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カーボンニュートラルとは? 脱炭素社会を実現するべき理由や世界の動き、企業の取り組みを専門家が解説

カーボンニュートラルとは? 脱炭素社会を実現するべき理由や世界の動き、企業の取り組みを専門家が解説

気候変動(地球温暖化)への対策が世界全体の課題となっている今。その根本的な原因である「温室効果ガス」の排出量をどのように減らしていくかは、国や自治体だけでなく、企業や個人でも考えていきたいトピックです。

そのために重要なのが、日本政府も2050年までの実現を宣言している「カーボンニュートラル(炭素中立)」という言葉。そこで今回は、気候科学研究の第一人者である江守正多さんに、カーボンニュートラルの意味や実現に向けた世界の動き、企業の取り組みについて、教えてもらいました。

教えてくれた気候科学の専門家

江守 正多(えもり・せいた)さん

国立環境研究所 地球システム領域 副領域長 江守 正多(えもり・せいた)さん
1970年神奈川県生まれ。1997年に東京大学大学院 総合文化研究科 博士課程にて博士号(学術)を取得後、国立環境研究所に勤務。2021年より地球システム領域 副領域長。社会対話・協働推進室長。東京大学 総合文化研究科 客員教授。専門は気候科学。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次および第6次評価報告書 主執筆者。著書に「異常気象と人類の選択」「地球温暖化の予測は『正しい』か?」、共著書に『地球温暖化はどれくらい「怖い」か?』『温暖化論のホンネ』ほか。

  • 取材はオンラインで実施しました。

カーボンニュートラルとは? —温室効果ガスを“プラスマイナスゼロ”にし脱炭素社会を目指す

カーボンニュートラルとは? —温室効果ガスを“プラスマイナスゼロ”にし脱炭素社会を目指す

私たちは、家庭での電力・ガスの使用やゴミの排出から始まり、自動車や航空機の利用、工業、農業にいたるまで、さまざまな活動を通して「温室効果ガス(GHG)」を排出しながら暮らしています。

「温室効果ガス」とは

地球の大気圏に存在する、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、フロンといった、赤外線を吸収・放出して地球を暖める気体の総称。中でも二酸化炭素がその大部分を占めています。温室効果ガスがあることで、地球は人間が生きていける温度に保たれています。ちなみに、自然界でもっとも豊富な温室効果ガスは水蒸気ですが、人為的な排出により大気中に増えるものではないので、上に挙げた温室効果ガスとは区別されます。

「カーボンニュートラル(炭素中立)」とは、そうした人間活動によって排出される温室効果ガスを、人間活動によってすべて吸収・除去することで、排出量を“プラスマイナスゼロ”にすることを意味します。また、カーボンニュートラルが実現された社会を「脱炭素社会」と呼びます。

ポイントは、排出も吸収も「人間活動」によること

カーボンニュートラルを実現するためにはまず、人間活動によって排出される温室効果ガスの量を、可能なかぎり削減することが大前提となります。その上で、やむを得ず排出してしまった分を吸収・除去することで、「排出量-吸収量=ゼロ」を目指します。

ポイントは、排出も吸収も「人間活動」によること

(出典)国立環境研究所 温室効果ガスインベントリオフィス「日本の温室効果ガス排出量データ」

  • 図は経済産業省作成

江守さん

「カーボンニュートラルを理解するうえで大事になるのは、『排出』と『吸収』が人間活動に限定されているという点です。というのも、温室効果ガスのうち、人間活動により大気中に排出された二酸化炭素のおよそ半分は、人間が何もせずとも陸上の生態系や海が自然の働きの中で吸収してくれています。しかし、この自然の吸収量は一定ではなく、どんどん減ってしまう可能性がある。だから、人間活動で排出した分が、自然の吸収量と釣り合えばいいということではなく、植林などによって人為的に吸収する量と釣り合わなければいけません」

減らすべきは「温室効果ガス」? それとも「二酸化炭素」だけ?

カーボンニュートラルで差し引きゼロにすべき対象は、「温室効果ガス」と定義する場合もあれば、「二酸化炭素」のみとする場合もあります。どちらが正しいのでしょうか? ……答えは両方。正確には前者を「クライメイトニュートラル(気候中立)」、後者を「カーボンニュートラル(炭素中立)」と区別しますが、世界的な認識がそろっていないこともあり、(この記事を含め)前者の意味で「カーボンニュートラル」と使うケースもあります。

