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デジタルが未来の可能性を広げる。特別支援教育でのICT活用ー「デジタルの日」

特別支援教育でのICT活用。卒業後を見据え、ICTでチカラをつけて社会へ出る ー「デジタルの日」

障がいや困難のある子の学びをテクノロジーで支える。今回は、ソフトバンク株式会社と東京大学先端科学技術研究センターが共同で行っている、ICTを活用して障がい児の学習・生活支援を行う実践研究プロジェクト「魔法のプロジェクト」の取り組みを、9月19日にオンライン開催された「超福祉の学校」(NPO法人ピープルデザイン研究所、文部科学省、渋谷区による共催)のシンポジウムの内容からご紹介します。

10月10日・11日は「デジタルの日」
10月10日・11日は「デジタルの日」

2021年に発足されたデジタル庁が創設した、年に1度のデジタルの記念日で、デジタルを表現する「1(イチ)」と「0(ゼロ)」を組み合わせてこの日になったそうです。定期的に「振り返り」「体験」「見直し」をするための機会を設けて、「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」を実現するためにどうすれば良いのか考える日です。ソフトバンクも賛同企業として参画しています。

卒業に向けて「話す力、伝える力の向上」「生活の質を高める」に取り組む

「魔法のプロジェクト」は、学ぶ上での困りを持つ子どもの学習や社会参加の機会をICT機器の活用によって創出している実践プロジェクトで、先生と生徒がペアになって実践します。

今回のシンポジウムでは、神奈川県立平塚養護学校の児山卓史(こやま・たくし)先生と肢体不自由教育部門高等部の3年生だった佐々木景都(ささき・ひろと)さんが、2019年4月から2020年の1月末の間に、スマートスピーカーやタブレットを活用することで、話す・伝える力が向上して活動が広がっていった様子や、その後就職してからどのように役に立っているのかが紹介されました。

卒業に向けて「話す力、伝える力の向上」「生活の質を高める」に取り組む

佐々木さんとの実践研究について説明する児山卓史先生

児山先生と佐々木さんの出会いは情報の授業でした。佐々木さんは脳性麻痺による障がいの困難から、「人前で発表する時に焦ってしまい、自分の考えをうまく伝えることができない」「外出したい気持ちは強いが不安が強く、一歩踏み出せない」という2つの困りを抱えていました。

児山先生は佐々木さんの担任ではありませんでしたが、授業での関わりの中で、ICTを活用することで困りを改善できるのではないかと考え、「魔法のプロジェクト」に応募しました。1年後に卒業を控えた佐々木さんとともに、話すことの改善と、生活の質を高めることを目標に取り組んだのです。 

ICTを使えば、思った通り話せるし資料作りも楽しい

ICTを使えば、思った通り話せるし資料作りも楽しい

当時佐々木さんは卒業後のことを想定して手動式の車いすから電動車いすに変えたばかり。移動の範囲は少し広がったものの、身体の動きも心理的にも緊張することが多かったそうです。また、視力も弱く小さい文字や手書きの文字が読みにくかったり、麻痺からくると思われる滑舌の悪さもありました。

一方でとても明るい性格で、何事にも真面目に取り組み、学校の創立50周年記念で神奈川県の黒岩知事が来られたときは、生徒会の副会長として知事を先導するなど、礼儀正しくその場の雰囲気をわきまえた対応も得意。そして、パソコンやタブレットなどのICT機器が好きで積極的に活用しようとする強みがありました。

そこで児山先生は、自分の考えをうまく伝えることができないところは、本人の得意なタブレットを使って補い、音声入力の活用で話し方の改善ができるのではないか。また、外出への不安は、伝える取り組みを通して自分に自信をつけ、ICT 機器を使いこなすことで解消できるのではないかという仮説を立て、「話す力、伝える力の向上」と「生活の質を高める」を目標としたのです。

ICTを使えば、思った通り話せるし資料作りも楽しい

使われたのは、パソコン、タブレット、スマートスピーカーと、メモ、録音、写真、資料作成、動画編集などのアプリの数々。スマートスピーカーに「今日の天気は?」「今日は何の日?」と話しかけ、答えを覚えて朝の会で発表する。平行して、話し方自体にアプローチする取り組みも実施。

リズミカルに発声できる川柳を題材として音声入力を使って文章を入力。五・七・五を意識してゆっくりはっきり発声することで、言い間違いや誤入力が減少。文章を固まりで捉えて記憶することで、タイピング速度も改善しました。

