目まぐるしい技術革新により、私たちの生活や世の中の在り方は日々変化しています。これから世界をさらに進化させるソフトバンクの最先端技術を体験できる技術展「ギジュツノチカラ ADVANCED TECH SHOW 2023」が3月22〜23日の2日間にわたって、ソフトバンク本社ビルで開催されました。
ソフトバンクの先端技術研究所が発足して1年。近年注目を集める自動運転や量子技術、まだまだ進化を続ける通信技術など、研究を通して先端技術研究所が目指す未来が詰まった会場の様子を取材してきました。
目次
- 自動運転レベル4解禁! 一般道路での自動運転走行デモを披露
- バッテリーはさらに軽量・長寿命化へ。ソフトバンクが挑む次世代電池開発
- 量子コンピューター時代のセキュリティリスクに備える新たな暗号技術
- 日本初、Beyond 5G/6G通信を支えるテラヘルツ波通信のデモンストレーション
- リアルとデジタルの境界線を越えていく。XRを活用したインタラクティブなエンタメの最前線
自動運転レベル4解禁! 一般道路での自動運転走行デモを披露
開催初日、東京・竹芝の会場の外では、自動運転車両の走行デモンストレーションを見ることができました。目の前を通り過ぎる車両は、人が運転しているのと遜色ない動きで自動運転で走行しているとは思えないほど、スムーズな走りでした。直線だけでなく、右左折時でも車線を外れることなく安定した走行が実現されてました。
2023年4月1日施行の改正道路交通法で、特定の条件下でシステムによる運転が可能となる自動運転レベル4が解禁されましたが、「特定の条件下」なので、まだどこでも走行が可能なわけではありません。
自動運転レベル4では、無人の自動運転車両が走れるのは特定のルートや敷地内など限定的な場所のみ。また、特定自動運行を行う際には、運用や緊急時に車内もしくは遠隔で対応を行う特定自動運行主任者の配置が事業者に義務付けられます。ソフトバンクの先端技術研究所は、将来的な運行業務の無人化を見据え、システムの稼働状況や車の位置情報、車載カメラによる車内外の映像など、走行の安全を遠隔で監視する運行システムに関する研究開発を進めています。
自動運転レベルについてかんたんに説明しています。
安全な走行を支える遠隔監視システムのデモンストレーション
会場では、実際の走行ルートや他の走行車両、路駐車両などをリアルに再現したデジタルツイン空間上で、最適な走行シミュレーションを行う研究や、AIを用いて遠隔監視者が1人でも複数台の監視を行える遠隔監視システムのデモンストレーションなど、安心安全で、持続性が高い自動運転の社会実装に向けて、ソフトバンクの先端技術研究所が取り組む技術開発について展示が行われていました。
関連リリース
- 自動運転のレベル4の解禁に向けて、自動運転の走行経路の設計や遠隔監視の運行業務などをAIで完全無人化する実証実験を開始(2023年3月10日 ソフトバンク株式会社)
自動運転の関連記事
バッテリーはさらに軽量・長寿命化へ。ソフトバンクが挑む次世代電池開発
現在私たちにとって身近な軽量・大容量の電池といえばスマートフォンやモバイルバッテリーに使用されているリチウムイオン電池ですが、IoT機器の普及や産業分野でのドローンやロボットの活用が増えていくと、より軽量で長時間かつ大容量の電力を供給できる電池の需要は今後さらに拡大してくことが見込まれています。
ソフトバンクの先端技術研究所が商用化に向けて開発を進めている成層圏通信プラットフォーム「HAPS」の長時間の飛行を実現するためにも、少しでも軽量で、寿命が長く、また成層圏の低い気温や圧力に耐えられる電池が必要不可欠です。そこで、ソフトバンクの先端技術研究所では高エネルギー密度化(軽量化)や長寿命化、安全性の向上を目指して電池の開発・検証を行う施設「ソフトバンク次世代電池Lab.(ラボ)」を設立するなど、次世代電池の研究開発に取り組んでいます。
「ソフトバンク次世代電池Lab.」について詳しく紹介しています。
次世代電池ブースでは、研究成果として、軽量化を実現する材料や、成層圏環境での実証実験にも使用されたリチウム金属電池の成層圏用のバッテリーセルパックの現物が展示されていたほか、さらなる研究対象として開発中の、レアメタルを使用せず低コストかつ軽量な材料として注目される有機正極二次電池について期待される性能の解説などが行われていました。
次世代電池の関連記事
量子コンピューター時代のセキュリティリスクに備える新たな暗号技術
このシャンデリアのような美しい機械、何だか分かりますか? 実はこれ、近年ニュースなどでたまに耳にする「量子コンピューター」なんです。スーパーコンピューターをはるかにしのぐと言われる桁違いの計算速度を誇る量子コンピューターの活用について、現在世界中の大学や研究機関による研究と議論が交わされています。
これまでのコンピューターでは、何年かかっても答えが出せなかった問題の計算を、現実的な時間で完了することができる量子コンピューターの脅威的な計算能力は、さまざまな分野で貢献が期待されています。たとえば、トラックの配送ルートを最適化して燃料コストやCO2排出量、配送時間を削減したり、創薬の分野でも、シミュレーション計算に必要な時間が大幅に短縮され、新薬開発のスピード向上にも役立つとされています。
その一方で、既存のコンピューターでは難しかったシステム、ネットワークを保護する暗号の解読ができてしまう力も秘めており、その脅威が懸念されています。
その脅威に備えるため、量子コンピューターでも解読することが極めて困難な「耐量子計算機暗号(PQC: Post Quantum Cryptography)」と呼ばれる暗号アルゴリズムの開発に多くの暗号研究者が取り組んでいるほか、量子鍵配送(QKD: Quantum Key Distribution)と呼ばれる、量子力学の原理を活用することで安全に暗号鍵を届ける技術の社会実装が期待されています。