カーボンニュートラルは、なぜ実現するべき? —地球温暖化を止めるため全世界が選んだ手段

カーボンニュートラルは、なぜ実現するべき? —地球温暖化を止めるため全世界が選んだ手段

カーボンニュートラルを目指す背景には、深刻化している人間活動による気候危機=地球温暖化の問題があります。産業革命以降、温室効果ガスが増えたことで、世界の平均気温は1℃程度上昇しています。このまま温暖化が進行すると、洪水や海面上昇、水・食糧不足、生態系の損失など、さまざまな危機的状況を招くと言われており、私たちはすでにその一部に直面しています。

気候変動は「SDGs」とも切り離せない

気候変動は「SDGs」とも切り離せない

気候変動への対策は、「SDGs」においても重要な課題の一つ。17ある目標のうち、目標13「気候変動に具体的な対策を」では、“気候変動のスピードをゆるめ、次世代への影響を減らす”といったゴールが掲げられています。

2015年に開催された「パリ協定」では、地球温暖化を食い止めるために「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分に低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求する」という合意がなされました。

実現のカギは、エネルギー起源の排出量を減らすこと

それでは、カーボンニュートラルを実現するためには、どのような対策が必要なのでしょうか。

カギとなるのは、温室効果ガス(GHG)の大部分を占めている二酸化炭素。その多くは、石炭、石油、天然ガスといった化石燃料を燃やし、エネルギーを生み出す過程で発生しています。

実現のカギは、エネルギー起源の排出量を減らすこと

(出典)国立環境研究所 温室効果ガスインベントリオフィス「日本の温室効果ガス排出量データ」

  • 図は経済産業省作成

つまり、このエネルギー起源の二酸化炭素の排出量をいかに減らせるかが、カーボンニュートラル最大の課題になります。具体的な取り組み方としては、次のような流れが考えられています。

①エネルギー消費量の削減 エネルギー消費量そのものを減らしていく。節電や省エネ家電の利用のほか、建物の断熱、IoTによる最適化(人感センサーで電気や空調を自動で制御するシステムなど)といった、さまざまな方法がある。
②電力部門の再エネへのシフト 電力部門は、これまでの石炭・ガス・火力発電から、自然界に存在する太陽光、風力、水力、地熱などを利用した再生可能エネルギー(再エネ)による発電へと転換していく。再エネ以外にも、二酸化炭素を出さずに製造した水素やアンモニアを燃やす火力発電、原子力発電の利用も選択肢として議論されている。
③非電力部門の電化/クリーンな燃料へのシフト 非電力部門では、まずはエネルギーを電化して、再エネでまかなっていく。航空機や高熱を利用する産業部門など、技術的に電化が難しい分野では、植物を原料とするバイオマス燃料や水素燃料、合成燃料といったクリーンな燃料へ切り替える。
④植林やネガティブエミッション技術 ①~③の方法でもなお、技術面やコスト面で脱炭素化が難しい場合、人為的に二酸化炭素を大気から吸収・除去する。具体的には植林のほか、農法を工夫して農地の土壌に炭素を蓄える方法などがある。また、地中深く穴を掘って、高圧で二酸化炭素を注入して貯留する「CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)」を利用した“ネガティブエミッション”と呼ばれる技術の活用も検討されている。

江守さん

「ここでは『排出と吸収は、必ずしも同じ場所でなされる必要はない』というのも一つのポイントです。二酸化炭素は大気中で満遍なく混ざっているので、どこで排出して、どこで吸収しても構わない。例えば、日本で排出した分を別の国で吸収してゼロにすれば、それはカーボンニュートラルになるわけです」

カーボンニュートラル実現に向けた世界・日本の動きは? —国によって達成度に開きがある

カーボンニュートラル実現に向けた世界・日本の動きは? —国によって達成度に開きがある

カーボンニュートラルという言葉はもともと、植物を原料とするバイオマス燃料などの個別技術に関して以前から使われていました。バイオマス燃料は燃やすときに二酸化炭素を排出しますが、それは原料の植物が光合成で吸収している分なので、実質的には排出ゼロである、という考え方です。

江守さん

「気候変動問題への世界的な取り組みは1990年代から始まりましたが、当初、各国の動きはまだまだ鈍かったんです。しかし、人間活動による温暖化が科学的に証明されてきたこと、大雨や山火事、熱波などの異常気象によって実際に被害が出始めたこと、再エネなどの対策コストが安くなってきたことで、世界の認識は大きく変わり始めます」

「カーボンニュートラル先進国」はイギリス

イギリスは再エネを積極的に導入し、石炭火力からの脱却を急速に進めることで、1990年からの温室効果ガス排出量をすでに5割近く減らしており、2035年までに78%削減を目標としています。しかし一方で、「見かけの減少量だけで進行度を評価することには慎重になるべき」との声も。

「カーボンニュートラル先進国」はイギリス

江守さん

「例えば、イギリスは中国などからたくさんのものを輸入して使っていますが、中国で温室効果ガスを排出して作られたものをイギリスで使っても、それはイギリスの排出量には加算されません。だから、『いくら国内の排出量を減らしても、代わりに他国に排出させているのでは意味がない』という見方もあるのです」

日本にとって「2050年カーボンニュートラル」は現実的?

