子どもの中学・高校進学を機に、スマホデビューを考えている家庭は多いと思います。しかし、スマホやネット利用にまつわるさまざまなトラブルを耳にすることが多い昨今、自分の子どももトラブルに巻き込まれないか、不安を抱えている親世代も多いのでは?
ITジャーナリスト・スマホ安全アドバイザーの鈴木朋子さんに、高額課金やSNSでのいじめ・炎上トラブル、ストーカーや犯罪被害など実際にあったスマホやネットのトラブル事例を伺いながら、子どもがトラブルに巻き込まれないために、防止策や親が考えておくべきポイントについてお聞きしました。
子どものスマホトラブルの予防方法を教えてくれるプロ
鈴木 朋子(すずき・ともこ)
ITジャーナリスト・スマホ安全アドバイザー。エンジニアとしての経験を経て、フリーライターに。入門書の著作は20冊を越える。中高生のデジタルカルチャーにも詳しく、ITの知見と2人の娘の子育て経験を生かして、子どもの安全なIT活用をサポートする「スマホ安全アドバイザー」として活動中。
- Twitter:@suzukitomoko
実際にあった5つのスマホ・ネットトラブル事例
- 事例①:高額課金 「7歳の男子がクレジットカードを抜き取って……」
- 事例②:いじめ・誹謗中傷 「いじめ動画をインスタに投稿して炎上」
- 事例③:ストーカー被害 「瞳に映った風景から自宅を特定して……」
- 事例④:個人情報の漏えい・SNS炎上 「缶ジュースをお酒と勘違いされて……」
- 事例⑤:著作権侵害 「漫画を気軽にアップロードして逮捕に……」
インターネットを使うときどんな不安を感じている?
総務省が発表している「平成30年通信利用動向調査の結果」によると、インターネットを利用するときに不安を感じるものとして一番多いのが、個人情報にまつわる不安。また「架空請求やインターネットを利用した詐欺」への懸念は依然として高く、また前年度から4.6ポイント上昇した「電子決済の信頼性」など、お金に関するトラブルの不安も高まっているようです。
インターネット利用における不安の内容
(出展:総務省「平成30年通信利用動向調査」)
実際にあった5つのスマホ・ネットトラブル事例と、プロ直伝の防止策
事例①:高額課金 「7歳の男子がクレジットカードを抜き取って……」
7歳の男の子が、親の財布からクレジットカードを抜き取り、スマホゲームに課金。クレジットカードの仕組みは理解していないが、「数字を入力すれば買い物ができる便利なカード」くらいの認識で使ってしまったのかもしれない。このような高額課金トラブルは後を絶たないという。
「親のメールアカウントなどを子どもと共有している家庭も多いと思うのですが、決済情報がアカウントにひも付いていて、子どもがいつのまにか買い物をしている事例もよく聞きます。親が使っていた古いスマホをゲーム用として子どもに貸していたら、アカウント情報や支払い情報がそのまま残っていたため、課金されていた……というケースも。
子どもがまだ小さかったとしても、親は親、子どもは子どもでそれぞれアカウントを作って、なおかつ子どもが使うスマホにはフィルタリングをしておくなどの工夫が必要です。警視庁が発表しているデータ※では、SNSで犯罪に巻き込まれた子どもの9割近くが被害時にフィルタリングを利用していなかったというデータもあります。親もまたフィルタリングの重要性をしっかり認識しておくことが重要です」
「親のメールアカウントなどを子どもと共有している家庭も多いと思うのですが、決済情報がアカウントにひも付いていて、子どもがいつのまにか買い物をしている事例もよく聞きます。親が使っていた古いスマホをゲーム用として子どもに貸していたら、アカウント情報や支払い情報がそのまま残っていたため、課金されていた……というケースも。
子どもがまだ小さかったとしても、親は親、子どもは子どもでそれぞれアカウントを作って、なおかつ子どもが使うスマホにはフィルタリングをしておくなどの工夫が必要です。警視庁が発表しているデータ※では、SNSで犯罪に巻き込まれた子どもの9割近くが被害時にフィルタリングを利用していなかったというデータもあります。親もまたフィルタリングの重要性をしっかり認識しておくことが重要です」
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- ※参考:警視庁「平成30年におけるSNSに起因する被害児童の現状」
課金をブロックできる無料サービス「ジュニアスマホ」
