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フォントを変えるだけで学びが変わる。教育現場から広がる見やすさへの配慮

フォントを変えるだけで学びが変わる。教育現場から広がる見やすさへの配慮

政府のGIGAスクール構想推進に向けた取り組みで、ソフトバンクはUDフォントの一種「UDデジタル教科書体」の活用を推奨しています。このフォントはより多くの人に読みやすいことが特長ですが、普通のフォントと何が違うのでしょうか? 今回、「UDデジタル教科書体」の開発企業の担当者や教育現場の先生にお話を聞き、その有効性や実践事例に迫りました。

GIGAスクール構想とは?

教育現場でのICT環境の実現を目指す文部科学省の取り組み。学校の通信ネットワークと、1人につき1台の情報端末を整備し、教師・児童生徒の力を最大限に引き出すことを目的としています。
「GIGA」は「Global and Innovation Gateway for All(全ての児童生徒のための世界につながる革新的な扉)」の略。

GIGAスクール構想とは?

社会的背景から読みやすさを追求したフォントが誕生

GIGAスクール構想によって、2020年度から、全国の小中学生に1人1台のパソコンやタブレットが届けられるICT教育が推進されています。ソフトバンクもGIGAスクール構想に沿った事業を展開しており、学校や自治体、教育委員会に向けてサービス提供や支援をしています。

この事業では、ソフトバンクが手掛ける端末で「UDデジタル教科書体」というフォントの活用が推奨されています。このフォントはより多くの子どもたちに学びやすい書体として作られていますが、特に読み書きに困難さを抱える子どもたちにとって、視認しやすい工夫がなされているそうです。まずは以下の図をご覧ください。

社会的背景から読みやすさを追求したフォントが誕生

このように「UDデジタル教科書体」では、文字に丸みを持たせたり、文字の中のスペースを広く取ったりするなどして、判読のしやすさを最重要視しています。

この「UDデジタル教科書体」を開発したのは、株式会社モリサワという老舗のフォントメーカー。同社は、15年前から視認性の高さを追及したUDフォントの開発を手がけているといいます。開発を始めたきっかけは、「将来、老眼の人が増加する高齢化社会」に備え、フォントを提供する会社としての役割を考えたからだそうです。

UDフォントのラインアップを開発していく中で、老眼だけでなく、社会的弱者になりうるさまざまな課題に対応していった結果、2016年に学校の教科書や試験問題での利用を想定した「UDデジタル教科書体」が誕生。教育現場にも届けられることになりました。

「UDデジタル教科書体」については、モリサワ社のサイトで詳しく紹介されています。

ICTの活用を通じ、子どもたちみんなが学びやすい環境の実現を

ICTの活用を通じ、子どもたちみんなが学びやすい環境の実現を

ソフトバンクがGIGAスクール構想で提供するサービスを検討していく中で、生徒や教師が手にしたときの使いやすさは、大きな課題のひとつでした。中でも毎日画面をのぞき込む端末の「文字の視認性」は、重要なテーマになりました。フォントの選び方ひとつで、生徒の負担は大きく変わってしまうからです。

ソフトバンクのGIGAスクール構想に関するの取り組みについてはこちらの記事でも紹介しています。

もうひとつ、フォントの選定ではGIGAスクール構想の本来の目的である「多様な子どもたちを誰一人取り残さない」ことも重要なポイントでした。ソフトバンクではGIGAスクール構想の取り組み以前より、ICT教育の事業を行ってきた経験から、文字を判読しにくい生徒が一定数いることを認識していました。どんな生徒にとってもできるだけ見やすいフォントを用意するために白羽の矢を立てたのが「UDデジタル教科書体」をはじめとしたUDフォントだったのです。

ソフトバンクで各地の教育現場でのICT化の支援に取り組む西郷は、それらのフォントを活用する意義について次のように話します。

西郷龍太郎

ソフトバンク株式会社
公共事業推進本部 公共事業推進統括部 教育ICT推進部
西郷龍太郎

「ICTの活用を通して、子どもたちみんなが学びやすい環境を実現すること。これはテクノロジーを本業とする私たちの使命だと考えています。当社全体として、SDGsの達成に向け注力しておりますが、「UDデジタル教科書体」を普及させていくことは、この目標に沿うものであると考えています。

