皆さんはビジネスで使う敬語をどのように学びましたか。本やネットで調べたり、アルバイトの経験から学んだり、もしくはマニュアルに書かれた言葉などさまざまかもしれません。最近はいわゆる「アルバイト敬語」と呼ばれるものなど、従来決められた言葉遣いとは異なる日本語が浸透してしまっているケースもあるようです。
最近はメールに加え、LINEやSlackなどのコミュニケーションツールも増え、敬語マナーも変わりつつあります。そこで皆さんがよく使う、ビジネスで知っておくと役立つ敬語や変わりゆくコミュニケーションのマナーについて、マナーコンサルタントの西出ひろ子さんに伺いました。
ビジネススタイリスト・マナーコンサルタント
西出ひろ子(にしで・ひろこ)さん
ウイズ株式会社代表取締役会長・HIROKO ROSE株式会社代表取締役社長。企業研修やコンサルティング、講演やセミナーなどを行い、実践的でわかりやすく結果を出す『人材育成』に定評がある。NHK大河ドラマやCM等のマナー監修も多数務め、国内外における著書監修本の累計は100万部を突破。
西出さんの著書「ビジネスの基本とマナー」
ビジネスの基本とマナーを図解でわかりやすく紹介した一冊。ビジネスパーソンがマナーを学ぶ意味から、新入社員がこれから直面する、あらゆるシーンでのマナーあるふるまいについて詳しく解説。本書には、間違えやすい敬語・日本語を正しく言い換えた事例も多数掲載している。
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目次
- 敬語を使う=“言葉の思いやり”。相手がどう感じるかを考えよう
- 敬語は尊敬語・謙譲語・謙譲語II・丁寧語・美化語の5種類
- メール・ビジネスチャットでよく使う敬語
- 利用機会が増えたビジネスチャット。短文でも相手を敬う気持ちが大切
敬語を使う=“言葉の思いやり”。相手がどう感じるかを考えよう
ビジネスで当たり前のように使っている敬語は、使い方によって相手が受け取る印象や判断を大きく変えてしまいます。今回は、皆さんの中で使っている敬語を「あいさつ編」「会議・打ち合わせ」の二つに分けて紹介します。
敬語は「言葉のマナー(思いやり)」と言える重要なコミュニケーション手段です。敬語はこうと決められたことが必ずしも正しいというわけでもありません。
暗記するのではなく、相手が受け取る印象などを考えて配慮することが大事です。
よく使う敬語① あいさつ編
①「お久しぶりです」
言い換えるなら…「ご無沙汰しております」
使ってはいけない言葉ではありません。しかし、目上の方やお客さまに対しては、相手がどう捉えるか分からないので、より丁寧な「ご無沙汰しております」が一般的には良しと言われています。
②「わざわざ来てもらって、すみません」
言い換えるなら…「ご足労くださり、ありがとうございます」
「来て」「もらって」を敬語に言い換える必要があります。また、「すみません」には謝罪や感謝の念を表す意味が含まれ、どの意味を伝えているか分かりにくいため使うのは避けましょう。
③「お体をご自愛くださいませ」
正しくは…「ご自愛くださいませ」
相手を思いやる言葉ですが、多くの人が間違いを起こしやすい事例です。「ご自愛」という言葉には「お体を」という意味も含まれているので、二重の意味にならないように「ご自愛くださいませ」で良いのです。
④「どちらさまでしょうか?」
言い換えると…「お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
相手によっては、唐突に「どちらさま」と言われると上から目線で不快に感じる人もいらっしゃいます。初めての相手に使うフレーズなので、失礼だと思われないように言い換えましょう。
⑤「大丈夫です」
大人なフレーズを使うと…「問題ございません」
この言葉自体は悪いものではありませんが、相手との関係性によって使い分けが大切。ビジネスシーンや目上の相手に対しては、より大人のフレーズ「問題ございません」が無難です。
よく使う敬語② 会議・打ち合わせ編
①「どうぞお座りになってお待ちください」
より丁寧に言うなら…「どうぞお掛けになってお待ちください」
「座る」という言葉を敬語にする場合は、「お座りになる」よりも「お掛けになる」と言い換えると大人感が増します。
②「了解しました」
相手によってはNG、言い換えるなら…「承知しました」「かしこまりました」
日本語として間違いではありませんが、相手の受け取り方に配慮しましょう。部下が上司に対して使うと失礼だと受け取られる場合があるので、「承知しました」「かしこまりました」がベターです。
