社外取締役対談

異なる視点が支える、攻めの経営と持続的な企業価値向上 異なる視点が支える、攻めの経営と持続的な企業価値向上

社外取締役 唐木 秀明

公認会計士として国内外の監査法人で企業会計・監査に長年携わり、品質管理や金融庁公認会計士・監査審査会での監査検査官、独立行政法人国際協力機構(JICA)契約監視委員会での経験を有する、会計・監査・ガバナンスの専門家です。財務報告、内部統制、リスク管理に関する豊富な知見を生かし、当社の持続的な企業価値向上を支えています。

社外取締役 佐々木 裕子

企業変革を志し、自ら会社を創業。数百社の企業に対して、組織変革や経営人材の育成、仕事と介護の両立支援などの課題解決を支援してきました。また、複数の大手企業でダイバーシティ推進に関する有識者委員などを歴任。豊富な経営経験と人的資本・組織変革に関する知見を生かし、当社の成長およびコーポレート・ガバナンス強化に寄与しています。

ソフトバンクの持続的な企業価値向上に向け、社外取締役はどう経営を監督しているのか。経営変革や多様性推進に知見がある佐々木裕子氏と、公認会計士として監査・品質管理に長年携わってきた唐木秀明氏が、社外取締役の役割、親子上場と少数株主保護、新中期経営計画、ガバナンスとリスクマネジメント、指名・報酬委員会の独立性と実効性について語りました。

社外取締役の役割と経営監督

異なる視点と探求心で、
執行側だけでは見落とし得る
リスクを捉える

佐々木

社外取締役に求められる役割は、執行側だけでは盲点になり得る点について、異なる視点から意見を述べることだと思っています。「ここは気を付けた方がいい」と申し上げることで、リスクの低減や中長期的な企業価値の向上に貢献できると考えています。私が主に貢献できるのは、経営変革や多様性推進の領域です。ソフトバンクには事業を力強く前に進めるカルチャーがありますが、同質性が高まることで見落とされるリスクがないか、守りの面が十分かということも見ていく必要があります。

特に重要なテーマが、次世代の経営チームへのサクセッションです。次期経営人材を育成し、次の世代に経営を確実に引き継いでいくことは、当社にとって極めて重要な課題です。特に、幅広い領域を一人で担うCEOを再現性高く育成することは難しく、今後は多様な人材がチームで経営を担う形も必要になるのではないかと思っています。

次期経営人材を育成していく上での具体的な課題の一つが、女性経営人材の候補者層の拡充です。育成の取り組みは進み始めていますが、統括部長やその手前の重要なポジションへの登用、あるいはフロント部門で重要顧客を任せる場面などでは、男性に偏っているのが現状です。人材配置におけるバイアスや、ポジションの考え方そのものを見直す必要があり、これは構造的な変革になると思っています。

唐木

私は約40年にわたり監査に携わってきました。そこで学んだのは、会計や監査の基準や仕組みを整えるだけでなく、不正や問題の予兆をいかに察知し、重大な問題になる前に芽を摘むかが重要だということです。監査では、物事をうのみにせず疑問を持って確かめる姿勢を「懐疑心」と言いますが、社外取締役の立場では、それは「探求心」に置き換えられます。会社や経営者、事業について深く理解した上で、探求心を保持して事業リスクや潜在的な課題がどこにあるのかを考え、取締役会で発言していくことが重要です。

そのため、私は「あれっ」と思ったら、まず声に出すことを大切にしています。社外の人間なので事業に則して正しいことばかり言えるわけではありませんが、発言をためらえば、本当に危ない兆候を見逃す可能性があります。誰かが違和感を口にすることで、他の人からも「やはり、おかしいかもしれない」という意見が出て、対話が生まれることがあります。皆で「これは危ないのではないか」「これは大丈夫なのか」と議論できる環境をつくることが、経営の健全化につながると考えています。

監査法人時代には、顧客企業の担当者の方に「私は3割バッターを目指します」とよくお話ししていました。気づいたことがあれば、確信がなくても発言するという意味です。勘違いであれば、その場で説明していただくことで理解が深まり、対話も進みます。このように、違和感を放置せずに発言することが、社外取締役としての重要な役割だと思っています。