また、ソフトバンクでは社会貢献活動の一環として、東京大学先端科学技術研究センターとソフトバンクが共催する、ICTを活用した障がい児の学習・生活支援を行う実践研究プロジェクト「魔法のプロジェクト」を通して、学ぶ上での困難を持つ子どもの学習や社会参加の機会を増やすことに取り組んできました。実はUDデジタル教科書体のことを知ったのは、魔法のプロジェクトがきっかけとなっています」

次ページでは、実際に「UDデジタル教科書体」をはじめ、UDフォント全般を教育現場で使用している先生方と開発したモリサワ社の担当者にフォントの有効性をお聞きしています。

「誰も取り残さない」環境づくりの第一歩

「誰も取り残さない」環境づくりの第一歩

「UDデジタル教科書体」はじめ、UDフォント全般を教育現場に導入し、授業で使用している先生と、それらのフォントを開発したモリサワ社の担当者にフォントの有効性について伺いました。

今回、お話を聞いたのは

小﨑 誠二(こざき・せいじ)さん

奈良教育大学教職大学院
准教授 小﨑 誠二(こざき・せいじ)さん

中山 めぐみ(なかやま・めぐみ)さん

広陵町立真美ケ丘中学校
教頭 中山 めぐみ(なかやま・めぐみ)さん

橋爪 明代(はしづめ・あきよ)さん

株式会社モリサワ 公共ビジネス課
係長 橋爪 明代(はしづめ・あきよ)さん

フォントの力に気づき、教育現場が動いた

教育現場でフォントに着目したきっかけを教えてください

小﨑さん

現在、私は教職大学院で教鞭をとっていますが、数年前に奈良県教育委員会に勤務し、高校入試の担当をしていたとき、とある中学校の先生から「高校入試の問題について、もっと視認性の高いフォントを使ってほしい、何とかならないだろうか?」という相談を受けたことがありました。視覚に困難を抱える生徒の受験に関しては、それ以前から課題にはなっていましたが、フォントを合理的配慮として意識するきっかけになりました。

  • 障がいのある人から、社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられたときに、負担が重すぎない範囲で対応すること。
    出典/「合理的配慮」を知っていますか?(内閣府)

中山さん

私は特別支援教育に長く携わってきた関係で、「UDデジタル教科書体」が登場する以前から、読みづらさを抱える生徒の指導の際は、フォントなどの見え方について、特に気にして配慮していました。

一方で、私の子どもが高校入学後、なかなか成績が上がらないことがありました。彼女に話を聞くと、「問題が“見えない”」と言うのです。試験問題を何枚か出してきて、UDフォントなら問題が見える。でも、他のフォントを使った問題は、読み進めることさえもつらいと言い、病院で調べてもらったところ、目に過敏の症状があることが分かったのです。わが子のように視覚に困難を抱える子どもが、通常学級の中にもいるのだということを、このとき改めて思い知らされました。

課題解決の手段として、UDデジタル教科書体を導入したのですね。

小﨑さん

先ほどの相談のあと、フォントについて調べていく過程で、「UDデジタル教科書体」の存在を知りました。2017年、まず手始めに奈良県立教育研究所でUDデジタル教科書体及び、UDフォントのラインアップを採用しました。その結果が良好だったため、2018年には奈良県内市町村立の学校全てに紹介をはじめました。

先ほども言いましたが、導入以前は、文字を大きくしたり、印刷する紙の色を変えるといった配慮はしていました。フォントについては、あくまでデザイン性の観点だけだったので、「読みやすさ」という重要な観点に気づかされました。

中山さん

奈良県でのこの導入の速さに「奈良県やるじゃない!」と思っていたのですが、その英断をされたのが小﨑先生だと、今知りました(笑)。

フォントへの配慮が、子どものモチベーションにつながる

TVのテロップや企業の発表会資料など、さまざまなところでUDフォントの活用が広がっているそうですが、認知が広がった要因はなにかあるのでしょうか?