③「その件を説明しますと…」
丁寧な言い方であれば…「その件につきましては、私からご説明いたします(させていただきます)」
前置きを述べてから説明をするようにしましょう。説明する相手は「皆さま・あなたさま」と言う立場なので、「ご」をつけて丁寧な言い方をします。
④「お分かりいただけましたでしょうか」
言い換えるなら…「ご不明な点はございませんか」「ご質問ありませんか」
「理解できましたか?」と捉えられ、相手に失礼な印象を与えてしまうかもしれません。相手の目線にたったマナーある言い回しに言い換えてみましょう。
⑤「なるほど」
相手によってはNG、言い換えるなら…「おっしゃる通りです」
人によっては、上から目線と捉えられがちです。「おっしゃる通りです」が、スマートかつ、敬ってもらっている印象を受けるので、相手にとって心地が良いでしょう。
敬語は尊敬語・謙譲語・謙譲語II・丁寧語・美化語の5種類
敬語は文化庁「敬語の指針」で5種類に分けられています。同じ言葉でも状況や相手との関係性によって表現が変わります。フレーズを覚え、日々使って身につけましょう。
種類 | 意味 | 例 |
---|---|---|
尊敬語 | 相手の動作や物事を高めることで、敬う気持ちを表現する。相手が主語となる。 | 来る→いらっしゃる、お見えになる 言う→おっしゃる、言われる する→なさる |
謙譲語I | 自分の動作や物事をへりくだることで相手を高める。 (動作の対象が「相手」) |
言う→申し上げる 見る→拝見する 送る→お送りする |
謙譲語II (丁寧語) |
自分の動作や物事を丁寧に表現する。 (動作の対象が「相手ではない」) |
言う→申す、申します 知る→存じる、存じます する→いたします |
丁寧語 | 丁寧な気持ちを表現する。相手を高めたり自分がへりくだったりする役割はない。 | 言う→言います 会う→会います 来る→来ます |
美化語 | 単語に「お」や「ご」をつけることで美しく表現する。外来語には使用しない。 | 名前→お名前 電話→お電話 家族→ご家族 |
引用:ビジネスの基本とマナー(学研プラス)
メール・ビジネスチャットでよく使う敬語
メールの文章にも気をつけたい敬語、言葉遣いがあります。言い回しなどを少し気をつけるだけでイメージも変わってきます。
①資料を拝見させていただきました | 「資料を拝見しました」が良いでしょう。「拝見」「させていただく」と、へりくだりすぎている印象を与えてしまいます。 |
---|---|
②おっしゃられました | 「おっしゃいました」「伺いました」とスマートに伝えることで、相手に失礼のない言い回しになります。「おっしゃる」「られる」と二重で敬語を使うのは適切ではありません。 |
③よろしかったでしょうか? | 「よろしいでしょうか?」が良い使い方です。コンビニや飲食店でも、よく耳にする言葉で、若い方が当たり前のように使いがちな言葉ですが、「よろしかった」と過去形にする必要はありません。 |
④明日お休みをいただいております | 「あいにく明日は休みを取っております」と伝えましょう。丁寧で間違ってはいませんが、ここ近年、休みは皆の権利であり、そこまで謙遜してなくても良いという風潮になっています。 |
⑤▲▲にお伝えしておきます | 「▲▲に申し伝えておきます」と書くのが正解です。社内の人間に敬語を使う、つまり身内敬語に当たるので、この使い方は間違いです。 |
先ほどのメールは以下のようにするとより適切ですね。また①から⑤以外でも、青字のような相手を気遣う文章を付け加えるとより丁寧になります。
適切な敬語を理解し、お互いを思いやることが何よりも重要です。相手に不快感を与えるような間違った使い方はNGですが、過剰になりすぎるのもかえって良くはありません。 「相手がこう言われたら、うれしいだろうな」と考えて言い換えることが、敬語マナーの大切なポイントです。
利用機会が増えたビジネスチャット。短文でも相手を敬う気持ちが大切
コロナ禍以降、友人同士やビジネスにおいても、対面ではなくオンライン上のコミュニケーションが主流になっています。LINEやSlack、チャットワーク、SNSのDM(ダイレクトメール)などが使われており、「短文でのやりとり」が増えています。コミュニケーションの方法が移り変わる現代で、恥ずかしくないためのポイントをおさえましょう。
コミュニケーションツールを使う時に心がけるべきポイントは?
