ソフトバンクショップで回収された古いスマホやガラケーなどの携帯電話。その後、どのように処分されるかご存じでしょうか?
ショップでの処分の流れを紹介した前編に続き、後編ではショップで回収された携帯電話がリサイクルされるまでの足取りをご紹介。リサイクル事業を展開しているオーエム通商さんの工場を訪問し、リサイクルの流れについて教えていただきました。
オーエム通商
1981年創業、2001年から東京都八王子市に本社を移転し、八王子市の小津本社工場と兵庫県尼崎市の尼崎工場で、スマホ・ガラケーなどの携帯電話のリサイクルを行なっており、年間25万kg以上の携帯端末をリサイクル処分している。SDGsの取り組みにも力を入れており、障害者雇用に力を入れる花屋「ローランズプラス」と提携するなど、さまざまな企業とパートナーシップを結んでいる。
案内してくれたオーエム通商 経営統轄本部取締役 中野 徹(なかの・とおる)さん
1998年、オーエム通商(株)に入社後、業務部に着任。経営統括本部の責任者として業務部、運送部、営業部、CSR部、総務部を管掌。2016年に役員に就任し、現在に至る。
工場での携帯電話のリサイクルフロー8つのステップ
ソフトバンクショップで回収した携帯電話の破砕やリサイクル処理を行なっているオーエム通商の小津本社工場。携帯電話の端末はもちろん、パソコンや複合機などのOA機器、レジスターなど、さまざまな電子機器がこの工場に持ち込まれ、リサイクル処理されています。
工場の中を実際に見学させてもらいながら、携帯電話のリサイクル処理の流れを中野さんに解説していただきました。
ステップ① 携帯電話の回収
毎月決まった日にソフトバンクショップに業者が出向き、廃棄する携帯電話を回収。大型車で小津本社工場に運び込みます。オーエム通商の回収範囲は主に東日本エリアが中心。ショップでの回収以外にも、法人用端末の回収依頼やレンタル用端末の回収依頼にも対応しています。
「工場に持ち込まれる台数が一番多いのは、実はレンタル用端末です。四半期に一度まとめて回収しているのですが、10トン車で2〜3台分を一度に回収しています。工場に持ち込まれる端末の割合としては、ガラケーとスマホがそれぞれ7:3くらいです。法人系のお客さまは、まだまだガラケーを使っているところも多いみたいですね」
ステップ② 計量(総重量)
回収した端末を積載した大型車が工場に到着すると、まずは計量を行います。トラックごと計量台の上に乗って総重量を計った後、そこから車体の重量を引きます。ここで大まかな計量を行い、のちほどさらに細かく計量します。
ステップ③ セキュリティセンターで保管
携帯電話はセキュリティ物品扱いになるため、入荷後すぐに、工場内のセキュリティセンターに運ばれいったん保管されます。
「工場内にはセキュリティルームを2拠点構えており、それぞれ入口に金属探知機を設置。工場内の導線に沿って、監視カメラも20台設置しています。セキュリティセンターのスタッフは、通信機器の持込みと持出し防止のため、ポケットレスの作業服を着用し、出入りの際も厳重な入退室管理を行うなど、徹底した意識を持って業務を行っています。ソフトバンクさんのような、コンシューマー情報を扱う通信事業者さまとお取り引きする上で、厳重なセキュリティ管理は不可欠だと考えています」
電池を抜かないと大変なことに!? 台数管理から「破砕」の工程へ
ステップ④ 台数管理(個別管理)
携帯電話の端末には「IMEI」という固有の識別番号が設定されています。これら端末の識別番号を、スタッフが1台ずつ読み取ります。この作業によって、どこのソフトバンクショップからどの端末が回収されたのか、紐づけができるようになります。
「基本はバーコードで読み取る管理作業ですが、バーコードが読み取れないものは、数字を肉眼で確認して手で打ち込んで入力します。地道な作業ですが、毎月回収した端末データを月報にまとめて報告しているので、読み落としや間違いがあってはならない重要な作業です。1日の読み取り台数は単純計算で3,000〜4,000台になります」
ステップ⑤ 計量(種別ごと)
携帯電話の端末本体をさらに細かく分類し、種別ごとに計量します。携帯電話のほか、カード端末、フォトビジョン、タブレットなども端末本体に含まれるため、ここで細かく分類・計量します。
ステップ⑥ 電池抜き取り
セキュリティセンターのスタッフが、携帯電話の端末を粗解体。破砕前に電池パックを取り外します。エアードライバーでビスを一つ一つ取り外し、手作業で電池パックを取り外します。
「電池パックの取り外しは、本格的に破砕を行う前に必ずやっておかなければならない非常に重要な作業。電池パックごと破砕機にかけてしまうと、火花が散って火災につながる恐れがあり、大変危険だからです。ガラケーの場合、電池パックの取り外しは簡単なのですが、スマホはビスがついていない機種が多く、取り外しにコツが必要。機械ではなく手作業じゃないと難しいため、経験がものを言う作業です」
ステップ⑦ 一次破砕(機能破壊)
電池パックを取り外した端末を、破砕機にかけて50mm以下のサイズに砕きます。
「破砕の工程は『一次破砕』と『二次破砕』の2つに分かれており、一次破砕でデータを完全に取り出せなくすることで、セキュリティ体制をより万全なものにしています。また電池パックを取り外す作業場と、破砕を行う作業場を完全に分けているので、各持ち場のスタッフによる二重チェック体制で事故を防いでいます」
ステップ⑧ 二次破砕(15mm以下)
二次破砕は兵庫県にある尼崎工場で行われます。50mm程度に破砕した携帯電話を尼崎工場に運び、ここで15mm以下の細かいサイズに破砕。尼崎工場は電子基盤の破砕に特化しており、高度な破砕ノウハウを有しています。ここで破砕された金属が、製錬会社へと出荷されます。
「小津本社工場で行う一次破砕は『セキュリティを守る』ことや尼崎工場への『運搬効率を上げる」という意味合いが強い工程です。一方、尼崎工場で行う二次破砕は、製錬所へ出荷する前工程における『加工』の意味合いが強い工程です。含まれる貴金属の割合などを冷静に見極めながら、そのまま製錬所に出荷したり、破砕したものをブレンドして出荷したり、またどの製錬所に出荷するかなど、高度な判断を行なっています」
携帯電話をリサイクルして製錬された貴金属やレアメタルはどのような用途に使われたりするのでしょうか?
