10年ほど前からブームが始まった「御朱印集め」。いまやその言葉を知らない人はいないくらい、メジャーな趣味の1つとなっています。筆文字と朱印を組み合わせたシンプルなデザインが主流ですが、人気の高まりと共にその見た目も進化。切り絵や刺繍(ししゅう)、さらにはデジタル技術を駆使したものまで、ニュータイプの御朱印が全国で登場しているんです。
今回は、そんな最新の御朱印事情を深掘りするべく、御朱印愛好家の菊池洋明さんにインタビュー。2,000体以上あるという御朱印コレクションから、ユニークなものや思い出が詰まったものを見せてもらいました。さらに記事の後半では、菊池さんと一緒に都内にある寺院、宝珠院での入手レポートもお届けします。
歴史もデザインも楽しめるディープな御朱印の世界へ、いざ参りましょう。
目次
- 御朱印の進化が止まらない! アートな変わり種御朱印3選
- デジタル化やスマート化の波が御朱印にも!? 愛好家が教える御朱印集めをもっと楽しくするコツ
- 金運上昇するかも? 「巳の日」限定御朱印をいただきに、宝珠院を参拝
教えてくれた人
菊池洋明(きくち・ひろあき)さん
日本史好きが高じて御朱印愛好家に。これまで集めた御朱印は2,000体以上。『永久保存版 御朱印アートブック(PHP研究所)』『謎解き御朱印めぐり(笠倉出版社)』監修本『願いが叶う!古今東西、すごい御朱印だけ集めました。(笠倉出版社)』など、御朱印についての書籍も多数手がける。日本史上の一番の推しは平将門。最近は大河ドラマの影響で鎌倉の寺社めぐりにも夢中。
- オフィシャルサイト https://www.dame-ningen.net/
- Twitter https://twitter.com/nijyuikkaimoshi
御朱印の進化が止まらない! アートな変わり種御朱印3選
子どもの頃から日本史が好きで、神社仏閣めぐりを趣味にしていた菊池さん。御朱印に目覚めたのは、東京 上野にある徳川家の菩提寺の1つ「寛永寺」でいただいたもらった人生初の御朱印の美しさに心奪われたからだそう。
御朱印のデザインといえば「筆文字と朱印」が基本。ですが菊池さんによると、どうやら最近アート色の強い「変わり種御朱印」が続々と登場しているのだとか。早速菊池さんのコレクションから、進化系御朱印3つを紹介してもらいました。
①レースのような繊細さにうっとり「切り絵御朱印」
切り絵御朱印を最初に作ったのは埼玉県熊谷市にある龍泉寺。日本三大厄除開運大師の1つとして、初詣などには全国からたくさんの参拝者が訪れます。緻密な切り絵のデザインは、思わず見惚れてしまうほどの美しさ。
菊池さん「切り絵の御朱印はここ2、3年で多く見るようになったと思います。龍泉寺では季節ごとに違うデザインが出るので、楽しみにしている人も多いんですよ。とてもアート性が高い御朱印ですね」
②飛び出す姿はインパクトたっぷり「ポップアップ御朱印」
ポップアップ御朱印を初めて作った熊野皇大神社は、群馬県と長野県のちょうど県境に位置しており、長野県側には熊野皇大神社、群馬県側には熊野神社があります。実は両者は1つの神社でありながら、2つの宗教法人になっているという珍しい神社なんだそう。
菊池さん「しなの木神社の御朱印を開くと、境内にある樹齢1000年以上の御神木 しなの木が飛び出てくるんです。熊野皇大神社では、神の使いである八咫烏(やたがらす)のポップアップ御朱印もいただけますよ」
③額縁に入れて飾りたいほど華やか! 「刺繍御朱印」
豪華絢爛な刺繍が施された御朱印は、東京都杉並区にある阿佐ヶ谷神明宮のもの。なんと布ではなく和紙に刺繍が施されているんです。日本の伝統工芸である美濃和紙が採用されているそう。季節ごとに趣向を凝らした御朱印がいただけます。
菊池さん「私が授与いただいたのはお正月限定ということで、宝船のおめでたいデザインになっています。2018年に初めて登場して以来、とても人気の御朱印です。繊細な刺繍が美しいので、額に入れて飾っています」
御朱印の起源とは?