ビジネスシーンでチャットなどのコミュニケーションツールを使うにあたって、気をつけておきたいポイントを教えてください。
LINEやSlackなどの短い文章のやりとりでも、「メールの基本の型」ができている上で、簡略化することが大事です。つまり、メールの基本マナーをしっかりと理解し、身につけていることで、他のコミュニケーションツールで相手から不快に思われたりしなくなります。
時代を振り返れば、手紙からメールへと移行し、頭語・時候のあいさつ・接語などが省かれ、文章も簡略化されてきました。これからは、最低限のメール文章マナーを学んだうえで、短文にうまく置き換えるということが大切だと言えるでしょう。
コミュニケーションツールでは、あいさつ文はもとより、相手の名前も省略するのが主流です。これについてはいかがでしょうか?
今は名前を書かず、メンション(@)で済ますことが増えているのをよく見かけます。ここはTPOに合わせて、「相手がどう思うか?」「相手に合わせる」ことが重要です。例えば、社内などではどの相手にも失礼にならないように「私たちのチームのやりとりでは、最初に名前を書きましょう」「このグループでは、メンションを使いましょう」などにしておくと、共通認識となり不快になるなどのマイナスを避けることができます。
取引先との最初のやりとりは、できるだけ相手の名前を書くことをおすすめします。“コミュニケーションマナーの7原則”の1つに“名前を呼ぶ”というのがあります。この一手間をかけることで、相手に親しみを持ってもらうことにもつながります。
最近増えてきたスタンプでの返事は使い方が重要
最近はスタンプ1つでコミュニケーションを済ますこともありますが、スタンプでのやりとりについてはどのような印象をお持ちですか?
個人的にスタンプは大好きで、よく使いますが、お客さまなどビジネスでのやりとりの場合は自分からは送りません。ここも“相手に合わせる”というマナーが大事。相手がスタンプを使ってきた際には、スタンプだけで返さず、「ありがとうございます」とコメントを書いてからスタンプを送るのが良いでしょう。
そうすることで、相手に軽い手抜きの印象を与えずに、チャットツールの利点を生かした円滑なコミュニケーションを図ることができると思います。
最後に、マナー講師として企業や団体への講義をされる中で、時代の変化に気づく点はありますか?
何千万円の商品を売っている営業マンでも、敬語が使えないというケースが多く見られます。言葉というのは、型を覚えるのではなく、相手を敬う気持ちを表現するものです。
大事なのは、“考動力”と“行動力”。型だけを覚えると行動だけになり、そうすると相手の心には響きません。しっかりと自分で考えてそれを言葉という形にして実行に移すこと。相手の立場に立つマナーある心からの言葉を伝えることで、相手のニーズに対応できる、すなわち、結果を出すビジネスパーソンになれますね。
単に知識としての正解を求めるだけではなく、“相手がどう思うか”を考えて言葉を伝えることで、印象もプラスになり、よりよい人間関係を築くことができるはず。ビジネスにおいても“目的を達成するためのプロセス”として言葉を選び、コミュニケーションを楽しむことを心がけたいですね。
(掲載日:2022年10月31日)
文:辰巳健太(リネイロデザイン)
編集:小林新(Roaster)、ソフトバンクニュース編集部