「雪の中でも、住民の足となるバスの運行を止めたくない」
北海道河東郡上士幌町(かみしほろちょう)では、今まさに自動運転バスの運行が行われ、町内の移動や通学などに利用されています。
上士幌町は札幌から車で3時間半ほどの道東エリアに位置しており、人口は約4,800人、町内の約76%が森林地帯という自然豊かな場所です。高齢化が進むこの町では、高齢者らの足となる公共交通維持への懸念や将来的な交通事業の担い手不足などの課題を抱えています。
この課題解決に向け、ソフトバンク子会社であるBOLDLY株式会社(以下、BOLDLY)が上士幌町と取り組む自動運転バス事業を取材しました。
目次
お話を聞いた方
上士幌町役場 デジタル推進課
鈴木 勇汰(すずき・ゆうた)さん
上士幌町役場 デジタル推進課(BOLDLY株式会社より出向)
吉原 文啓(よしはら・ふみひろ)さん
BOLDLY株式会社
梶尾 龍之介(かじお・りゅうのすけ)さん
氷点下20度になることも…。極寒の地域で走る自動運転バス
少しずつ周囲の山頂が白く色づき、身の引き締まるような寒さが冬の訪れを感じさせる頃、降雪地域では少しずつ冬支度が始まります。
「北海道の冬は路面の凍結や積雪でバスだけでなく一般の車両も走行できなくなるので、スタッドレスタイヤへの交換はもちろん、凍結防止剤や砂まき、除雪が欠かせません」
そう話すのは、上士幌町役場で自動運転バスの普及に取り組む鈴木さん。 鈴木さんは、将来の地域交通に課題を感じBOLDLYとの協業による自動運転バスの取り組みを推進してきたメンバーの1人。
「しかも、自動運転バスは一般的なバスと作りが違うので、走行ルート上の除雪対策や雪山にあわせてバス停の場所を変更させるといった特別な対策が必要なんです。バス停を移動させるなんて他の地域では考えられないですよね」
鈴木さんと上士幌町役場で席を並べるBOLDLYの吉原さんもうなずく。
「一部のバス停は、地域のコミュニティバスとバス停を共用しているので住民の方との会話や理解も重要です。特に冬場は足元も悪く、短距離でもバスを使いたいという声をいただくので、足となるバスを止めないよう努めています」
上士幌町では2017年から自動運転バスの実証実験を続けており、2021年には日本初となる公道での雪道走行の実験が5日間にわたって行われました。町の中心部となる道の駅や交通ターミナルなど計6カ所を結ぶ往復6.4kmのルートを自動運転バスが走行。定時運行率98%、自動運転割合90%以上と、積雪のない他県での実験よりも良い結果となったのです。
実際に利用した町民からは、「想像していたより乗り心地が良く快適だった」「雪道なのにスムーズで安心感があった」「早く実用化してほしい」といったポジティブな意見が多く寄せられ、実証実験は成功を収めたかのように思われました。
しかし実は、まだ隠れた課題があったのです…。
雪は「障害物」? 雪が降るとバスが止まってしまう… その解決策とは
2022年12月、地元の交通事業者と協力し、公道における自動運転バスの定常運行が開始されました。この冬、北日本や日本海側の地域はたびたび強烈な寒波に見舞われ、特に1月以降は上士幌町でも何度も積雪を観測。2021年の実証実験時とは異なる、この「雪が多い」という気象条件の大きな変化が、隠れていた課題をあぶり出したのです。
「車両に搭載しているセンサーが反応して、降っている雪の粒を障害物と判定してしまったり、路肩に積もった雪が運行ルートの妨げになって走行できなかったり… 他にもバス停位置の問題など、過去の実験では見えなかった課題が初めて見えてきたんです」
「地元の交通事業者と連携して、急ピッチで雪対応のマニュアル整備を進めています。降雪時の運行停止判断や休止の基準、利用者への運休告知の方法、運行再開に伴う試験走行などさまざまな内容を検討しました。他にも、積雪で走行ルートが確保できなくなるのを防ぐために除雪範囲を検討したり、走行中に雪が降り始めた場合の手動運転への切り替え対応方法など、予想していなかった課題への対応が次々と出てきました」
迅速な地域との連携は、住民の足となるバスの運営には必要不可欠。しかし、最初から理解が得られていたわけではないといいます。
「地域のバス会社には過去4回の実証実験の際も含めて、これまで複数回にわたり訪問や説明を行ってきました。過去の実証実験では連携協定を結んだり、バス停をお借りし共用するなどの協力をいただいたこともありました。一見競合するように思えるので、最初は理解を得にくいこともあるのですが、これまでの経緯もあり、中長距離を担う路線バスと近距離の域内循環を担う自動運転バスで補完し合っていくんだということを理解、協力いただくことができました」
「住民の理解に関しても、実証実験を重ねたことで認知が上がってきた実感はありますし、貨客混載の実験などではその利便性を実感いただけた住民もいて、少しずつ理解は得られてきていると思います。とはいえ、まだまだ『乗車方法が分からない』などの声をいただいているので、より便利に使ってもらえるようさらに体制を整え改善を進めていきます」
新しい価値提供や信号機との連携も。自動運転バスとつくるこれからの町
地域と連携し、住民の足として活躍する自動運転バス。上士幌町では自動運転バスを活用して、どんな未来を目指していくのでしょうか。
「今後は、人や荷物を運ぶだけではなく、移動に対して新たな付加価値を提供できないかと考えています。例えば、観光案内などの情報を車内で見ることができるとか、車内で簡易に健康チェックができるといった活用方法です。他にも、定時運行以外の時間はホテルの送迎バスとして活用するなどの使い分けなども検討しています」
「アンケートでも、『ここを走ってほしい』というリクエストは多くいただいているので、走行ルートは広げていきたいですね。上士幌町は町の中心部に人口の8割が集中しているので、ルートを拡張しバス停を密にしていくことで移動のハードルを下げ、町民の利便性を上げられると考えています」
「少し先の未来にはなりますが、実は通信による信号機と車両の連携も考えています。これが実現できれば、現在行っている信号機での手動オペレーションがなくなり、信号機のある交差点もスムーズに通過できるようになります。上士幌町は道路幅が広く自動運転に向いていて、雪道での走行を含め90%以上の自動運転が達成できています。運転手なしで走行できるレベル4の自動運転についても、日本初となる市街地公道での走行をこの上士幌町で実現したいですね」
ソフトバンクのマテリアリティ ③オープンイノベーションによる新規ビジネスの創出
ソフトバンクは、SDGsの達成に向けて6つのマテリアリティ(重要課題)を特定。そのうち、SDGsの目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」、目標11「住み続けられるまちづくりを」を踏まえた「オープンイノベーションによる新規ビジネスの創出」では、来るべき未来に向けて、最先端テクノロジーを生かした新しいビジネスを、パートナーとともに創り出します。
(掲載日:2023年3月13日)
文:ソフトバンクニュース編集部
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