スマホの実機はそのままで、中身だけ子ども向けに変更できるというサービス。しかも、月額利用料金は無料で申し込むだけ。こちらで5つの特長を紹介しています。
事例②:いじめ・誹謗中傷 「いじめ動画をインスタに投稿して炎上」
SNSが登場したことで、新しい形のいじめも増えているという。2018年に新潟県のある高校で、女子生徒が男子生徒の顔に生理用ナプキンを貼りつけ、その動画を「Instagram」に投稿。動画はまたたく間に拡散されて炎上し、投稿した女子高生の学校名や名前が暴露されてしまう事例があった。
「SNSでのいじめで多いのは、LINEで裏グループなどを作って、そこで特定の人の悪口を言う仲間外れ系。あとは、LINEのステータスメッセージ欄に悪口を書くようなやり方もよく目にします。一見普通の文言だけど、画面を下までスクロールすると、最後に『あいつムカつく』とか書いてあるんです。Instagramのストーリーズには質問やアンケートを受け付ける機能がありますが、そこでひどい言葉を投げつけたりする事例もありますね。
友達のアカウントを乗っ取ったり『なりすまし』を行う事例も。友だちの誕生日などからパスワードを推測し、アカウントに侵入。悪意あるメッセージや写真を他人に送り付けたりする。やっている本人にはあまり罪の意識がなかったりするのが、やっかいなポイントです」
「SNSでのいじめで多いのは、LINEで裏グループなどを作って、そこで特定の人の悪口を言う仲間外れ系。あとは、LINEのステータスメッセージ欄に悪口を書くようなやり方もよく目にします。一見普通の文言だけど、画面を下までスクロールすると、最後に『あいつムカつく』とか書いてあるんです。Instagramのストーリーズには質問やアンケートを受け付ける機能がありますが、そこでひどい言葉を投げつけたりする事例もありますね。
友達のアカウントを乗っ取ったり『なりすまし』を行う事例も。友だちの誕生日などからパスワードを推測し、アカウントに侵入。悪意あるメッセージや写真を他人に送り付けたりする。やっている本人にはあまり罪の意識がなかったりするのが、やっかいなポイントです」
ネットいじめの最新事例や対策についてはこちら
事例③:ストーカー被害 「瞳に映った風景から自宅を特定して……」
アイドル活動をしている女性がネットにアップした写真。その瞳に映っている景色から最寄駅を特定し、自宅までストーカー行為を働いた男が2019年に逮捕された。「TikTok」などの動画投稿アプリが中高生の間でも流行っているが、動画に映り込んだ景色やアイテムから、個人情報や場所を特定することは簡単にできてしまうという。
「静止画の画像はアップする前にしっかりチェックする人は結構多いですよね。しかし、動画だと一瞬の映り込みなどを見逃しがちです。特徴的な建物が映り込んでいたり、背後の机に自分の名前が書いてあるノートが置いてあったり、細かなところからも個人情報の特定につながるので、注意が必要です」
事例④:個人情報の漏えい・SNS炎上 「缶ジュースをお酒と勘違いされて……」
缶ジュースを飲んでいるところをSNSにアップしたある女子高生。「缶がお酒に見える!」とあらぬ疑いをかけられ、第三者に拡散されてしまった。学校に相談後、親とともに警察にも相談して、なんとか事なきを得たという。他にも、アルバイト店員がバイト先での悪ふざけを動画に撮って投稿し、大炎上してしまう騒動も。
「『なぜそんなことをやってしまうのか?』そもそも疑問を持つ人が大多数だと思いますが、そうした炎上動画を投稿する人は、仲間内だけに見せるような感覚でネットに投稿してしまう。部室とかで友だちにおもしろ自慢をしているようなノリです。
しかし、例えアカウントに鍵をかけていたとしても、誰かがそれをスクショして外に出したら、ネット上ではあっという間に拡散されてしまいます。限定投稿であったとしても、ネットに一度アップした情報は、一生残る可能性があることは意識しておくべきでしょう。フェイクニュースの拡散に加担しないためにも、疑わしい情報は気軽に拡散しない受け手側の配慮も大切です」
「『なぜそんなことをやってしまうのか?』そもそも疑問を持つ人が大多数だと思いますが、そうした炎上動画を投稿する人は、仲間内だけに見せるような感覚でネットに投稿してしまう。部室とかで友だちにおもしろ自慢をしているようなノリです。
