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気づかぬうちに難聴に? 「ヘッドホン・イヤホン難聴」の初期症状などを耳鼻咽喉科医に聞いた

気づかぬうちに難聴に?「ヘッドホン・イヤホン難聴」の初期症状などを耳鼻咽喉科医に聞いた

日常的にヘッドホンやイヤホンを使うようになった今、「好きな曲を大音量で聴くのがストレス発散」「毎日何時間もイヤホンをつけている」という人も多いはず。実はこのようなヘッドホン・イヤホンの使い方が原因で、知らぬ間に「ヘッドホン・イヤホン難聴」になるリスクが高まっているようです。

そもそも「ヘッドホン・イヤホン難聴って?」「予防できるの?」といった疑問点を、日本医科大学附属病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科専門医の松延毅さんにうかがいました。

目次

松延毅(まつのぶ・たけし)さん

松延毅(まつのぶ・たけし)さん
慶應義塾大学卒。医学博士。耳鼻咽喉科・頭頸部外科専門医。日本医科大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 准教授。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「ヘッドホン・イヤホン難聴対策WG」委員長。

「聞こえにくい」だけじゃないヘッドホン・イヤホン難聴の症状

「聞こえにくい」だけじゃないヘッドホン・イヤホン難聴の症状

毎日のようにヘッドホンやイヤホンで音楽やラジオ、配信などを聴くという人に知っておいてもらいたいのが、ヘッドホン・イヤホン難聴のリスクです。実際にヘッドホン・イヤホン難聴になってしまった場合、どのような症状があらわれるのでしょうか。松延さんに主な症状について解説していただきました。

松延さん

「ヘッドホン・イヤホン難聴はヘッドホンやイヤホンを大きな音量で長時間使い続けることによって発症します。正式名称は『騒音性聴器障害』といいます。携帯音楽プレーヤーやスマートフォンの普及にともない急増しているといわれ、WHO(世界保健機関)も『世界の若者11億人が難聴になるリスクにさらされている』と警鐘を鳴らすほどです。主な症状としては次のようなものが挙げられます」

ヘッドホン・イヤホン難聴の主な症状

①耳鳴り
実際には鳴っていないのに『キーン』『ブー』といった音が聞こえる耳鳴り。数十秒でおさまる一過性の症状であれば心配はいりませんが、何時間もやまない場合は、聴力が低下する兆候かもしれません。

②耳がつまったように感じる
耳がつまったような違和感を専門用語で「耳閉塞感(じへいそくかん)」といいます。飛行機に乗ったときのように数分でおさまれば問題ありませんが、長時間続く場合は要注意です。

③高音が聞き取りにくい
ヘッドホン・イヤホン難聴は、4,000Hz(ヘルツ)付近の高音域から聴力低下が始まります。日常生活には支障がない音域なので気づきにくいですが、健康診断の聴力検査や、携帯電話の着信音などの電子音が聞こえないのをきっかけに難聴が発覚するケースもあるようです。

④聴力の低下
会話中に聴き返すことが増えたり、周りの人には聞こえる音が自分だけ聴こえなかったりして「あれ? 聞こえが悪いかも…?」と思うことがあれば、聴力が低下している可能性があります。

松延さん

「ヘッドホン・イヤホン難聴の特徴は、ほとんどの場合、両耳に症状が起こることです。耳鳴り、耳閉塞感は難聴の初期にあらわれることが多く、聴こえにくさを自覚したときはすでに難聴が慢性化していると考えられます。症状の有無には個人差もありますが、耳鳴りや耳閉塞感がおさまらないなどの違和感があれば、ヘッドホン・イヤホンの使用をやめてすぐに耳鼻科を受診しましょう」

あなたは大丈夫? ヘッドホン・イヤホン難聴チェックリスト

ヘッドホン・イヤホン難聴の主な症状を紹介しました。当てはまるものがあるかチェックリストで確認してみましょう。

  • □1日1時間以上、連続してヘッドホンやイヤホンを使っている
  • □話しかけられても気づかないくらいの音量で、ヘッドホンやイヤホンで音楽を聴いている
  • □ヘッドホンやイヤホンを使用後、耳鳴りがすることがある
  • □耳がつまったような感じがする
  • □「テレビの音が大きい」と周囲から指摘されることがある
  • □普段の話し声が大きいと言われたことがある
  • □人の話を何度も聴き返したり、聴き間違えたりする

松延さん

「ヘッドホン・イヤホン難聴はとにかく早期に病院を受診することがポイントとなります。なにか1つ以上でも当てはまる項目がある人は、早めに耳鼻科を受診のうえ、医師に相談してみるとよいでしょう」

ヘッドホン・イヤホン難聴になる原因は?

