SNSボタン
記事分割(js記載用)

AI時代に求められる論理的思考力。注目される背景と実践方法を紹介

デジタル化やAIの普及が急速に進む今、ビジネスシーンにおいて「論理的思考」の重要性が高まっています。そこで、そもそも論理的思考とはどのようなものなのか。今、なぜ必要とされているのか。論理的思考力を身につけるメリットやその力を磨くための方法について、ワークスタイルやオフィスコミュニケーションの専門家である、沢渡あまねさんにうかがいました。

目次

話を聞いた人

沢渡あまね

沢渡あまねさん

作家/ワークスタイル&組織開発専門家。『組織変革Lab』主宰。あまねキャリアCEO/浜松ワークスタイルLab取締役/NOKIOO顧問/大手企業人事部門顧問ほか。DX白書2023有識者委員。400以上の企業・自治体・官公庁で働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。著書に『話が進む仕切り方』『新時代を生き抜く越境思考』などがある。

そもそも論理的思考とは?

沢渡さん 「『論理的思考(ロジカルシンキング)』とは、物事を体系的に整理し、矛盾や飛躍のない筋道を立てる思考法です。立場や専門性、置かれた環境が異なるもの同士でも、論理という共通の物差しを使うことで、思い描いているイメージのすり合わせが可能になります。自分と相手、自組織と他組織の考え方、物事の切り取り方の違いを『景色合わせ』し、交接点を見出し、相手とどう向き合うかを合意する。論理的思考とは、そのためのスキルと言っていいでしょう」

論理的思考というと、相手を論破したり、自分の意見を相手に押し通したりするための能力だと思っている人もいるかもしれません。でも、本当はそうではありません。論理的思考は、考え方や価値観が異なる人同士が合意を目指すうえで必要なスキルなのだと、沢渡さんは強調します。

沢渡さん 「景色合わせをして、お互いかみ合わないことが分かれば、それぞれ別の道を歩めばいいでしょう。景色が一致しているところがあったり、合わせられる余地があったりするなら、手を組んで一緒に仕事をする。そのように異なる人や組織が協業するうえで、重要な役割を果たすスキルが論理的思考です」

論理的思考と直感的思考の違い

論理的思考と対になるものとして直感的思考が挙げられますが、この2つにはどのような違いがあるのでしょうか。

沢渡さん 「論理的思考は、思いを実現するためにどう合理的なストーリーを、相手と合意形成をするかを重視しています。一方、直感的思考は、感情や思いがベースですよね。

何か新しい発想をするとか、あるいは感情ベースで共感者を集めるためには直感的思考も必要だと思います。最終的に人は感情で動きますから。そこに思いがなかったり、感性に訴える何かを欠いてしまうと、人を動かし続けられません。そういう意味では、直感的思考などの感性に訴えるコミュニケーションや発想を持つことは非常に大事です。

ただし、多くの人を巻き込み、お金やモノ、組織を動かすうえでは、相手目線の合理的な立て付け、ストーリーが有効です。それをつくるうえでは、論理的思考力が不可欠です。どちらが優れているということではなく、論理的思考と直感的思考はどちらも必要なのです。

ちなみに、人の思考パターンは感情優位な人と論理優位な人など、それぞれに癖や傾向があります。プレゼンなどでは相手の思考の傾向に合わせることも時には効果があるでしょう。人や自分の思考パターンを知りたいときは、思考の特性を判定するチェックリストやハーマンモデルのような簡易診断ツールで調べてみましょう。

例えば、あの人は論理優位だからまず数字でもってアプローチしようとか、あの人は感情優位だからまずエモーショナルなプレゼンをして、あとで組織を動かすための数字の立て付けを示そう、といったアプローチ戦略を立てることができますよ」

論理的思考はなぜ必要?

論理的思考は以前からビジネスシーンにおいて役立つスキルと言われてきましたが、最近になって特に重視されるようになってきています。その背景としては、このようなことが考えられるようです。

予測不可能なVUCAの時代になってきている

沢渡さん 「現代は『VUCA(ブーカ)』の時代と言われています。この言葉はVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った造語です。今はあらゆるものを取り巻く環境が目まぐるしく変化し、先行きが不透明で、誰も将来の予測ができません。莫大な情報が氾濫し、AIなどのデジタル技術も驚くべきスピードで進化しています。そのため、過去に前例がなく、答えのない課題が増えています。単一の側面からの考えや発想、過去の成功事例からは答えを導けなくなってきているのです。

よって、多様な価値観や立ち位置、経験をもつ組織や人が論理的思考でさまざまな知恵やアイデアを出しあう。それこそが、課題解決への有効なアプローチになると期待されています」