しかし、例えアカウントに鍵をかけていたとしても、誰かがそれをスクショして外に出したら、ネット上ではあっという間に拡散されてしまいます。限定投稿であったとしても、ネットに一度アップした情報は、一生残る可能性があることは意識しておくべきでしょう。フェイクニュースの拡散に加担しないためにも、疑わしい情報は気軽に拡散しない受け手側の配慮も大切です」
気付いたときにはもう遅い? 近年増加する「デジタルタトゥー」問題。
事例⑤:著作権侵害 「漫画を気軽にアップロードして逮捕に……」
2010年、愛知県の中学生が漫画作品をYouTubeに無断でアップロードして逮捕された。今でこそよく耳にするような事例だが、YouTubeのユーザーとして初めて、著作権侵害で逮捕された事例だという。
「『ネット上に落ちている情報は無料!』と思っている人も、最近は多いのではないでしょうか。音楽のサブスクリプションサービスは一般化しつつありますが、お金にあまり余裕がない中高生は、YouTubeの音源を抜き取る違法アプリなどを使って音楽を聴く人も多いのが現状です。
ネットに落ちていた画像や、雑誌のページを写真に撮って気軽にSNSに投稿してしまう人、好きなアニメのキャラクターやアーティストの写真をSNSのプロフィール画像にしている人もよく見かけます。大人でも多いですよね。
好きなアーティストにお金を還元しなければ、そのアーティストは活動を続けていけないこと。ネット上のコンテンツにも著作権や肖像権というものがあること。そういった社会の仕組みみたいなところから、親がしっかり教えて上げてください」
「『ネット上に落ちている情報は無料!』と思っている人も、最近は多いのではないでしょうか。音楽のサブスクリプションサービスは一般化しつつありますが、お金にあまり余裕がない中高生は、YouTubeの音源を抜き取る違法アプリなどを使って音楽を聴く人も多いのが現状です。
ネットに落ちていた画像や、雑誌のページを写真に撮って気軽にSNSに投稿してしまう人、好きなアニメのキャラクターやアーティストの写真をSNSのプロフィール画像にしている人もよく見かけます。大人でも多いですよね。
好きなアーティストにお金を還元しなければ、そのアーティストは活動を続けていけないこと。ネット上のコンテンツにも著作権や肖像権というものがあること。そういった社会の仕組みみたいなところから、親がしっかり教えて上げてください」
知っていますか? 中・高校生のスマホトラブル
SNS・課金トラブル、ウェブサイトへの誹謗中傷、ネットいじめなど、ネット上には危険なトラブルがたくさんあります。どんな危険性の種類があるのか、親も知識を身につけておきましょう。
(マカフィー×MMD研究所調べ 参照元:MMD研究所 2016年9月)
事件を防ぐために親が心がけておくべきこと。子どもが使っているアプリ、知っていますか?
自分の子どもがトラブルに巻き込まれないために、親が心がけておくべきことはどんなことでしょうか。
親世代で「正直、最近の若者のスマホ事情はよくわからない」という人って、きっと多いと思うんです。実際、スマホや流行のアプリの使い方に関しては、現役の子どもたちの方が何枚も上手だったりする。だからといってあきらめるのではなく、子どもと一緒に親もアプリやスマホの使い方を学んでいく姿勢が何よりも大切です。
例えばどんなことから始めればいいのでしょうか?
子どもが使っていたり、学校で流行っていたりするアプリ・ゲームはとりあえず親も入れてみる。「Twitter」や「Instagram」などのSNSだったら、投稿はしなくてもアカウントだけは作成してみる。
例えば「Instagramストーリーズに上げた動画を友だちにスクショされて、ツイッターで拡散された」と子どもから相談されても、やったことがなければ、何のことやらわからなかったりしますよね。そうなると「お母さんに相談しても意味がない」となってしまう。
他にも最近よくあるのが、ゲームのボイスチャットで親密になり、「会おう」と誘われてトラブルに巻き込まれるパターン。それがどんなゲームなのか、対戦ゲームなのか、チャット機能などは付いているのか、大まかな概要だけでも知っておけば対処もしやすいですよね。
それに加えて、「お母さんも入れてみたけど、使い方が分からないから教えて」とか「最近はどんな人たちとインスタで交流してるの?」とか、気軽に話せるような関係・雰囲気を日頃から作っておくことも大事です。
大人の勘違い? 子どもは親よりはるかにSNS慣れしています。
子どものSNSアカウントは、親もフォローした方がいいのでしょうか?