およそ1か月後には発表の仕方のコツをつかんだだけでなく、自分のパターンで発表するという変化が現れ、音声入力を活用してスライドに音声をつけて動画を作成する取り組みも開始。話すときにつまずいてしまった場所は編集でカットし、うまくいった部分のみをつなぎ合わせ、自身のアピールや体験を紹介できる滑らかな喋りの動画が完成。

自分がその場で話さなくても自己紹介ができるこの動画は、終業式などの行事や就労のための企業での体験実習でも活用し、実習先では高く評価されたそうです。

「車いす目線の動画」をYouTubeに投稿

「車いす目線の動画」をYouTubeに投稿

児山先生と佐々木さんは、さらにワンステップ上の取り組みとして、佐々木さんが夏休み中に外出先で撮った写真に、車いすでの使い勝手の視点を盛り込んだ「車いす目線の動画」を作成し、YouTube に限定投稿する取り組みを行ないました。外出に不安を感じていた佐々木さんでしたが、この頃にはどんどん外に出ていくようになるという大きな変化でした。

そんな佐々木さんに、社会の壁を自分自身で取り除くという出来事がありました。6月、就労先を決めるための2週間の施設体験実習で、バス停までの細い道を毎日車いすで通勤していると、車がすれ違えず後ろに渋滞ができてしまい、バスの運転手さんにも「なんとかならないのか」などの心無い言葉をかけられ、実習に行きたくないという気持ちになったそうです。

相談を受けた先生方は、この壁は本人が自分自身で解決する必要があると感じ、ちょうど夏休みに開催される「ひらつかスクール議会」という平塚市内の高校生が市政に対する質問や提言を行う議会に佐々木さんが学校代表として参加。ここでも自分で作成したスライドを使って、自己の体験や街の改善点などを平塚市長に直接提言したのです。

市長から「改善するように伝える」という返答をもらうことができ、自分自身でつかみ取った結果に大きな達成感を持つことができる取り組みとなったのでした。

「車いす目線の動画」をYouTubeに投稿

シンポジウムの当日、東京駅や渋谷駅周辺で

児山先生は、「今日はこのシンポジウムで久しぶりに一緒に外出しました。外に出るという大切さをこれから伝えていってほしいなと思います」と笑顔を見せました。

外に出る楽しさを自分目線で発信していきたい

外に出る楽しさを自分目線で発信していきたい

佐々木さんは2020年に湘南農業協同組合に就職し、現在は人事課に勤務。職場での様子や担当している仕事を自身で作成したプレゼンテーション資料と動画で紹介し、働いてみてよかったことや困っていること、これから挑戦したいことなどを話しました。

「働いて良かったことは最新のMacBook Proの16インチを買ったことです。いままでもいろいろ持っていましたが、やっぱり自分で働いたお金で買うのは喜びが深いことに気づきました。企業就労できて本当によかったと感じています。

仕事で少し困っているドットプリンターを使って印刷する作業も、何か工夫すればできるのではないかという気がします。これからも大変なことがあっても工夫次第でできると思うので、頑張っていけたらなと思います。

挑戦したいことは、いろいろな県を旅して、おいしいものを食べたり、その県の魅力を自分目線でYouTubeで発信していきたいと思っています」

障がいのある子どもたちが最大限のチカラを発揮できるように

障がいのある子どもたちが最大限のチカラを発揮できるように

文部科学省の菅野和彦特別支援教育調査官(左)、ソフトバンク株式会社CSR本部所属で魔法のプロジェクト ディレクターの佐藤里美(右)

文部科学省の菅野特別支援教育調査官は、「今日のこの魔法のプロジェクトの取り組みは、聞いている人たちが、『何かもっと自分にもできることがあるかもしれない。自分が知らないICTの世界があるのかもしれない。自分がつまずいていたことが、ICTやアプリを使ってみたら、自信をもって取り組めるようになるかもしれない』と思えるような、そんな元気の出る実践発表だったと思います。

今後もICT機器は日進月歩で進化します。すると、自分がいままで最大限の力を発揮していた環境が、機器がアップデートしていくことで変わってしまうことがある。そういうときに、障がいのある子どもたちが最大限の力を発揮できるよう、学校教育はもちろん、地域だったり、魔法のプロジェクトだったり、サポートができる社会づくりに取り組む必要があるのではないか」と、ICTの持つ可能性と今後について語りました。

【障害×ICT】特別支援教育におけるICTの活用~学びそして自立へ~」のシンポジウム動画を見る

「魔法のプロジェクト」の
ウェブサイトをみる

(掲載日:2021年10月7日)
文:ソフトバンクニュース編集部

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