画をみる

ソフトバンクの研究開発

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ソフトバンクは、「Beyond Carrier」戦略で生み出す新しい体験や暮らしの実現に向け、通信をベースとしたさまざまな先端技術の研究・開発に挑戦し続けています。

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(掲載日:2022年5月19日)
文:ソフトバンクニュース編集部