御朱印の起源には諸説あり、平安時代に始まった日本最古の「西国巡礼」(2府5県に点在する33の寺院をお参りすること)で、納経の証しとして授与されたことが始まりであるという説や、中世の武士たちの起請文(誓約書)としても使用された「牛王宝印(ごおうほういん・左写真)」という護符が発祥だという説などがあります。どちらにしても、いにしえの時代から日本の寺社に根付く文化であったことは間違いなさそうです。
デジタル化やスマート化の波が御朱印にも!? 愛好家が教える御朱印集めをもっと楽しくするコツ
アートな御朱印もさることながら、スマホで御朱印集めができる「スマート御朱印」や、AR技術を使ったもの、QRコードを朱印のデザインに取り入れたものなど、時代にあわせてさまざまなデジタル技術を用いた御朱印も登場しています。
またSNSで話題を集めているのが、「ミニ御朱印帳(豆御朱印帳)」と呼ばれる、手のひらサイズの御朱印帳。通常の御朱印帳の約3分の1サイズしかないので持ち運びしやすく、キャッシュレスなどで持ち物のコンパクト化が進む現代人にぴったりです。
菊池さん「御朱印の形が多様になっていくのはいいことだと思います。それだけ人気が高まっているという証しですし、参拝者の楽しみも広がります。納められた御朱印代は寺社運営の一助として使われることが多いので、たくさんの人が御朱印を楽しむことで寺社が守られるという、良いサイクルが生まれるとすてきですね」
10年以上も御朱印を集めてきた菊池さんは「テーマを決めること」が御朱印集めをより楽しむコツといいます。菊池さんはどんなテーマを設定しているのでしょうか。
菊池さん「例えば富士山の頂上でしかもらえない御朱印など、山登りをしないと行けない場所が結構あるんです。だから山登りをテーマに御朱印とセットで楽しんだりするのもおススメです。また、大河ドラマの主役になっている人物ゆかりの地をめぐるなど、人物や歴史をテーマにすることも多いですね。その日、その時期でテーマを設定しておくと、御朱印にまつわるストーリーや歴史も一緒に知ることができて、より深く御朱印を楽しめますよ」
菊池さんが大事にしているのが、必ず現地へ行ってもらうこと。寺社を参拝し、その土地やストーリーを味わいます。中でも登山をしていただいた御朱印は、その時の景色や思い出とひもづくので、後から見返しても楽しいのだとか。
「私のお気に入りは山形県にある出羽三山の1つである、月山にある月山神社本宮と、湯殿山にある湯殿山神社本宮でいただいた御朱印ですね。訪れた時は雪が残っていて、緑と白のコントラストが本当に絶景でした。この大胆かつ洗練されたデザインもすごく好きで。いろいろな御朱印を集めていると、一周まわって墨書と朱印だけのシンプルなものが、一番かっこよく思えてきました」
ところで御朱印を参拝の証しとしている方や、神様や仏様の分身として同じように敬う方もいますが、正しい御朱印集めの定義やルールはあるのでしょうか?
菊池さん「御朱印の捉え方や楽しみ方は人それぞれでいいのではないでしょうか。私はシンプルに寺社をお参りした思い出として楽しんでいます。ただし、神様や仏様への畏敬の念は忘れずに、必ず参拝をしてからいただくようにしていますね」
金運上昇するかも? 「巳の日」限定御朱印をいただきに、宝珠院を参拝
それでは実際に御朱印をいただきにいこう! ということで、菊池さんと一緒にやってきたのは、東京都港区にある「宝珠院(ほうしゅいん)」。ここはNHK大河ドラマ『どうする家康』でも話題の徳川家康が、念持仏(ねんじぶつ・個人が身の回りにおいて礼拝する仏像)として大事にしていた弁財天様「開運出世大弁財天」が安置されているお寺です。
菊池さん「今日は弁財天様の縁日である“巳(み)の日”なので、限定の御朱印が用意されていますよ」
なんという幸運。いったいどんな御朱印なのか気になりながら、まずは参拝から。ご住職のはからいで特別にお堂の中へ入れていただき、菊池さんはゆっくりと手を合わせます。
ここに安置されている「開運出世大弁財天」は、源頼朝や北条政子の手を経て徳川家康に渡ったもの。普段は箱の中に入っていますが、毎年、家康の命日である4月17日にだけ御開帳するそうです。
2022年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』にハマったおかげで、最近は鎌倉の寺社を中心にめぐっていた菊池さん。ドラマに登場する人物が関連している仏様だと知って大興奮の様子です。
菊池さん「まさか鎌倉殿とこちらの弁財天様がつながっていたなんて! こういう学びが、寺社・御朱印めぐりの醍醐味(だいごみ)の1つですね」
参拝が終わったら、早速御朱印をいただきに行きましょう!
朱印料を納めて御朱印帳を預けると、筆でサラサラと御朱印を書いていただけます。その達筆さたるや、思わず拍手しそうになるほど。今回は「巳の日限定御朱印」「月替わり御朱印」「猫イラスト入り御朱印」「巳の日限定ミニ御朱印」の計4種を授与いただくことができました!
菊池さん「いつもはガラス越しにこの弁財天様を参拝していたので、今日はいい経験ができました。御朱印集めをしていると、良いことがあったら寺社めぐりのおかげ、悪いことがあっても“寺社めぐりをしているからこの程度で済んだ”とポジティブな気持ちになることができます。御朱印集めは老若男女、全国どこでも楽しめるし、運動にもなって、本当に良いことずくめの趣味。数を集めることに執着せず、神仏を敬いながら、より多くの方々に楽しんでいただきたいですね」
菊池さんが思う御朱印の魅力は、なんといっても手書きなこと。二度と同じものには出合えない、一期一会な存在である御朱印に特別感があると言います。
菊池さん「御朱印は書く人やもらう時期によっても表情が変わるので、自分だけの1体をいただけます。世界で1つだけの特別な存在ですよね。私は歴史が好きなので、御朱印をきっかけに神社仏閣が持つそれぞれの物語やエピソード、地域のストーリーを掘り下げることも楽しんでいます」
次は、甲斐武田家ゆかりの地をめぐって御朱印を集めたいと語る菊池さん。あなたはどこから御朱印集めを始めますか?
どうする?御朱印帳。ふるさと納税のお礼品で御朱印・御朱印帳をゲットできる自治体も
御朱印を納める御朱印帳にも実にさまざまな種類があります。ふるさと納税のお礼品でのみ入手可能な限定版では、地域ならではのデザインや素材を使ったものもありますよ。
自分のお気に入りの御朱印帳を探してみましょう。
(掲載日:2023年3月24日)
文:井上麻子
写真:山野一真
編集:エクスライト