ヘッドホン・イヤホン難聴になる原因は?

ヘッドホン・イヤホン難聴になる原因はそもそも何なのでしょうか。そのメカニズムについて松延さんに教えていただきました。

松延さん

「音を感知しているのは、耳の一番奥にある内耳です。内耳の中には『有毛細胞』という微細な毛が生えた細胞が並んでいて、その毛先についているセンサーが音(内耳の基底板の振動)をキャッチし、聞こえの神経を介して脳に情報を伝えています。

有毛細胞はとても繊細です。強大な音のエネルギーにさらされるうちに衰弱し、毛が折れたり抜けたりして、音を感知できなくなります。その結果、聴力が低下してしまうのがヘッドホン・イヤホン難聴です。

外で鳴っている音は拡散されますが、ヘッドホン・イヤホンは耳を密閉した状態で音を鳴らすため、音のエネルギーが減衰することなく内耳を直撃します。このときに有毛細胞が受けるダメージは相当なものです。それだけでなく、ヘッドホン・イヤホンはとめどなく何時間でも聴き続けてしまうことも問題となります。長時間連続して聴くことも耳を酷使し、有毛細胞を弱らせます」

ヘッドホン・イヤホン難聴のリスクは「音量 × 時間」で高まる

「ヘッドホン・イヤホン難聴の要因となるのは音量 × 時間」という松延さん。では具体的に、どのくらいの音量を、どのくらいの時間聴いたら問題となるのでしょうか。

松延さん

「WHOは『大人は80dB(デジベル)の音量を1週間当たり40時間以上、子どもは75dBの音量を1週間あたり40時間以上聴き続けると難聴のリスクがある』と警告しています。ただ、例えばコールセンターのスタッフが突然、ヘッドホン・イヤホン越しにお客さんに大声で怒鳴られて急性難聴になる例もあるように、短時間でも大音量を聴くことは耳に大きなダメージとなる可能性もあるんです。個人差もありますが、たとえ控えめの音量であっても、長時間連続して聴くことは耳に影響がないとは言えません。

最近だと、ヘッドホンやイヤホンを使った長時間のオンライン会議も増えているので、これを聞いて不安になってしまった人もいるかと思います。それが具体的にどのくらいリスクがあるのか、現在はまだよくわかっていないのですが、オンライン会議の場合、基本的に会話は音が途切れ途切れで、長時間ずっと会話を聴き続けていることはないでしょう。そのため、音が鳴り続ける音楽に比べるとリスクははるかに小さいと考えられますので、心配しすぎる必要はありません。ただし、念のために会議が終わったらヘッドホンやイヤホンを外して耳を休める時間を作ってあげましょう」

日常生活で聞こえる音はどのくらい? さまざまな音量(dB)の目安

dB(デシベル)とは音の大きさを表す単位のことで、私たちが日常的に過ごすオフィスなどの音は40~50dBほどといわれています。60dBが普通の会話の音量とされ、それ以上の70dB以上から「うるさい」と感じることが多くなるようです。

実際に身近なところで聞こえる代表的な音量の目安はこのようになります。

救急車などのサイレン 120dB
コンサート会場 110dB
地下鉄車内 100dB
芝刈り機 90dB
街頭 85dB
掃除機 75dB

ヘッドホン・イヤホン難聴は治せるの?

ヘッドホン・イヤホン難聴は治せるの?

実際にヘッドホン・イヤホン難聴になってしまった場合、適切な治療をすれば治るのでしょうか。

松延さん

「ヘッドホン・イヤホン難聴が怖いのは、一度なってしまうと治らないことです。なぜなら、損傷した有毛細胞は現在の医療では再生することができないからです。ただし、初期であれば回復する可能性はゼロではありません。人によりますが、耳鳴りや耳閉塞感に気づいてすぐに耳鼻科を受診し、ステロイドの投薬治療をして耳を休ませれば治ることもあります。それ以上進行させないためにも、耳に異変を感じたら放置せず、速やかに耳鼻科を受診することが重要です」

じわじわと進行し、気づいたときは重症に

日本ではまだ、ヘッドホン・イヤホン難聴の問題は顕在化していません。ヘッドホン・イヤホン難聴は何年もかけてゆっくりと進行し、顕在化するまで本人が気づきにくいからです。今は問題になっていなくても、このままいけば将来、老齢になる前に難聴になる人が相当数出てくる危険性があるそうです。