そこまで厳しく監視する必要はないと思います。それに今の子どもたちはどんどん裏アカをつくっちゃいますから(笑)。複数のアカウントを持つのが普通。親には教えないアカウントや非公開のアカウントも絶対あるので、全部をカバーするのはそもそも無理です。SNSデビューしたての頃は、メインアカウントだけ教えてもらって、どんな風に使っているか最初に様子を見る。その程度で十分だと思います。
デジタルネイティブ世代は、親世代と比べてプライバシーやコミュニケーションの感覚も違ってそうですね。
最近の子どもたちはSNSで自分のことをなんでも発信している、とか大人は思いがちですけど、意外とそんなこともなくて。例えば、友達とのLINEでの会話をスクショで撮られて他の人に回されるかもしれない……そんな緊張感もあるわけですね。
アカウントの使い分けや住み分けもすごく上手です。アニメ好きな子がいたとして、その子はリアル友達にアニメの話をしてもしょうがないと分かっているので、学校の話題はリアル友達のタイムラインで、アニメの話は趣味専用のアカウントを別に作ってそっちでやる。自分の「見え方」「見られ方」に対する意識はすごく敏感なので、そのあたりのTPOは大人よりわきまえているかもしれません。
大人が子どもたちから見習うべきポイントも多そうですね。
子どもって、大体が親の名前をネットやSNSで検索するんですよ。そのとき過去にやらかしてしまった親の痛い投稿や、過激な発言が子どもに見つかってしまうことが増えているんです。そのあたり、意外と大人の方がだだ漏れになっているので、子どもにスマホを買ってあげる前に、自分の過去の投稿などはあらためてチェックするなど、親も気をつけた方がいいですね。
デジタルとアナログの両輪で子どもを見守る。家庭でのスマホルールの作り方
子どものスマホデビューにあたり、家庭ではどんなルールづくりをしておくべきですか?
まず前提のスタンスとして「スマホはあくまで、親が子どもに貸しているもの」というスタンスでいいと思います。高校生くらいまでは、親がお金を支払ってあげる家庭が多いと思うので。それを踏まえた上で、子どもと事前にしっかり話し合ってルールに対する認識を共有すること。
親の方ではルールを決めていたつもりでも、子どもはルールだと認識していなかったり、忘れていたりすることも多い。例えば「22時を過ぎたらリビングに置こうね」とか「テスト1週間前は親に預けてね」とか、ちゃんと紙に書いて残しておいて、ルールを破った場合はどうするかまで決めておければベターです。
ルールを定める上で、親としてはどんなことを心がけるべきでしょうか?
大切なのは、あまり固く考え過ぎず、子どもの成長やライフスタイルの変化に合わせてルールを柔軟に見直していくこと。子どもにも子どもの事情があることを理解した上で、例えば新しくバイトを始めたり、遅い時間まで塾に通い始めたりしたときは、状況に合わせてルールを都度見直していく。
結局、一番大切なのは親子のコミュニケーション。私はよく「子どもの見守りは、デジタルとアナログの両輪で」と表現しています。
- デジタル:フィルタリングやペアレンタルコントロール※などのツール・機能を活用する
- アナログ:子どもがトラブルに巻き込まれたときに、すぐに相談できるようなオープンな関係づくりを日頃から心がける
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- ※子どものスマホ利用を、親が監視・制限する機能
子どもが帰ってきてずっとスマホをいじっていても、「今日は友だちと出かけたから、その写真をインスタにアップしているんだな」と想像がつけば、それほど不安にはなりませんよね。一番怖いのは、親とコミュニケーションが取れないからネットに逃げ込む、部屋に閉じこもって一人ずっとスマホをいじっている、そんな状況です。そうならないためにも、自分がスマホやアプリに詳しくなくても「頭ごなしに全て禁止!」となるのではなく、親子で一緒に学んでいく姿勢が大切なのだと思います。
いかがでしたか? スマホを持つことのメリットだってたくさんある、と鈴木さんは言います。頭ごなしに禁止・制限するのではなく、子どものスマホ利用を前向きに捉えて、親子で一緒にスマホとのポジティブな付き合い方を考えていくヒントになれば幸いです。
親が知らない子どものスマホ
鈴木さん執筆の著書。若者たちのSNS、ネット実情と、親として知っておくべき知識、注意点を丁寧に解説しています。子どものスマホデビュー前に読んでおくと役に立つ本です。
お知らせ |
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合わせて読みたい、鈴木さんに取材した記事
(掲載日:2020年2月4日、更新日:2023年1月31日)
文・編集:エクスライト
撮影:山﨑悠次
子どもを守るためにフィルタリングをしっかりと。「スマホ安心設定ガイド」
子どもを有害サイトやアプリから守るためのフィルタリングの設定方法や、利用状況の管理方法、課金を防ぐための機能制限方法などを説明しています。ソフトバンク/ワイモバイルショップの店頭で配布しているので、ぜひご利用ください。巻末にはスマホルール作成表もありますよ。