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空から届ける通信サービスの実用化へ一歩前進。係留気球基地局による実証実験に成功

空に浮かぶこの物体、何か分かりますか? 実はこれ、携帯電話の基地局を搭載した係留気球なんです。
現在ソフトバンクでは、成層圏通信プラットフォーム「HAPS」の実用化に向けて、上空から安定した通信を届けるための技術開発に取り組んでいます。5月にこの係留気球を使って行われた「フットプリント固定技術」の実証実験もその一つ。なぜHAPSに「フットプリント固定技術」が必要なのか、今回の実験についてソフトバンクの技術担当者に解説してもらいました。

話を聞いた人

星野 兼次(ほしの・けんじ)

ソフトバンク株式会社 テクノロジーユニット 基盤技術研究室 無線技術研究開発部 無線伝送研究開発課
星野 兼次(ほしの・けんじ)
フットプリント固定対応アンテナの設計、ペイロード装置開発、ペイロード試験を担当

西巻 卓哉(にしまき・たくや)

ソフトバンク株式会社 テクノロジーユニット 基盤技術研究室 無線技術研究開発部 無線制御研究開発課
西巻 卓哉(にしまき・たくや)
高高度係留気球(ST-Flex)の調達、実証実験の環境構築や整備、実証実験の進行管理を担当

基地局が大空を移動し続けることで通信エリアが切り替わる? 上空からの安定した通信を実現する「フットプリント固定技術」

普段皆さんは、電車や車に乗っている時でも携帯電話は使えますよね。
これは、移動に合わせて距離が遠くなり電波が弱くなった基地局から、より強い電波を受信できる基地局へ自動的に接続先を切り替える「ハンドオーバー」という仕組みによるものです。

HAPSでは、受信側ではなくHAPS自身が上空を移動し続けることで、このハンドオーバーが発生します。HAPSは、上空で旋回しながら通信ネットワークを届けます。しかし、その動きに伴い電波の向きが変わることで地上の通信エリア(フットプリント)も移動し、端末が接続するセルが切り替わったり(ハンドオーバー)、受信レベルが大きく変動したりして、通信品質が不安定になるという課題がありました。

基地局が大空を移動し続けることで通信エリアが切り替わる? 上空からの安定した通信を実現する「フットプリント固定技術」

この問題を解消するためには、HAPSが移動しても電波の向きを一定方向に保ち地上の通信エリアが切り替わるのを防ぐ「フットプリントの固定」が必要になります。
そこで「フットプリント固定技術」を実現するため、ソフトバンクとHAPSモバイルが世界に先駆けて開発してきたのがシリンダー型のアンテナ。円筒形のアンテナに複数のアンテナ素子を配置した特長的な形状になっています。

基地局が大空を移動し続けることで通信エリアが切り替わる? 上空からの安定した通信を実現する「フットプリント固定技術」

アンテナ素子一つ一つを個別に制御することで、任意の方向にビーム(セル)を向けることができるようになっています。機体の旋回に合わせて常に同じ地上の特定のエリアに対してビームを発信することで、通信エリア(フットプリント)を固定することが可能となりました。

シリンダアンテナ

このように、フットプリント固定技術は上空から安定的に通信サービスを提供する上で必要不可欠な技術です。

今回の実証実験では、HAPSと同様に、回転したり揺れたりする係留気球にこのシリンダーアンテナを搭載し、通信状態を検証しました。

広範囲にわたり安定した電波レベルを確認。フットプリント固定の検証に成功

実験は、成層圏から通信ネットワークを提供するプラットフォーム「HAPS」向けに開発中の通信機器を、ソフトバンクグループ株式会社が出資する米国Altaeros Energies, Inc.(アルタエロスエナジーズ、以下「Altaeros」)の高高度係留気球「ST-Flex」に搭載し、上空約249mからの通信実験に挑むというもの。2022年5月、北海道の大樹町多目的航空公園で行われました。

