いま日本では、織田信長も豊臣秀吉も(たぶん)びっくり仰天の “お城ブーム” が巻き起こっています。ブームに一役買っているのが、御朱印ならぬ「御城印(ごじょういん)」。登城の記念に購入できるアイテムで、お城に縁のある文字や家紋をデザインしたものが一般的ですが、ゲームやアニメとコラボしたものなど、さまざまな種類があり、注目を集めています。さらに最近では、ARやNFTといったデジタル技術を使ったものも登場しています。
お城巡りの新たな楽しみ方として、今後ますます人気が加熱しそうな御城印の魅力を探るべく、今回は日本城郭協会理事長であり、御城印のガイド本も出版されている小和田哲男さんにインタビュー。お城巡り&御城印集めの魅力をたっぷりと語っていただきました!
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小和田 哲男(おわだ・てつお)さん
「戦国と現代をつなぐ」をテーマに戦国武将などの史実を現代に伝える歴史学者。NHK大河ドラマ「どうする家康」「おんな城主 直虎」など、数多くのTVドラマで時代考証を行う。「歴史探偵」「先人たちの底力 知恵泉」などの歴史番組では解説も担当。日本城郭協会理事長。静岡大学名誉教授。
集めるほどお城の魅力にハマる。「御城印」ってどんなもの?
御城印はお寺や神社でもらえる「御朱印」のお城バージョンのようなもので、1990年に長野県の松本城が販売した「登閣記念証」が始まりなのではないかと言われています。そんな御城印の人気は年々高まっており、限定版を求めて早朝から数時間待ちの行列ができることも。
ちなみに、御朱印との違いは、御朱印が主に寺院や神社を参拝した証として授与される印章印影のことであるのに対し、御城印は城や城跡を訪れた際に城巡りや観光の記念品として授与されるものであることです。
「御城印の魅力の1つが、工夫を凝らしたデザインです。お城に縁のある文字や家紋があしらわれていたり、紙には地元産の和紙を使っていたりと、1枚にさまざまなストーリーが込められています。また季節限定デザインやコラボバージョンが登場したりと、コレクター心をくすぐる仕掛けもたまりませんね」
御城印のデザインを通して、地元住民が地域の魅力発見!
御城印のデザインは、時にお城と地元住民をつなぐ架け橋になることも。
「御城印に使われている筆文字は、地元の書家の方によるものが多いですが、中には地元の学校に通う生徒さんが書いていることもあるんです。京都の勝龍寺城や、愛知県豊田市のお城の御城印なんかがそうですね。学生さんたちが御城印に携わることで、彼らがお城を地元の宝物として大事するきっかけになりますし、すごくいいアイデアだなと思いました」
御城印集めはお城や地域の応援にもなる!
さらに御城印にはもう1つステキな役割が。それは御城印の収益を、お城や地域を守る活動に使う仕組みです。例えば岐阜県の郡上八幡城では、御城印の収益の一部を熊本城の復興支援に寄付。また浜松城では、ウクライナ支援のための御城印を枚数限定で販売していました。中には、ふるさと納税の返礼品に御城印を、という自治体まで登場! 御城印を楽しむことが、地域や国を超えて何かの援助につながるなんて素晴らしいですね。
「御城印は1枚300円ほどなのでそんなに高価ではないんですが、たくさんの方が買ってくださればそれなりの収益になります。お城の維持ってとても大変で、建物の修繕はもちろん、草を刈ったり、人が入りやすいように整備したりとこまめなメンテナンスが必要なんです。先人たちが何百年も守ってきた歴史遺産を、われわれもできるだけきれいな形で後世に残していけたらいいですよね」
ふるさと納税のお礼品で限定御城印のある自治体も
ふるさと納税でゲットできる御城印や御城印帳もあります。中には限定のデザインのものも。ふるさと納税サイト「さとふる」はソフトバンクグループが運営するふるさと納税サイト。登録自治体は1,000以上。お礼品をランキング形式で選べるほか、「ソフトバンクまとめて支払い」や「PayPayオンライン決済」にも対応しています。
御城印について語る小和田さんの胸に光るのは「城」の文字が入ったバッジ。さらにネクタイも城柄! 全身からあふれ出る先生の “城愛” は、小学生の時に出会った江戸城から始まったそうです。
「小学校に入る少し前、父の仕事の都合で静岡から東京へ出てきて、住んだところが江戸城のすぐそばだったんです。犬の散歩をしている時に、桜田門のカッコよさや、堀や石垣のすごさに感動しました。その時すでに私の夢は『全国の城を巡ること』でしたね(笑)」
御城印はお城の歴史と共に愛でるべし。小和田さんお気に入り4選
そんな小和田さんのコレクションから、お気に入りの御城印を選んでもらいました。先生の地元・静岡県のお城から限定版のレア物まで、厳選4つを紹介します!