親子上場と少数株主保護

互いの独立性を保ちながら、
グループ全体の戦略的連携を強化

佐々木

ソフトバンクグループ(株)と一緒にやるからこそ生まれるビジネスチャンスは多く、事業拡大のスピードも高まります。これは、ソフトバンクの企業価値向上にとって非常に意義のあることだと思っています。一方で、親子上場という構造を踏まえ、利益相反がないかを見ることが重要です。

グループ間の取引や、両社が出資する案件では、価格が公正か、どういうプロセスで出資比率を決めたのか、親会社の意向に従わざるを得なかったことがないかを見ています。もう一つ重視しているのは、その案件がソフトバンク自身にとって戦略的意義があるのか、企業価値向上のストーリーに沿ったものになっているかです。

取締役会への上程前に相当程度検討されていますが、その検討プロセスや判断の妥当性を対外的にも説明できるよう、さらに詰めていく必要があると思っています。

唐木

LINEヤフーやPayPayに対しては親会社の立場になりますが、ソフトバンクは通信や法人向けビジネス、LINEヤフーはコミュニケーションや広告、PayPayは金融や決済を担っています。それぞれのビジネスが明確に違っており、内部取引による売上も限定的であることから、現時点で大きな利益相反が生じる場面は多くないと感じています。グループ各社が持つ強みを生かした連携を通して、それぞれの会社の成長と価値向上につなげることが重要です。ただし、今後、事業領域が重なるところが出てきた時には、価格の公正性を担保するため、取引価格や条件をどのように決めたのかをより明確にし、社外の利害関係者が納得できる形で説明する必要があります。

佐々木

LINEヤフーやPayPayとの関係については、単に別々の事業をやっているというより、生活や事業に不可欠なインフラ領域をグループ全体で構成していると見ています。通信、コミュニケーション、決済といった領域でそれぞれが役割を果たすことで、良い事業ポートフォリオがつくられています。2026年6月からは出澤さん※1や中山さん※2も取締役会に入り、子会社側の経営トップでありながら、当社の取締役でもある立場で、同じ案件についてどう思っているのかを確認することができます。各社の独立性を保ちながら、グループ全体としてどう進めていくかを議論できる土壌ができたことは、とても良かったと思っています。

互いの独立性を保ちながら、グループ全体の戦略的連携を強化 互いの独立性を保ちながら、グループ全体の戦略的連携を強化

新中期経営計画への
評価と期待

通信への継続投資を土台に、
次世代の事業と人材が
新たな成長を生み出す

唐木

ソフトバンクの強みは、全社一丸となって事業を拡大し、それを他社よりも速く実行できることにあると理解しています。だからこそ、一番重要なのは執行側の「思い」です。「なぜこのビジネスをやりたいのか」や「どうなりたいのか」をきちんと語れることが重要です。

新中期経営計画では、通信関連の設備投資と株主還元を着実に行った上で、成長投資をどこまで上積みできるかがポイントです。当社は通信事業者であり、通信にきちんと投資しない限りその他の事業の花は咲かないと思います。AIをはじめとする新しい事業も、安定した通信基盤が必要です。

成長投資についても、最初から大きな資金を投じるのではなく、段階を踏んで進める慎重さが経営陣にあります。外部からは財務レバレッジが高いと見られることもありますが、経営陣は個々の案件ごとに投資効果や財務への影響を見極めながら、投資規律を持って判断されていると受け止めています。

現在の計画を5年間そのまま続けられるとは限りません。中期経営計画期間中には、技術や競争環境が大きく変わる可能性があります。ソフトバンクは、既存事業の延長線上にとどまらず、新たな成長機会を大胆に取り込みながら事業の姿を変えてきた会社です。だからこそ、環境の変化に応じて計画を進化させながら、もっとワクワクさせてくれる新しい成長を生み出してほしいと思います。

佐々木

ソフトバンクは、計画を確実に達成する盤石さを持ちながら、常に「実はこんなものもあります」という隠し玉を出し、事業ポートフォリオを変化させてきた会社です。そうした新たな成長を、これまでとは異なる人材や次の世代が担うことで、経営のサクセッションもより盤石なものになるのではないかと感じています。世代交代は、必要になってから準備するものではありません。将来の世代交代を前提として経営を行い、若い世代を含むさまざまな人材に重要な役割や事業を任せ、経験を積ませていく必要があります。次の世代が「自分たちが新しい成長をつくる」という状態にしていくことが、これからの重要な課題だと思っています。

