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カーボンニュートラル、ネットゼロとは? 脱炭素社会を実現するべき理由や世界の動き、企業の取り組みを専門家が解説

カーボンニュートラル・ネットゼロとは? 脱炭素社会を実現するべき理由や世界の動き、企業の取り組みを専門家が解説

気候変動(地球温暖化)への対策が世界全体の課題となっている今。その根本的な原因である「温室効果ガス(GHG)」の排出量をどのように減らしていくかは、国や自治体だけでなく、企業や個人でも考えていきたいトピックです。

そのために重要なのが、日本政府も2050年までの実現を宣言している「カーボンニュートラル(炭素中立)」という言葉。そこで今回は、気候科学研究の第一人者である江守正多さんに、カーボンニュートラルの意味や実現に向けた世界の動き、企業の取り組み、さらには一段進んだ「ネットゼロ」についても、教えてもらいました。

目次

教えてくれた気候科学の専門家

江守 正多(えもり・せいた)さん

東京大学 未来ビジョン研究センター 教授 江守 正多(えもり・せいた)さん
1970年神奈川県生まれ。1997年に東京大学大学院 総合文化研究科 博士課程にて博士号(学術)を取得後、国立環境研究所に勤務。2022年より同研究所 地球システム領域 上級主席研究員。東京大学 未来ビジョン研究センター教授を兼務。専門は気候科学。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次および第6次評価報告書 主執筆者。著書に『異常気象と人類の選択』『地球温暖化の予測は「正しい」か?』、共著書に『地球温暖化はどれくらい「怖い」か?』『温暖化論のホンネ』ほか。

カーボンニュートラル、ネットゼロとは? ー温室効果ガスを “プラスマイナスゼロ” にし脱炭素社会を目指す

カーボンニュートラル・ネットゼロとは? ー温室効果ガスを“プラスマイナスゼロ”にし脱炭素社会を目指す

私たちは、家庭での電気、ガスの使用やゴミの排出から始まり、自動車や航空機の利用、工業、農業に至るまで、さまざまな活動を通して「温室効果ガス」を排出しながら暮らしています。

「温室効果ガス」とは

地球の大気圏に存在する、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、フロンといった、赤外線を吸収・放出して地球を暖める気体の総称。中でも二酸化炭素がその大部分を占めています。温室効果ガスがあることで、地球は人間が生きていける温度に保たれていますが、人間活動によってその量が増えていることで、地球温暖化を引き起こしているのです。ちなみに、自然界でもっとも豊富な温室効果ガスは水蒸気ですが、人為的な排出により大気中に増えるものではないので、上に挙げた温室効果ガスとは区別されます。

「カーボンニュートラル」とは、そうした人間活動によって排出される温室効果ガスを、人間活動によってすべて吸収・除去することで、排出量を “プラスマイナスゼロ” にすることを意味します。また、カーボンニュートラルが実現された社会を「脱炭素社会」と呼びます。

それでは、「ネットゼロ」とはなんでしょうか?

「ネット(net)」とは、英語で「正味」という意味合い。つまりネットゼロとは、温室効果ガスの排出と吸収・除去のバランスが取れた “正味ゼロ” の状態を指します。

それゆえ「カーボンニュートラル」と「ネットゼロ」は同じ意味で使われることも多いのですが、実は2つの言葉は違う意味合いを持つ場合があります。詳しくは、この記事の後半で解説します。

ポイントは、排出も吸収も「人間活動」によること

カーボンニュートラルやネットゼロを実現するためにはまず、人間活動によって排出される温室効果ガスの量を、可能なかぎり削減することが大前提となります。その上で、やむを得ず排出してしまった分を吸収・除去することで、「排出量-吸収量=ゼロ」を目指します。

ポイントは、排出も吸収も「人間活動」によること

(出典)国立環境研究所 温室効果ガスインベントリオフィス「日本の温室効果ガス排出量データ」

  • 図は経済産業省作成

江守さん

「カーボンニュートラルやネットゼロを理解するうえで大事になるのは、『排出』と『吸収』が人間活動に限定されているという点です。というのも、温室効果ガスのうち、人間活動により大気中に排出された二酸化炭素のおよそ半分は、人間が何もせずとも陸上の生態系や海が自然の働きの中で吸収してくれています。しかし、この自然の吸収量は一定ではなく、どんどん減ってしまう可能性がある。だから、人間活動で排出した分が、自然の吸収量と釣り合えばいいということではなく、植林などによって人為的に吸収する量と釣り合わなければいけません」

減らすべきは「温室効果ガス」? それとも「二酸化炭素」だけ?