Altaeros 高高度係留気球「ST-Flex」

Altaerosの高高度係留気球「ST-Flex」

広範囲にわたり安定した電波レベルを確認。フットプリント固定の検証に成功

フットプリント固定技術を実現するシリンダー型のアンテナを「ST-Flex」に搭載します。

広範囲にわたり安定した電波レベルを確認。フットプリント固定の検証に成功

シリンダーアンテナが搭載されているのは、「ST-Flex」の下部中央のふくらみの辺り。

広範囲にわたり安定した電波レベルを確認。フットプリント固定の検証に成功

「ST-Flex」が上空に上がったところで、地上4.5km離れたエリアから電波の受信レベルを測定します。

広範囲にわたり安定した電波レベルを確認。フットプリント固定の検証に成功

こちらは車内の様子。受信レベルの安定性などを見て、フットプリント固定機能の正常性などを確認しています。

広範囲にわたり安定した電波レベルを確認。フットプリント固定の検証に成功

広範囲にわたって電波レベルを測定。フットプリント固定技術によって、安定した通信エリアを生成していることを検証しました。

広範囲にわたり安定した電波レベルを確認。フットプリント固定の検証に成功

星野

「こちらのグラフは今回の結果の一例です。左側のフットプリント固定技術を使わなかったときと比べ、フットプリント固定技術を活用した場合は、係留気球の動きの影響が少なく、電波の受信レベルがほぼ一定であることが見てとれます。また、エリアが切り替わることなく固定されているため、機体が大きく動いても端末と通信する基地局の切り替えを行うハンドオーバーが一切発生していないことも確認できました」

実験の注目ポイント3つ

今回の実験では、フットプリントの固定以外にも、気球の制御や通信についてもさまざまな試みが行われていました。ポイントを担当者に聞きました。

①AIで制御して安定係留を実現

①AIで制御して安定係留を実現

西巻

「係留気球を地上のステーションとつなぐ、3本の係留索と呼ばれるロープをAIで制御しています。AI制御により風速や風向きに応じてステーションを回転させる自律飛行を行うことで、係留索が絡まることなく安全に飛行することが可能に。また、風速の変化や強風の場合にも、係留気球を一定の高度で維持し、安定して運用することができました」

②過去最大の高さから、より広域の通信エリアの構築を実現

②過去最大の高さから、より広域の通信エリアの構築を実現

西巻

「ソフトバンクはこれまで、災害時の通信エリアの復旧などを目的として、係留気球を使った無線中継システムの開発や実用化を進めてきました。それらが上空100mで行っていたものに対し、今回は航空法に基づいて249mに係留していますが、最大305mでの係留が可能です。過去最大の高度で係留することで、より広域の通信エリアの構築を実現しました」

③飛行自体がオートパイロット!

③飛行自体がオートパイロット!

西巻

「最後のポイントは、Altaerosのオートパイロットシステム「Aerostat Autopilot™」で行っているという点。これにより、運用に関わる人員を削減できています。フライト中は、PC画面で気球やステーションの状態をリモートで監視しました」

今回の実験では、フットプリント固定技術が安定した通信エリアを実現できることが実証されました。無線技術研究開発部ではさらに、フットプリント固定技術の応用技術として、シリンダーアンテナを用いてエリア内の通信トラフィック分布などに応じてビーム方向などを最適化することで通信品質の改善を図る「エリア最適化技術」の研究開発にも取り組んでおり、無線伝送研究開発課の柴田洋平が無線通信システム研究会で奨励賞を受賞しています。

エリア最適化技術により、サービスが必要な通信エリアに対してビームを集中させることができるため、災害時やイベントなどにより通信トラフィックの分布が変化した場合などにも対応することができます。

ソフトバンクは今後もHAPSの実用化と高度化に向けて研究に取り組んでいきます。

今回の実証実験に関する詳細は、以下のプレスリリースをご覧ください。

フットプリント固定技術を活用した高高度係留気球基地局の実証に成功 ~実証実験のデータを災害対策や成層圏通信プラットフォーム(HAPS)向けに活用することを検討~(2022年6月22日 ソフトバンク株式会社)

成層圏通信プラットフォーム(HAPS)の商用化に向けて安定した通信エリアとネットワーク構築への取り組みについて ~HAPSの研究成果が評価され、一般社団法人電子情報通信学会から奨励賞を受賞~(2021年9月2日 ソフトバンク株式会社 )

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(掲載日:2022年8月24日)
文:ソフトバンクニュース編集部

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