橋爪さん

2016年に「障害者差別解消法」という法律が施行されました。この法律の趣旨は、「私にはこういう配慮が必要です」という意思表示があった場合、役所や事業者はその人のための配慮をしましょうというものです。UDデジタル教科書体は時を同じくしてリリースされました。

この法律によって学校の先生や自治体の職員の方の、障がいに対する意識を変えるきっかけになり、視覚に問題を抱える人にとっては「UDフォントだと読めます」と言いやすい環境につながったと思っています。

中山さん

UDフォントを導入する前、ある生徒がUDフォントが使われている他校の問題用紙を見たときに、「この学校の子どもたちは幸せですね。読みやすいフォントを選んでくれている、それだけで応援してくれていると感じられる」と言われたことが、今でも忘れられません。そのくらい読みやすさというのは大きなことなんです。子どもたちがフォントの見やすさを気にしていることを、大学側にも知っていただき、入試でも配慮があればと思ってしまいます。

小﨑さん

こうした話をお聞きしても、読みやすいフォントの導入は、もうやる、やらないの選択ではなく、誰もが使える環境にすることが必要だと思いました。電気、水道、ガス、インターネットというインフラのようなもので、フォントは、生活の中で実はインフラに近い存在になっているのではないかと感じています。

私たち教員だけでなく子どもたちも、UDフォントの存在を知ったことで、自治体や学校の印刷物だけでなく、ペットボトルのラベル、テレビのテロップなど、日常生活の中で使われているあらゆるフォントに対しても意識が向くようになりました。

橋爪さん

ありがとうございます。涙が出そうになるくらい励みになります。

奈良県はフォントに対する取り組みが進んでいるようですが、全国的にはどうですか?

小﨑さん

今は、奈良県でも、教育現場で「UDデジタル教科書体」を使うことを試行錯誤をしている過渡期の段階ですが、全国的にも認知は広がっていると思います。

今後は、たくさんあるフォントの中から、生徒自身が意識的に用途に合わせたいろいろなUDフォントを選んで発表資料を作るという段階に至れば、本当の意味での普及だと思います。それまでは、教員研修を通して関心をもってもらうようにするなど、いろいろな工夫をしなければならないと考えています。

橋爪さん

以前、小﨑先生からとても印象的なお話をいただきました。

「例えばクラスに文字の読みづらさを感じる生徒が1割いたとして、UDフォントでそれが解消するのであれば、どんなフォントでも見える9割の生徒にもUDフォントを使ってもらえばいいわけです」

そのとき私は、文字の見えづらさを持つ子どもたちにも平等にチャンスが広がる未来を想像しました。短期的なことではなく、10年単位の長期的な視点で決断をする教育委員会がある自治体は、とても強い人材育成につながるのだろうと、感動したことを思い出しました。

フォントを選ぶという配慮をもっと社会に

フォントを選ぶという配慮をもっと社会に

今後の教育現場におけるUDデジタル教科書体への期待をお願いします

小﨑さん

フォントがコミュニケーション手段の重要な要素であることを、先生たちには広く知ってほしいと思います。フォントを選んで使うという、たったそれだけのことで、文字が見づらい人たちへの配慮になりますので、積極的に活用してほしいですね。

「教科書体」という名前によって、学校で使うものという認識になりやすいかと思いますが、本来フォントというものは、「文化を創る=情報そのものの根幹」として社会に浸透していくものだと思っています。今は学校教育がきっかけになってはいますが、将来はあらゆる場面で、「UDデジタル教科書体」をはじめとしたUDフォントのラインアップが使われるようになると良いですね。

中山さん

学校の配布物を見ると、だんだんと「UDデジタル教科書体」が増えていることを実感しています。小﨑先生に同感で、生徒に与えるのではなく、自分たち自身でフォントを選ぶ力を育てていきたいと思います。まずはこれらのフォントを使える環境を整えて、生徒に実践してもらう中で、先生たちも一緒に学んでいけたらと思います。

橋爪さん

小﨑先生、中山先生からとても良い課題をいただきました。今後も教育現場の先生方に「UDデジタル教科書体」及び、UDフォントを知ってもらう機会をどんどん作っていきたいです。フォントの使い方だけでなく、特性や有効性も含めて伝えていくことを、ソフトバンクと一緒に取り組んでいきたいと思います。

「UDデジタル教科書体」が広がっていくことに期待したいですね。未来あるお話をありがとうございました。

(掲載日:2022年8月8日)
文:ソフトバンクニュース編集部

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