カーボンニュートラルで差し引きゼロにすべき対象は、「温室効果ガス」と定義する場合もあれば、「二酸化炭素」のみとする場合もあります。どちらが正しいのでしょうか?
……答えは両方。正確には前者を「クライメイトニュートラル(気候中立)」、後者を「カーボンニュートラル(炭素中立)」と区別しますが、世界的な認識がそろっていないこともあり、(この記事を含め)前者の意味で「カーボンニュートラル」と使うケースもあります。

カーボンニュートラルやネットゼロは、なぜ実現するべき? —地球温暖化を止めるため全世界が選んだ手段

カーボンニュートラルやネットゼロは、なぜ実現するべき? —地球温暖化を止めるため全世界が選んだ手段

カーボンニュートラルやネットゼロを目指す背景には、人間活動により深刻化している気候危機=地球温暖化の問題があります。産業革命以降、温室効果ガスが増えたことで、世界の平均気温は1℃程度上昇しています。このまま温暖化が進行すると、洪水や海面上昇、水・食糧不足、生態系の損失など、さまざまな危機的状況を招くと言われており、私たちはすでにその一部に直面しています。

気候変動は「SDGs」とも切り離せない

気候変動は「SDGs」とも切り離せない

気候変動への対策は、「SDGs」においても重要な課題の一つ。17ある目標のうち、目標13「気候変動に具体的な対策を」では、 “気候変動のスピードをゆるめ、次世代への影響を減らす” といったゴールが掲げられています。

2015年に開催された「パリ協定」では、地球温暖化を食い止めるために「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分に低く保ちつつ、1.5℃に抑える努力を追求する」という合意がなされました。

さらに、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は「気温上昇を1.5℃に抑えるためには、2030年までに世界の温室効果ガス排出をおよそ半分に減らし、2050年前後にカーボンニュートラルやネットゼロを実現する必要がある」との報告書を出しました。脱炭素社会の実現は今や、気候変動問題に取り組むにあたって、避けては通れない最重要課題として位置づけられているのです。

実現のカギは、エネルギー起源の排出量を減らすこと

それでは、カーボンニュートラルやネットゼロを実現するためには、どのような対策が必要なのでしょうか。

カギとなるのは、温室効果ガス(GHG)の大部分を占めている二酸化炭素。その多くは、石炭、石油、天然ガスといった化石燃料を燃やし、エネルギーを生み出す過程で発生しています。

実現のカギは、エネルギー起源の排出量を減らすこと

(出典)国立環境研究所 温室効果ガスインベントリオフィス「日本の温室効果ガス排出量データ」

  • 図は経済産業省作成

つまり、このエネルギー起源の二酸化炭素の排出量をいかに減らせるかが、カーボンニュートラルやネットゼロ最大の課題になります。具体的な取り組み方としては、次のような流れが考えられています。

①エネルギー消費量の削減 エネルギー消費量そのものを減らしていく。節電や省エネ家電の利用のほか、建物の断熱、IoTによる最適化(人感センサーで電気や空調を自動で制御するシステムなど)といった、さまざまな方法がある。
②電力部門の再エネへのシフト 電力部門は、これまでの石炭・ガス火力発電から、自然界に存在する太陽光、風力、水力、地熱などを利用した再生可能エネルギー(再エネ)による発電へと転換していく。再エネ以外にも、二酸化炭素を出さずに製造した水素やアンモニアを燃やす火力発電、原子力発電の利用も選択肢として議論されている。
③非電力部門の電化/クリーンな燃料へのシフト 非電力部門では、まずはエネルギーを電化して、再エネでまかなっていく。航空機や高熱を利用する産業部門など、技術的に電化が難しい分野では、植物を原料とするバイオマス燃料や水素燃料、合成燃料といったクリーンな燃料へ切り替える。
④植林やネガティブエミッション技術 ①~③の方法でもなお、技術面やコスト面で脱炭素化が難しい場合、人為的に二酸化炭素を大気から吸収・除去する。具体的には植林のほか、農法を工夫して農地の土壌に炭素を蓄える方法などがある。また、地中深く穴を掘って、高圧で二酸化炭素を注入して貯留する「CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)」を利用した “ネガティブエミッション” と呼ばれる技術の活用も検討されている。

