AIは、企業システムと
統合される段階へ
これまでの企業におけるAI活用は、チャットツールを使った文章作成、要約、問い合わせなど、事務作業を支援する使い方が中心でした。こうした活用だけでも大きな生産性の向上につながります。一方で、企業がAIを競争力の源泉にしていくためには、AIを企業システムに統合し、継続的に使える状態にしていく必要があります。
企業活動の中で、AIがデータ活用や業務の重要な部分を担い、企業システムと連携しながら価値を生み出す段階へ進もうとすると、必ず企業が保有するデータをどう扱うのかという問いに行き着きます。AIが扱うのは、公開情報や一般的な文書だけではありません。顧客情報、契約情報、業務フロー、社内ノウハウ、研究開発データ、製造現場の知見など、企業の競争力そのものに関わるデータです。
そうしたデータをどこに置くのか、どのAIに入力してよいのか。これらの論点を曖昧にしたままでは、AIを企業システムの中核に組み込むことは難しくなります。AIを性能だけで選ぶのではなく、企業データを守りながら、用途ごとに最適なAIを企業システムと連携させる環境が必要になります。そこで重要になるのが、ソブリンクラウド/ソブリンAIです。
なぜソブリンクラウド/
ソブリンAIが重要なのか
ソブリンクラウド/ソブリンAIとは、「データ」「技術」「運用」の三つの主権を国内で保持し、自国の「法規」に則って提供・運用されるクラウド環境とAIを指します。クラウド・AIの実務担当者から見れば、企業の重要なデータがどこに保管され、誰によって運用され、どの基盤技術に依存し、どの法規制の下で扱われるのかを明確に管理できるということです。
企業にとって、自社のデータは競争力そのものです。例えば、顧客情報や製造ノウハウ、研究開発データをAIに読み込ませて活用する場合、そのデータが自社の管理方針に沿って扱われるかどうかの確認が必要になります。意図せず外部の学習データとして利用されたり、自社の管理が及ばない形で扱われたりする懸念が残れば、AIを基幹業務へ深く組み込む判断は難しくなります。AIを本格的に使いたい企業ほど、データの所在、アクセス権限、運用主体、セキュリティ、AIの出自や管理方法を重視するようになります。
海外の汎用AIには優れたものが多く、一般的な業務効率化や情報の整理には大きな価値があります。一方で、企業の機密情報や社会インフラに関わるデータを扱う領域では、より慎重な取り扱いが求められます。全てを一つの汎用AIで取り扱うのではなく、用途やデータの機密性に応じてAIを使い分けることが重要です。一般的な情報を扱う業務や機密度の低い業務では海外のクラウドやAIを活用し、企業の中核データや機密度の高い業務では、ソブリンクラウド/ソブリンAIを活用する。このような選択肢を持つことが、企業のAI活用を次の段階へ進める前提になります。
顧客ニーズは
すでに顕在化している
企業の経営層と話をしていると、AIを企業システムで活用し、競争力を高めなければならないという危機感がある一方で、「どの業務に、どのような環境で、どのAIを使うべきか」を慎重に見極めていることが分かります。自社の競争力の源泉となるデータを扱う領域や、機密度の高い社会インフラに関わる領域、国内法規制への対応が必要な領域では、海外のクラウドや汎用AIを適用しづらく、「どうしてもAIを活用したい領域があったけれど、導入を見送らざるを得なかった」という声も聞きました。AIを本格的に使いたいからこそ、「ソブリンクラウド/ソブリンAIがあるのであればぜひ使いたい」というニーズが高まっていることを強く感じます。
ソフトバンクは、
AI時代のデジタルインフラの
提供者へ
ソフトバンクは、これまで通信事業者として、企業や個人にネットワークを提供してきました。AIが企業システムや基幹業務に統合されるこれからの時代の当社の役割は、単なる通信事業者にとどまりません。通信サービスとともに、データセンター、AI計算基盤、ソブリンクラウド/ソブリンAIを組み合わせ、企業がデータを守りながらデジタル技術を活用するためのインフラを提供する「AI時代のデジタルインフラの提供者」へと進化していきます。
AIが企業システムに組み込まれる時代には、計算資源を持っているだけでは法人のお客さまのニーズに応えられません。十分な処理能力を備えたAI計算基盤、データを保管するソブリンクラウドの環境、企業システムをつなぐネットワーク、企業データを守るセキュリティ、そして運用体制が必要になります。さらに、AIを企業システムとつなぎ、業務プロセスの中で機能させるための実装力も求められます。