日本では、2020年に菅義偉首相が「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言。その後、中間目標として「2030年までに温室効果ガスを46%削減する(2013年比)」「さらに50%の高みを目指して挑戦を続ける」と表明しました。

日本にとって「2050年カーボンニュートラル」は現実的?

江守さん

「46%という数字は、日本の現実をみると少し背伸びした目標と言えるかもしれませんが、一方で『それでは不十分』という声もあります。いずれにしても、この数字は具体的な削減の見込みを積み上げて出されたものではないので、実現の道筋について早急に検討すると同時に、想定を超えた削減を実現するための社会・産業の構造転換を進めなくてはなりません」

カーボンニュートラル実現に向けた企業の取り組みは? —新たなビジネスチャンスが広がっている

カーボンニュートラルの実現に向けて世界が足並みをそろえて動き始めた今、企業が環境に配慮しているかどうかは、投資家や消費者からの評価に直結するようになっています。それはESGという考え方が、広く浸透してきたことからもうかがえます。

「ESG(環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance))」とは

「ESG」とは

企業の長期的な成長のためには、この三つの観点から長期的な事業機会や事業リスクを把握する必要があるという考え方が、世界的に広まりつつあります。

江守さん

「大企業を中心に、カーボンニュートラルへの取り組みを成長機会と捉える企業が増えていて、そうした動きはサプライチェーンなどを通じて中小企業にもおよんでいます。つまり、カーボンニュートラルを宣言しないと、取引してもらえない、融資を受けられないといった傾向が、これからどんどん強まっていくと思います」

最近注目を集めている「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」と「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」をかけ合わせた企業戦略も、その取り組みの一つとして捉えることができます。デジタル技術を活用しながら、企業活動と地球環境の双方の持続可能性を追求していくこと。そこには、新たなビジネスチャンスが広がっていると期待されているのです。

「DX」と「SX」とは

「DX」と「SX」とは

DXとは、デジタル技術の活用によって、企業や行政が事業や組織のあり方を変革し、人々の生活をより良い方向に導くこと。また、SXとは、企業の稼ぐ力とESGの両立を図ろうとする戦略方針のことです。

業種によって「実現しやすさ」に違いがある

企業ごとのカーボンニュートラルの目標や達成度を見る上で知っておくべきこととして、業種によって実現しやすさが変わってくる点を、江守さんは指摘します。

カーボンニュートラルを実現しやすい業種は、IT産業やサービス業、金融など

江守さん

「エネルギー集約型でない業種は、カーボンニュートラルが比較的進みやすいと言えますね。例えばIT産業ならば、自社サーバーの電力をすべて再エネに変えれば、それだけでかなりのインパクトがあるわけです」

カーボンニュートラルを実現しやすい業種は、IT産業やサービス業、金融など

カーボンニュートラルを実現しにくい業種は、製造業や素材産業、エネルギー産業など

江守さん

「エネルギー集約型の業種は、ビジネスそのものを構造から見直さなければいけないので、当然、カーボンニュートラルの実現は険しい道のりになります。石油会社やガス会社はこのまま石油・ガスを扱っていては立ちゆかなくなるので、“総合エネルギーソリューションプロバイダー”へと大転換しなくてはいけない。自動車製造業も同じように、“総合モビリティサービスプロバイダー”にならなくてはいけません。そこではやはり、DXやSXが一つの鍵になってくるでしょう」

カーボンニュートラルを実現しにくい業種は、製造業や素材産業、エネルギー産業など

ソフトバンクの「カーボンニュートラル2030宣言」

ソフトバンクの「カーボンニュートラル2030宣言」

 

ソフトバンクは、2030年までに自社の使用電力などについて、再生可能エネルギーの活用を実質100%に切り替えるとともに、AIやIoT等の最先端テクノロジーを活用した省エネへの取り組みを通じて、温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル2030」を目指しています。

カーボンニュートラル2030宣言

江守さん

「2030年の実現を目指しているのは素晴らしいと思います。先ほどもお話した通り、ソフトバンクグループの原点でもあるIT産業は、カーボンニュートラルの実現が期待されている分野。独自の強みによってできるだけ早くに実現し、日本のカーボンニュートラルの取り組みを先導していってもらえればと期待しています」

(掲載日:2021年6月22日)
イラスト:小林ラン
文:白石沙桐
編集:エクスライト

ソフトバンクの「カーボンニュートラル2030宣言」

ソフトバンクの「カーボンニュートラル2030宣言」