江守さん

「ここでは『排出と吸収は、必ずしも同じ場所でなされる必要はない』というのも一つのポイントです。二酸化炭素は大気中で満遍なく混ざっているので、どこで排出して、どこで吸収しても構わない。例えば、日本で排出した分を別の国で吸収してゼロにすれば、それはカーボンニュートラルやネットゼロになるわけです」

カーボンニュートラル、ネットゼロ実現に向けた世界・日本の動きは? —国によって達成度に開きがある

カーボンニュートラル・ネットゼロ実現に向けた世界・日本の動きは? —国によって達成度に開きがある

カーボンニュートラルという言葉はもともと、植物を原料とするバイオマス燃料などの個別技術に関して以前から使われていました。バイオマス燃料は燃やすときに二酸化炭素を排出しますが、それは原料の植物が光合成で吸収している分なので、実質的には排出ゼロである、という考え方です。

このように狭い範囲で使われていたカーボンニュートラルが、地球・国家規模での「温室効果ガス排出実質ゼロ」という意味へと拡大されたのは、先ほども触れた2015年のパリ協定以降でした。

江守さん

「気候変動問題への世界的な取り組みは1990年代から始まりましたが、当初、各国の動きはまだまだ鈍かったんです。しかし、人間活動による温暖化が科学的に証明されてきたこと、大雨や山火事、熱波などの異常気象によって実際に被害が出始めたこと、再エネなどの対策コストが安くなってきたことで、世界の認識は大きく変わり始めます」

「カーボンニュートラル先進国」はイギリス

カーボンニュートラルを目指す世界各国の中でも、イギリスは再エネを積極的に導入し、石炭火力からの脱却を急速に進めることで、1990年からの温室効果ガス排出量をすでに5割近く減らしており、2035年までに78%削減を目標としています。しかし一方で、「見かけの減少量だけで進行度を評価することには慎重になるべき」との声も。

「カーボンニュートラル先進国」はイギリス

江守さん

「例えば、イギリスは中国などからたくさんのものを輸入して使っていますが、中国で温室効果ガスを排出して作られたものをイギリスで使っても、それはイギリスの排出量には加算されません。だから、『いくら国内の排出量を減らしても、代わりに他国に排出させているのでは意味がない』という見方もあるのです」

日本にとって「2050年カーボンニュートラル」は現実的?

日本では、2020年に菅義偉首相(当時)が「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言。その後、中間目標として「2030年までに温室効果ガスを46%削減する(2013年比)」「さらに50%の高みを目指して挑戦を続ける」と表明しました。

日本にとって「2050年カーボンニュートラル」は現実的?

江守さん

「46%という数字は、日本の現実をみると少し背伸びした目標と言えるかもしれませんが、一方で『それでは不十分』という声もあります。いずれにしても、少なくともこの目標を確実に達成すると同時に、想定を超えた削減を実現するための社会・産業の構造転換を進めなくてはなりません」

カーボンニュートラル、ネットゼロ実現に向けた企業の取り組みは? —新たなビジネスチャンスが広がっている

カーボンニュートラルやネットゼロの実現に向けて世界が足並みをそろえて動き始めた今、企業が環境に配慮しているかどうかは、投資家や消費者からの評価に直結するようになっています。それはESGという考え方が、広く浸透してきたことからもうかがえます。

「ESG」とは

「ESG」とは

ESGとは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の頭文字を取った言葉。企業の長期的な成長のためには、この三つの観点から長期的な事業機会や事業リスクを把握する必要があるという考え方が、世界的に広まりつつあります。

江守さん

「大企業を中心に、カーボンニュートラルやネットゼロへの取り組みを成長機会と捉える企業が増えていて、そうした動きはサプライチェーンなどを通じて中小企業にも及んでいます。つまり、カーボンニュートラルやネットゼロを宣言しないと、取引してもらえない、融資を受けられないといった傾向が、これからどんどん強まっていくと思います」

最近注目を集めている「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」と「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」をかけ合わせた企業戦略も、その取り組みの一つとして捉えることができます。

「DX」と「SX」とは

「DX」と「SX」とは

DXとは、デジタル技術の活用によって、企業や行政が事業や組織のあり方を変革し、人々の生活をより良い方向に導くこと。

また、SXとは、企業の稼ぐ力とESGの両立を図ろうとする戦略方針のこと。2019年に経済産業省が設置した「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」で提案されたもので、経営の在り方や投資家との対話の在り方を変革することを目指しています。