ガバナンスと
リスクマネジメント

異論を歓迎する風土が、
攻めの経営を支える

異論を歓迎する風土が、攻めの経営を支える 社外取締役 唐木 秀明 社外取締役 佐々木 裕子 異論を歓迎する風土が、攻めの経営を支える 社外取締役 唐木 秀明 社外取締役 佐々木 裕子

唐木

昨今、ガバナンス上の問題が顕在化する会社が多い中で、当社がリスクを抑えながら事業を拡大できている背景には、経営陣の議論の在り方があると思っています。取締役会では、創業者取締役である孫さんに対しても、役員が自分の考えを率直に発言しています。孫さんが一人で会社を大きくしてきたのではなく、さまざまな能力を持つ人が集まり、皆で成長させてきたと感じています。

取締役会では、事業部門の枠を越えて議論し、納得できなければ改めて検討を求めることもあります。皆が意見を出し合い、納得した上で一気に進む。そして、責任者は決めたことを最後までやりきる。こうした議論と実行の両方があることが、リスクを抑える上で大きな役割を果たしていると思います。また、事業の進捗を定量的に確認するだけでなく、監査役や内部監査部門が、取締役会で報告された内容が実態とあっているかを現場に赴き確認する仕組みも整っています。

佐々木

唐木さんがおっしゃったように、意思決定の場で異論を唱える人が登用され、重宝されていくことは、ソフトバンクの大きな強みだと思います。一方で、潜在的なリスクとなり得るのは、新しい事業が次々と急速に立ち上がっていく中で、守りが疎かになることです。推進力が強い会社だからこそ、そうした事業に対して、ガバナンス上の確認が行われているか、リスクマネジメントの体制として十分なのかについては、継続して見ていく必要があります。

もう一つ重要なのは、意思決定層に、異なる価値観や成功体験を持つ人が加わっていくことです。一定の価値観の中で一団となって進むだけでは、自分たちが良いと思っていることが、世の中の変化とずれる可能性があります。だからこそ、多様な方々と新しい経営モデルをつくっていくことが、ガバナンスやリスク管理の観点でも大事だと思います。

指名委員会・報酬委員会の
独立性と実効性

十分な情報に基づく
客観的な議論が、
委員会の実効性を担保する

佐々木

指名委員会および報酬委員会(以下、指名・報酬委員会)では、公正な判断を行うことが何より重要です。経営陣の指名や処遇は、その方々の意欲や行動を通じて企業価値を左右するため、その判断が本当に株主にとって最善なのかを議論しなければなりません。

独立性の観点から、指名・報酬委員会を社外取締役のみで構成することを評価する考え方があることも理解しています。一方で、当社では、宮川社長が委員として参加しています。これは、指名・報酬に関する議論の対象になる方々の意欲や、発揮しているリーダーシップ、事業への貢献に関する情報が、宮川社長に集まっているからです。その説明を受けた上で、社外取締役が客観的に判断することが重要だと考えています。

唐木

この1年間、私も指名・報酬委員会に陪席する中で、社外取締役が十分な情報を得た上で議論できるかが非常に重要だと感じています。社外取締役だけで議論することが、必ずしも実効性を高めるとは限らないと思います。十分な情報がなければ、形式的な議論にとどまる可能性があります。宮川社長から「この候補者はどのような人物で、なぜ評価しているのか」という説明を受けることで、社外取締役も納得して判断できますし、「ほかに候補者はいないのか」と踏み込んで議論することもできます。こうした情報を踏まえて社外取締役が客観的に判断することが、委員会の実効性につながると思います。

佐々木

今のソフトバンクは、経営上の多面的な情報や判断が比較的、社長に集中する形になっています。技術、制度、社外とのネットワーク、グループ企業との連携など、さまざまなことを統合し、何をどの優先順位で進めるかを判断できることには、スピードや効率の面で強みがあります。一方で、事業の複雑性が高まる中、こうした役割を一人が担い続けることには限界があります。サクセッションでは、こうした情報や判断をチームでどのように分担していくかも重要な論点です。中枢で情報を集約しながら、複数の経営人材が役割を分担できる体制をつくることが必要です。ここから数年が、経営チームとして成功体験を積み、こうした体制を確立できるかどうかの重要な期間になると思っています。

[注]
  1. ※1
    出澤 剛:LINEヤフー(株)代表取締役社長 兼 最高経営責任者(CEO)、2026年6月から当社取締役
  2. ※2
    中山 一郎:PayPay(株)代表取締役 社長執行役員 CEO、2026年6月から当社取締役