当社の強みは、AI計算基盤、ソブリンクラウド、ネットワーク、セキュリティといった技術基盤を、お客さまのニーズに応じて組み合わせ、一気通貫で提供できることです。加えて、長年にわたって法人のお客さまのDXを支援してきた経験を通じて、お客さまの課題やシステム環境に関する知見を蓄積してきました。AIを、実務で成果につなげる仕組みとして提案できることは、ソフトバンクの大きな競争優位性になります。
企業のAI実装を、
エンタープライズ事業の
成長へつなげる
ソブリンクラウド/ソブリンAIは、ソフトバンクのエンタープライズ事業の成長をけん引する重要な取り組みです。まず、企業向けのソブリンクラウド/ソブリンAIの環境をご利用いただくことが、当社のエンタープライズ事業の「クラウド・AI」領域における収益機会となります。そこに、企業が保有するシステムをモダナイズするとともに、データをAIが活用できる形に整備し、AIとのインターフェースを設計する取り組みが加わります。さらに、その環境を活用したソリューション開発、システムインテグレーション、その後の運用まで支援することで、お客さまのAI活用が深まるほど、当社の事業機会も継続的に広がっていきます。
AIの導入効果を高めるには、既存業務の一部をAIに置き換えるだけでなく、業務の流れそのものを見直すことも重要になります。これまで人が順番に処理していた業務も、AIを活用することで、処理の順番や役割分担を組み替えた方が効率的になる場合があります。業務プロセスを再設計し、AIが効果を発揮しやすい形に変えていくことが、本格的なAI実装につながります。
AI活用がさらに高度化すれば、画像、映像、音声、センサーデータなどを組み合わせて判断するマルチモーダルAIや、ロボットや機械の動作につながるフィジカルAIなど、適用範囲は物理世界にも広がっていきます。こうしたAIを企業や産業の現場に適用し、業務効率化、品質向上、新たなサービスの創出などの付加価値につなげることが重要です。お客さまが蓄積してきたデータや業務ノウハウを生かし、AIの導入を現場の成果に変える支援をすることが、当社のエンタープライズ事業における勝ち筋だと考えています。
この過程では、お客さまの既存システムを熟知するパートナーとの連携も重要になります。多くの企業システムは、長年にわたって構築・運用されてきたものです。ソフトバンクは、通信サービスや法人のお客さまへの提案・支援を通じて培ってきたお客さまの業務や課題への理解を生かしながら、AIを適用しやすい領域から実装を進め、必要に応じてパートナーとも密に連携しながら企業の変革を支えていきます。
そのためには、AIの技術だけでなく、お客さまの業務、既存システム、クラウド、セキュリティを横断的に理解し、現場と対話しながら実装を進める人材も欠かせません。社内で人材の育成を進めながら、領域によっては外部からの採用を進め、実装力を高めることで、AIをお客さまの業務成果につなげていきます。クラウド・AIの基盤は、1年ごとにつくり直すものではなく、一度導入されると継続的に利用されるものです。利用するデータ、対象業務、推論の量、運用範囲が段階的に広がっていけば、クラウドやAI計算基盤の利用も、ソリューションや運用サービスも積み上がっていきます。この積み上がりが、エンタープライズ事業の継続的な成長、さらには中長期的な企業価値向上につながると考えています。
AIを「つくる」だけでなく、
企業に実装されるサービスへ
これまでAIを巡っては、モデルの開発や学習、それを支えるAI計算基盤など、「AIをつくる」ための投資に注目が集まりがちでした。今後は、AIを企業のシステムや業務に実装し、継続的な付加価値の創出につなげることが、より重要になります。そのためには、AIそのものを開発する力に加えて、それを動かすインフラ、企業データを守るクラウド環境、企業システムとつなぐ実装力、継続的に改善する運用力が必要です。
ソフトバンクは、国産生成AI「Sarashina」の開発を通じて培ったAI開発力に加え、企業向けサービスとして実装する力を高めていきます。データセンターやAI計算基盤、ソブリンクラウド/ソブリンAI、AIデータセンター向けのソフトウエアスタック「Infrinia AI Cloud OS」、長年のエンタープライズ事業で培った業務理解などを生かし、企業がAIを自社のシステムや業務プロセスに実装できるように支えていきます。企業のデータを守りながら、AIを活用し、法人のお客さまの業務変革や競争力向上につなげる。その取り組みを通じて、AIの社会実装を支える事業基盤をさらに強化し、エンタープライズ事業の継続的な成長とソフトバンクの中長期的な企業価値向上につなげていきます。