①カラフルな家紋から戦国武将たちのドラマを感じて【土岐 高山城跡/岐阜県土岐市】
「2020年のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』の主役だった、明智光秀に縁のあるお城の御城印です。戦国時代には武田信玄親子と織田信長の合戦の舞台になったので、明智光秀の家紋『水色桔梗(ききょう)』のほか、武田信玄・勝頼の家紋『武田菱(びじ)』、織田信長の『織田木瓜(もっこう)』がデザインされています。
当時は争っていた武将たちが、1枚の紙の上で一堂に会しているのはおもしろいですよね。また、緑色の『三つ柏(かしわ)』は、武田信玄の命で高山城を救助した平井頼母(ひらい・たのも)のもの。紙には金箔があしらわれていて高級感がありますね」
②貴重な山城の風情とロマンを1枚に【勝間田城跡/静岡県牧之原市】
「勝間田城は、15世紀中期に築城されたと考えられている、戦国時代以前の貴重なお城。私がいま一番推しているお城ですね(笑)若い頃には発掘にも参加したので思い入れがあります。
これは2022年11月に行われた式典『勝間田城趾546年祭』限定の御城印です。右上に入っている『上下向かい鶴』は城主であり歌人の勝間田長清の家紋。さらに下部には、秋の紅葉と勝間田長清の歌碑を写した写真がデザインされています。写真が使われている御城印は珍しいですね」
③武田と徳川の熾烈(しれつ)なバトルがうかがえる【諏訪原城/静岡県島田市】
「静岡県にある山城、諏訪原城(すわはらじょう)は日本100名城にも選ばれている人気のお城。白色が通常販売されているもので、黒色のタイプは国内最大級のお城イベント『お城EXPO』で過去に販売された限定版です。諏訪原城は戦国大名・武田勝頼が築城しましたが、徳川家康が攻め落として徳川のお城になったので、左上には武田家の家紋『武田菱』、左下には徳川家の『三つ葉葵』がデザインされています。真ん中の『赤鳥』は、かつて駿河、遠江を支配していた今川氏の家紋です。
このお城には『丸馬出(まるうまだし)』と呼ばれる三日月型の防御設備が見事に残っています。この丸馬出をさらに巨大化させる戦術を取ったのが、2016年のNHK大河ドラマにもなった『真田丸』ですね。『丸馬出を見たければ諏訪原城へ行け』というのはお城好きの間では有名な話なので、ぜひ見に行ってみてはいかがでしょうか」
④関ヶ原の戦いの鍵を握るミステリアスなお城?【玉城/岐阜県関ヶ原町】
「玉城はいま、『関ヶ原の合戦の鍵を握っているのではないか?』とお城好きの間で物議を醸している話題のお城。近江(滋賀県)と美濃(岐阜県)の境目にある城なので、左上には近江の武将・浅井長政の家紋『三つ盛り亀甲に花菱』が、右下には美濃生まれの竹中半兵衛の家紋『丸に九枚笹』があしらわれています。
下部に入っている屏風絵は関ヶ原の合戦を描いたもの。この絵の中に描かれているのが玉城なのではないかと言われています。ちなみに個人的には、関ヶ原の合戦より以前、浅井長政と織田信長が戦った時に信長が築城したのではないかと考えているんですけれどね」
さすが先生。御城印と一緒にお城の解説が次々に出てきます。御城印を集めることだけを楽しむのもアリですが、「せっかく御城印を集めるなら、お城自体にもぜひ興味を持ってほしい」と小和田さんは話します。
「私はよく『戦国のお城というのは知恵と工夫の足跡だよ』と話すのですが、要するにお城には、いかに敵に攻められないようにするかというアイデアが詰まっています。入口が狭く曲がりくねっていたり、堀や石垣、城門の配置が工夫されていたり…。当時の人々の考えを想像しながら、全国のお城をどんどん巡ってほしいですね」
実際に小田原城で御城印をゲットしてきました!
関東エリアで気軽に行けるお城として先生がおススメしてくれたのが、神奈川県小田原市にある小田原城。ということで、実際に編集部も御城印を入手しに行ってみました!
戦国大名・小田原北条氏が5代にわたって関東支配の拠点としていた小田原城は、上杉謙信や武田信玄の攻撃を退けた「難攻不落・無敵の城」として知られている立派なお城。城址公園の入り口から階段や坂を登っていくと、白い城壁の天守閣がどどんと出現します。なかなか良い運動です。
城門や天守閣もかっこいいですが、先生いわく見どころはお城の外側をぐるりと囲む「総構え」だそう。
「総構えは北条氏が豊臣秀吉との合戦に備えて築いたもので、お城だけでなく城下町ごとぐるりと堀と土塁(どるい)で囲んだ大規模な要塞(ようさい)の跡です。総距離は9kmにも及び、全国的にもすごく珍しいもの。小田原城に行かれた際はぜひ総構えも見てほしいですね」
小田原城ではスマホセミナーの取り組みも行っています
さて、御城印をもらいに天守閣の入り口にあるチケットセンターへ。天守閣への入場券もここで買うので、タイミングによっては混み合うかも。
外国人観光客もたくさんいて、日本のお城は世界でも人気のようです。ちなみに天守閣の入場券はキャッシュレス決済ができますが、御城印は現金支払いのみなのでご注意を。
この日は2種類の御城印をゲット。青空に白い城壁と御城印が映えます。
写真右の御城印は、新春の小田原城をイメージした数量限定版。小田原城が梅の名所であることにちなんで梅の花や、さらに城址公園の一角にある竹や本丸広場の松もあしらわれた、松竹梅がそろうおめでたいデザインです。
写真左は “江戸時代の小田原城” をコンセプトにした梵字(ぼんじ)バージョン。左上には1686年以降、幕末まで城主を務めた大久保氏の家紋「上り藤に大」をあしらっています。梵字は小田原城の天守閣最上階に祀(まつ)られている守護神「摩利支天(まりしてん)」を表すもの。神様を祀ってあるお城は全国的にも珍しいそうです。
御城印はデザインそのものもすてきですが、こうしてお城のことを知ることで、デザインに込められた意味も一層楽しめますね。1枚にお城の魅力がぎっしりと詰まった御城印。お城巡りの楽しみのひとつとして、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
御城印と一緒に天守も思い出に残しましょう
御城印をゲットした記念に、お城を背景に写真を撮るのもいい思い出になります。
こちらの記事では、スマホでお城を上手に撮影するコツを城の写真家が紹介しています。
(掲載日:2023年1月26日)
文:井上麻子
写真:山野一真
編集:エクスライト