「携帯電話の部品を製錬して抽出される金属としては、金・銀・銅・パラジウムあたりが代表的です。テレビなどで見たこともあるかと思うのですが、製錬された金属は『インゴット(金属を精製して塊にしたもの)』になって、それを加工して新たな製品に生まれ変わるのが一般的なルートです。レアメタルのひとつであるパラジウムなんかは、車のマフラー部分などに使われています」
携帯電話のマテリアルリサイクル
抽出される金属・レアメタルは金・銀・銅・パラジウムの主に4種類。中でも加工がしやすく汎用性が高いのが金で、身の回りの装飾品から電子基板などさまざまな用途に再利用されています。そのほか、バッテリーから抽出されるリチウムやコバルトは電池資源などに再利用されています。
一つの企業が集まって集合体になれば、環境にできることは増える
工場、詳しく案内していただきありがとうございました。最近、世の中的にも環境への意識が高まってきていると思うのですが、長らくリサイクル事業に携わっているオーエム通商さんとしては、どんなことを感じていますか?
中野「私がオーエム通商に入社したのは22年前。当時は今と比べると、世の中的にも環境問題にそれほど目は向けられていませんでした。そこから『廃棄物の適正処理』に光が当たり始め、法改正なども進み出したのが15年くらい前。その数年後には、適正処理だけでなく『資源の有効活用』といったことが大々的にうたわれ始めました」
携帯電話のリサイクルに光が当たり始めたのも、わりと最近のことなのでしょうか?
中野「そうですね。とりわけリサイクルへの意識がぐんと高まってきたなと感じているのが、ここ4〜5年くらいです。『使い終わった携帯電話が、実はまだ製品として売れる』ということが世間に広く認知されるようになってきた。スマホの下取りサービスなどが一般的になったことも、大きなきっかけかなと思います。リサイクルを事業として始めた当初は、なかなか先人もいなかったし、手探りでやってきた事業にようやく光が当たってきたな、という実感はありますね」
リサイクル事業を通じて、今後どのような発展を考えていますか?
中野「携帯電話は、もはや人々の生活と切っては切れないアイテムになっています。それが使い古されて要らなくなったときに、やっと我々の出番がくるわけです。環境問題と一口に言っても、すごく大きな問題なので、一企業ができることには恐らく限界がある。とはいえ、そうした一企業が少しずつ集まって集合体になれば、やれることは増えるし、環境負荷もどんどん減っていくと思います。世の中の企業ができないお手伝いを我々がさせていただくことで、社会にも貢献していけたらうれしいです」
前後編にわたり見てきた、古い携帯電話の捨て方とリサイクルの過程。いかがでしたでしょうか? 携帯電話を無造作に捨てるのではなく、然るべきところに持って行き、然るべき過程で処分されることで、個人情報はもちろん、環境を守ることにもつながります。
もし古い携帯電話の捨て方に迷っている人がいらっしゃれば、捨てた後の過程にも目を向けて、まずはお気軽にソフトバンクショップまでお越しください。
ソフトバンクはリサイクルを通じた環境・社会への貢献に取り組んでいます
ソフトバンクショップ・ワイモバイルショップでは、ブランド・メーカーを問わず、不要になった携帯電話を無償で回収し、リサイクルしています。携帯電話の本体やバッテリー、充電器などには、産出量が少ないレアメタルなど、たくさんの貴重な資源が含まれており、電子部品などの原料として再利用されます。
また、子ども向けに携帯電話を分解する体験を通じ、リサイクルの大切さを学ぶ環境教室「りさ育る(りさいくる)」も開催。リサイクルを伝える啓発活動を実施しています。
SDGsの達成に向けた、マテリアリティ「テクノロジーのチカラで地球環境へ貢献」
国連で採択された持続可能な開発目標「SDGs(Sustainable Develpment Goals)」は17の大きな目標が設定されています。そこで、ソフトバンクは2030年までの実現に向けて6つのマテリアリティを特定。その中のマテリアリティ「テクノロジーのチカラで地球環境へ貢献」では、持続可能性のある地球を次の世代につなぐため、最新のテクノロジーを活用し、気候変動への対応・循環型社会の推進・自然エネルギー普及に貢献します。
(掲載日:2020年8月25日)
文:佐藤由衣
カメラマン:山野一真
編集:エクスライト