松延さん

「人間は40歳を超えると加齢による難聴が始まります。しかし、ヘッドホン・イヤホンで大音量の音を聴く習慣がある今の10~20代の若い人たちは、それよりも早く難聴が始まり、進行スピードも加齢性難聴よりも早いといわれています。今のところ、実際にヘッドホン・イヤホン難聴と診断される子どもたちや若い世代がここ数年で顕著に増えているというわけではありませんが、今後何十年か後に顕在化するのではないかといわれています。そうした事態を避けるには、今から適切な対策を啓蒙していくことが重要です」

予防のポイントは「音量」と「耳を休ませる」こと

予防のポイントは「音量」と「耳を休ませる」こと

松延さんによると、有効な治療法がないヘッドホン・イヤホン難聴は、予防がすべてで、ポイントは音量と時間だそうです。今からできる予防策を教えていただきました。

予防策① 耳にやさしい音量で聴く

周囲の音を遮断するほどの音量で聴くのは、耳にとって大きなダメージとなります。耳を守りながら音楽を楽しむ音量の上限は、約65dB。ヘッドホン・イヤホンをつけたまま、周囲の会話が聴こえるくらいの音量が目安です。

iPhone で音量を確認してみよう

iPhone では、再生されている曲の音量や、周辺の環境音のレベルを測定することができます。
『設定』→『コントロールセンター』 → 『聴覚』でコントロールセンターに聴覚機能を追加し、画面右上を下にスワイプしてコントロールセンターを表示してみましょう。

再生している音楽の音量や周辺の環境音の音量がdB表示され、80dBを超えると大音量と警告してくれます。測定した音量レベルはヘルスケアアプリにも記録されるため、日々どのくらいの音量・時間で音楽を聴いているのか意識してみましょう。

  • Appleに互換性のあるヘッドホン・イヤホン製品のみ対応しています。

予防策② 休憩しながら聴く

音を絶え間なく聴き続けることが、耳には大きな負担となります。例えば、1時間使ったらヘッドホン・イヤホンを外して10分休憩するなど、休み休み聴くことを心がけましょう。

要注意なのは、イヤホンで音楽を聴きながら寝る習慣がある人です。長時間音を聴き続けることなり、耳のためには控えたほうが無難です。寝るときはヘッドホン・イヤホンを外し、耳も休ませましょう。

予防策③ ノイズキャンセリング付きのイヤホンを選ぶ

耳への負担を少しでも軽減するには、ノイズキャンセリング機能がついたヘッドホン・イヤホンを使うのもおススメ。電車や街中など騒がしい環境でも、ノイズキャンセリング機能で騒音をカットすれば、音量を上げすぎないで聴くことができます。

一方、骨伝導イヤホンは耳にやさしいと思われがちですが、骨を通して有毛細胞を刺激する仕組みのため、それ自体はヘッドホン・イヤホン難聴の予防になりません。使用の際は通常のイヤホン同様、音量と時間に気をつけましょう。

まとめ

いつでも、どこでもヘッドホンやイヤホンで手軽に好きな音楽を聴ける時代。ついつい、ノンストップで聴き続けてしまいますが、楽しいはずの音楽で耳の健康を損なうようなことは避けたいですよね。松延さんに教えていただいた予防策を参考に、耳を守りながら音楽を聴く新習慣を身につけていきましょう!

スマホのヘッドホン・イヤホン音量の機能を活用してみよう

①大音量・長時間使用の通知
iPhone には大音量で長時間ヘッドホン・イヤホンで音楽を聴いているとき、『音量を下げてください』という通知を届けてくれる機能があります。通知を受け取った後は、自動的に音量が小さく設定されます。通知に関する詳細を確認するには、『ヘルスケア』アプリ→右下の『ブラウズ』→『ヘッドフォン通知』をオンにしましょう。

①大音量・長時間使用の通知

②大きなヘッドホン・イヤホンの音量を抑える設定
iPhone は、自動的にヘッドホン・イヤホンの音量の上限を抑える機能もあります。
『設定』→『サウンドと触覚』→『ヘッドフォンの安全性』→『大きな音を抑える』をオンにしましょう。スライダを動かすことによって、デシベルの調整もできます。これによって iPhone がヘッドホン・イヤホンの音量を分析し、設定した音量以上にならないよう調整してくれます。

②大きなヘッドホン・イヤホンの音量を抑える設定

Android向けにも最大音量の設定ができるアプリもありますので、上手に活用してみましょう!

(掲載日:2023年5月30日)
文:勝部美和子
編集:エクスライト

ノイズキャンセリング付きなど、ヘッドホン・イヤホンの選び方はこちらで紹介しています