さまざまなギャップが大きくなってきている

沢渡さん 「VUCAの時代には立場や上下関係にとらわれない、フラットな対話が必要ですが、今は業界や専門性、世代や地域などによるギャップが昔よりも大きくなっています。リモートワークが当たり前になってきたことで、オフィスワーカーとテレワーカーのギャップも生まれています。

今までは、例えば営業であれば気合い・根性だけで売り上げを作れたかもしれませんが、お客さんもデジタルに長けてきて、今までの気合・根性の営業だけではビジネスモデルが頭打ちになってきています。そうなったときに、異なる専門性を持つ人と、どのように同じゴールを目指していくか。今挙げたようなさまざまなギャップがある中で、同じ釜の飯を食べて来なかった人たちとコラボして、チームとしてのパフォーマンスを発揮していくためには、論理的思考で相手と見ている景色を合わせて、対話をしながら物事を進めていく必要があるのです。

全く価値観の違う人同士で感情だけで話をするとお互いに妥協せず、削り合いにしかならないんですよね。そこでポイントになるのが、論理的思考をベースにした対話です。思いや感情、ファクト、エビデンスを上手に使い分けながら、相手と見ている景色を合わせていく論理的なコミュニケーション能力が求められています」

早期のプログラミング教育で論理的思考が育つ

沢渡さん 「日本でも小学校・中学校・高校でプログラミング教育が必修化されていますが、論理的思考は子どもの頃から磨いておいた方がいいですね。相手と景色合わせをしたり、フラットに対話する能力は一朝一夕では生まれないので、若いうちから習慣づけていくと、将来的に役に立つと思いますよ」

論理的思考を身に付けるメリット

続いて、このような論理的思考をビジネスパーソンが身に付けることで得られるメリットとはどのようなものなのでしょうか。大きく分けて2つあると、沢渡さんは言います。

コミュニケーション力の向上

沢渡さん 「まず1つ目のメリットは、対人・対企業のコミュニケーション力が向上することです。会社は組織である以上、人やモノ、お金を動かすためには相手目線の合理的なストーリーを示す必要があります。論理的思考を身に付けておくと、お互いの背景や思いを共有した対話ができるようになるので、ミーティングや会議、プレゼンの場での合意形成がスムーズに進められるようになりますよ」

自分が活きる場所や仲間と出会うチャンスが広がる

沢渡さん 「論理的思考をもとに景色合わせをすることで、見ている景色が全くかみあわない相手を遠ざけることができるのも、大きなメリットです。自分たちの提供価値や働き方などのスタイルに理解がある相手とだけ仕事ができる。そのような相手の仕事を優先することができます。

個人の場合で言えば、苦手なことを押し付けられたり、自分らしくない場所で消耗したりするリスクを減らすことができます。逆に言えば、自分がより活躍できる場所や仲間、よりよい顧客や取り引き先と出会うチャンスが広がるわけです」

論理的思考はAI時代を生き抜くスキルになる?

現在、AIの活用があらゆる分野で広がり、ChatGPTなどのAIチャットにも大きな注目が集まっています。そこで、このようなAI時代に論理的思考が果たす役割についてもうかがいました。

沢渡さん 「まず、AIに有益な学習をさせるには、論理的に要件を組み、AIに適切な情報をインプットする必要があります。この部分において論理的思考が重要なことは言うまでもありません。今後、ChatGPTのように言葉でAIを使うツールが普及すると、これからの人間に最も必要とされる能力は言語能力や国語力になってくる気がします。ある言葉をどう運用するのか、どんな意味を持たせるのか。どう理解して解釈するのか。そのような力がますます求められるようになってくるでしょう。

そもそも、AIに意志はありません。AIが出した分析結果を有効に活用し、社会に価値を提供するうえでは、人間の意志や思いが何より大切です。自分が何者で、どういうものの見方、切り取り方をするのか。その軸がない限り、AIによるアウトプットのどこに価値や意味を見いだすのか、といった判断はできません。よって、AIの分析結果を有効に活用することもできません。そのような軸、思い、意志こそが人間に残された最後の聖域だと思います」

そのような人間ならではの意志、思いを研ぎ澄ませていくうえでも、データの収集や分析はどんどんAIに任せ、人間がAIと対話をすることが大事だと沢渡さんは言います。

沢渡さん 「AIの分析結果をもとに、新たな技術やアイデアを組み合わせていく。論理的思考を駆使しながら、事実とデータと感情をトータルでプロデュースしていく。それこそが、AI時代の人間の役割ではないでしょうか。真にクリエイティブなものは、その先に生まれるのだと思います。論理的思考とクリエイティビティは相反するものではありません。クリエイティブなものを生み出すためにこそ、論理的思考が必要なのです」