デジタル技術を活用しながら、企業活動と地球環境の双方の持続可能性を追求していくこと。そこには、新たなビジネスチャンスが広がっていると期待されているのです。

業種によって「実現しやすさ」に違いがある

企業ごとのカーボンニュートラルやネットゼロの目標や達成度を見る上で知っておくべきこととして、業種によって実現しやすさが変わってくる点を、江守さんは指摘します。

カーボンニュートラルやネットゼロを実現しやすい業種は、IT産業やサービス業、金融など

江守さん

「エネルギー集約型でない業種は、カーボンニュートラルやネットゼロが比較的進みやすいと言えますね。例えばIT産業ならば、自社サーバーの電力をすべて再エネに変えれば、それだけでかなりのインパクトがあるわけです」

カーボンニュートラルやネットゼロを実現しやすい業種は、IT産業やサービス業、金融など

カーボンニュートラルやネットゼロを実現しにくい業種は、製造業や素材産業、エネルギー産業など

江守さん

「エネルギー集約型の業種は、ビジネスそのものを構造から見直さなければいけないので、当然、カーボンニュートラルやネットゼロの実現は険しい道のりになります。

カーボンニュートラルやネットゼロを実現しにくい業種は、製造業や素材産業、エネルギー産業など

石油会社やガス会社はこのまま石油・ガスを扱っていては立ちゆかなくなるので、 “総合エネルギーソリューションプロバイダー” へと大転換しなくてはいけない。自動車製造業も同じように “総合モビリティサービスプロバイダー” にならなくてはいけません。そこではやはり、DXやSXが一つの鍵になってくるでしょう」

「カーボンニュートラル」だけでなく「ネットゼロ」を目指す理由 —事業活動に関係する全ての温室効果ガス排出量をゼロに

最後に、記事の前半でも触れた「カーボンニュートラル」と「ネットゼロ」の違いを紹介します。以下の図を見てみましょう。

まずネットゼロは、SBT(Science Based Targets※1)の定義によれば、

  • Scope1:企業が事業を通して直接排出する温室効果ガス
  • Scope2:事業に必要な電気や熱を作るため、間接的に排出される温室効果ガス
  • Scope3:原材料の輸送・配送や製品の使用・廃棄といった、取引先で排出される温室効果ガス

これらすべての排出量を対象としています。※2

つまり、自社・取引先問わず「事業活動に関係する全ての温室効果ガス排出量(サプライチェーン排出量)」をゼロにすることが、ネットゼロの目指すところなのです。

一方でカーボンニュートラルは、Scope1+2のみ、つまり自社の事業活動を通して排出される温室効果ガスのみを対象にしていると、ビジネスの場面においては解釈される場合があります。

以上から、「カーボンニュートラルからさらに一段進んだ目標が、ネットゼロである」と言えるでしょう。

  • ※1
    パリ協定が求める水準と整合した、5~15年先を目標年として企業が設定する、温室効果ガスの排出削減目標のこと。
    出典/グリーンバリューチェーンプラットフォーム - 環境省
  • ※2
    ネットゼロの解釈は、文脈によって異なります。

「カーボンニュートラル」と「ネットゼロ」実現に向けたソフトバンクの取り組み

ソフトバンクは2021年5月、2030年までに自社の使用電力などへの再生可能エネルギーの活用を実質100%に切り替えるとともに、AIやIoTなどの最先端テクノロジーを活用した省エネへの取り組みを通じて、温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル2030宣言」を発表しました。

そして2022年8月には、取引先などで排出される温室効果ガスも含めた、事業活動に関係する全ての温室効果ガスの排出量(サプライチェーン排出量)を、2050年までに実質ゼロにする「ネットゼロ」を発表し、その実現に取り組んでいます。

江守さん

「2050年までにネットゼロの実現を目指しているのは素晴らしいと思います。また、ソフトバンクグループの原点でもあるIT産業は、AIやIoTなどの最先端テクノロジーを活用したカーボンニュートラルの実現が期待されている分野。取引先も多岐にわたるでしょう。独自の強みによって、世界のネットゼロの取り組みを先導していってもらえればと期待しています」

(掲載日:2021年6月22日、更新日:2022年11月18日)
イラスト:小林ラン
文:白石沙桐
編集:エクスライト