ソフトバンクの先端技術研究所は、通信性能の劣化など、暗号の強度が高まることで発生しうる影響についての検証に取り組んでおり、米国のSandboxAQ社と共同で実施した耐量子計算機暗号を使用した検証についての解説展示およびプロジェクト担当者によるプレゼンテーションが行われました。
関連リリース
- ソフトバンクがSandbox AQと共同で量子コンピューターで解読不可能な次世代暗号方式の早期実装へ(2022年3月23日 ソフトバンク株式会社)
- 耐量子計算機暗号アルゴリズムの実用性を確認 ~ソフトバンクとSandboxAQとのパートナーシップを通して実証~(2023年2月28日 ソフトバンク株式会社)
日本初、Beyond 5G/6G通信を支えるテラヘルツ波通信のデモンストレーション
次世代ネットワークのブースでは、Beyond 5G/6G時代の超高速無線通信技術として、360度自由に動き回る端末に対し、テラヘルツ波による通信を行う日本初のデモンストレーションが披露されました。
デモンストレーションでは、ソフトバンクの先端技術研究所が開発した回転反射鏡アンテナを使って、岐阜大学とNICTとの共同研究で開発された超小型アンテナ(DCA)を実装した端末を動かすとアンテナが追従(ビームフォーミング)して、テラヘルツ通信を維持する様子を実演。
テラヘルツを用いた研究は世界的にも例が少なく、ビームフォーミング可能なアンテナの研究開発も行われていますが、まだ、ビームフォーミング技術を他の技術と組み合わせた実験は行われていません。
ソフトバンクの先端技術研究所では、この回転反射鏡アンテナを用いたテラヘルツ通信実験を通して課題やデータを抽出し、将来の6Gエリア形成に役立てるなど、6Gの実用化に向けた研究開発を加速しています。
また今回のデモンストレーションでは、新たに開発した「コセカント2乗ビームアンテナ」も実際に使われています。電波は周波数が高くなるにつれ、遠くに届く電波が弱くなってしまう性質があるため、高い周波数を使った通信では、ビームを細くすることで遠くまで届く電波を1点集中させる方法が一般的です。しかし、この方法では細いビームで正確に端末を捉えられるよう、高い追従精度が求められるため、装置の作りが煩雑になり、装置の高コスト化につながります。
コセカント2乗ビームアンテナは、特殊な形状のビームを形成し、近くには適度に弱い電波を届け、遠くには強い電波を届けることができるアンテナです。この技術により、高い周波数でも、ビームの追従なしにエリアを広げることが可能となります。
また、5Gの普及、そしてBeyond5G/6G時代の到来に向け、進化するコンピューティング技術に対応する次世代モバイルコア構築の取り組みとして、モバイルネットワークを最新のクラウドコンピューティング環境に最適化した構造へと刷新するための研究開発も紹介されました。
関連記事
リアルとデジタルの境界線を越えていく。XRを活用したインタラクティブなエンタメの最前線
ライブ会場などで、アーティストの呼びかけでスマートフォンのライトを掲げた経験がある方も多いのではないでしょうか? 近年、観客のスマホを活用した会場演出は、エンターテインメント業界でも注目されています。次世代コンテンツのブースでは、リアルやバーチャルを問わず、空間に属する全ての端末を同時に制御できる技術を紹介。演出の一部としてスマホの画面の色を変化させたり映像を流したりするには、全ての端末に寸分のずれなく画像や動画を表示させることが必要となります。
しかし、データがそれぞれの端末に届き、処理をして画面に表示される過程で、端末ごとに微妙な遅延のばらつきが生じ、タイミングがズレてしまったりすることがあります。 “ゆらぎ” と呼ばれるその遅延時間のばらつきは、演出の完成度に影響を与える要因にもなり得ます。端末の時刻を同期して、その時刻を基準に全ての端末が一斉に処理を行うよう制御することで、ゆらぎを解消し、多数のスマホの画面を用いた動的なグラデーションや、スマホの画面の間を動物がシームレスに移動するアニメーションを違和感なく表示させるなど、舞台の演出に合わせた調和のある端末連携を実現するシステムの実演展示が行われていました。
コロナ禍をきっかけに、配信者数や視聴者数が増加しているライブ配信は、視聴しながら配信者に応援アイテムやコメントを送るスタイルが主流ですが、その楽しみ方を臨場のライブ演出にも広げる試みとして、スマホを振ったりタップしたりといった動作だけで、ステージから目を離さず瞬時にリアクションを送ることができる、インタラクティブな体験のデモンストレーションが行われていました。これはバーチャルとリアルの間の双方向のやりとりを可能とし、それをリアルタイムに集計する技術で実現されています。
さらに応用として、スクリーン上のバーチャル空間とARで生み出される空間をシームレスにつなぎ、会場全体を舞台にする新たな演出のデモンストレーションも行われていました。こちらは空間認識や自己位置推定により得られた座標情報や、同期された時刻情報をやり取りすることで、これまで表現できなかった体験を作り出そうというものです。
XR活用の関連記事
会場内では、各分野の第一人者を迎えたトークセッションも終日実施され、技術の解説のみならず、その技術がもたらす未来について熱いトークが繰り広げられました。
(掲載日:2023年4月25日)
文:ソフトバンクニュース編集部
研究開発の取り組みやこれまでの活動実績、研究員など、先端技術研究所の最新の情報をご覧いただけます。