日常生活で論理的思考を身に付ける方法とは

最後に、日頃から論理的思考力を磨くうえでやるといいこと、論理的思考をもとに相手と対話をするうえでの注意点をうかがいました。

日頃から図解する癖をつける

沢渡さん 「論理的思考を磨くには日頃、企画やアイデアを練るときに、そのテーマがどのような切り取り方が可能なのかを考え、図解する癖をつけることをおすすめします。図解とは、自分がものごとをどう切り取ったかを論理的に構造化する行為です。これを日頃から繰り返していれば、相手と景色合わせをしながら対話する能力の向上につながりますよ。

図解のフォーマットにはさまざまなものがあり、自分でオリジナルなものを考えることも可能です。ただ、相手も日頃から見慣れているもののほうが理解しやすいため、まずは基本の4パターンの図を使ってみましょう」

【基本の図解4パターン】

マトリクス図

物事の価値やポジショニングを整理し、分析する際に役立つ図解方法です。要素や流れなど、ポイントとなる軸を縦軸と横軸で交差させて分類し、それぞれの特徴や課題を洗い出すことができます。

ベン図

自分の頭の中にある物事の要件や条件、特徴などについて、視覚化し共有する際に役立つ図解方法です。

ロジックツリー

物事の観点や論点、構成要素を洗い出す際に役立つ図解方法です。今起きている問題の構造を分析して根本的な原因を突き止めたり、自社の製品やサービスの特徴を説明する際などに活用できます。

矢印のチャート

矢印を用いたチャート図は、手順やプロセスをシンプルに伝えられる図解方法です。全体の工程と、「どこまで進んでいるか」現在位置を把握しやすいので、会議を進行したり、物事を説明する際に役立ちます。

相手のキーワード(関心ごと)に名前をつける習慣をつける

沢渡さん 「論理的思考を磨くためには、普段から相手の関心ごとをキーワードにする習慣をつけましょう。例えば、『この人はコストよりチャレンジに関心がある』『効率より新しい取り組みを重視している』『中長期的なメリットより目先のメリットを知りたがっている』。このように、相手の関心ごとに名前をつけ、そのストーリーに合った論理展開をできるようになっていくと、相手との景色合わせがよりうまくいくようになると思います。

相手が何を考えているのかを言語化して理解するためには、相手の関心ごとのキーワードとなりそうなバリエーションを増やしておくこともおすすめです。そのためにも、違う立場を経験してみたり、自分とは職種や世代、住む地域が違う人と普段から意識的に対話をする。もちろん、対面でもオンラインでもどちらでもかまいません。そのようにさまざまな人の関心ごとをインプットしておくと、この人はもしかしたらここに関心があるのではないかな?とか、ここが困りごとかもしれないとか、相手の思考を推測できるようになっていきますよ」

論理的思考をもとに相手と対話をする際の注意点

沢渡さん 「一方的な考え方に引っ張られるのではなく、相手ときちんと対話をしていく、これが論理的思考を高める唯一の道だと思っています。そのためには、思いだけに引っ張られない、ファクトだけを鵜呑みにしない、データだけを鵜呑みにしない、エビデンスだけを鵜呑みにしない。このような点に気をつけながら、論理的に相手と景色を合わせて合意を形成していくことを意識しましょう。

また、論理的思考というと、隙間や遊びが一切ない、唯一無二の正解を導きだすものといった固定観念を持っている人も少なくないのですが、冒頭でも申し上げたように、論理的思考とは、答えのない問題や新しい発想を生み出すための対話の基盤です。よって、風景合わせの対話をするときは、まずは完璧なものでなくてもいいので、ざっくりとした自分たちなりの論理構造を示すことをおすすめします。

そのうえで相手との対話を重ね、足りない点や抜けている点、視点の偏りなどを補正していけばいいのです。その繰り返しが相互理解を深め、新たな発想や価値を生み出すきっかけになるのです」

まとめ

複雑で変化が激しく、先行きが見えない現代。将来に不安を感じている人も少なくないでしょう。このような時代に自分らしく、自分ならではの価値で社会に貢献していく。そのための最大のスキルこそ、論理的思考であることが、沢渡さんの話からよくわかりました。まずは普段の業務など身近なところから、論理的思考を磨くことを心がけたいものです。

(掲載日:2023年3月23日)
文:関川 隆
編集:エクスライト

自ら課題を見つけ解決する探究学習。AI活用人材を育成する教育プログラム「AIチャレンジ」

予測が難しいVUCAの時代では、物事をよく観察して自ら課題を見つけ、解決する探究学習がますます重要になります。
ソフトバンクが提供するAI活用人材育成の教育プログラム「AIチャレンジ」は、探究に求められる「発想力」「テクノロジー活用力」「実装力」の3つの力を身につけることで、これからのAI社会を牽引する次世代の担い手たちを育成する教材です。

AIチャレンジ