前中期経営計画の成果と、
10カ年計画前半の到達点
想定を上回る成果を創出、
成長に向けた準備を前倒しで実行
2025年度は、私が社長に就任した際に描いた10カ年計画の前半を締めくくる、大きな節目の年となりました。連結売上高は7兆387億円(前期比8%増)、連結営業利益は1兆426億円(同5%増)、親会社の所有者に帰属する純利益は過去最高の5,508億円(同5%増)となり、初めて売上高7兆円を超えることができました。プライマリー・フリー・キャッシュ・フロー※1も過去最高の6,336億円となり、引き続き高いキャッシュ創出力を示すことができました。
この決算で特に大きな意味を持つのは、全セグメントで売上高が増加したことに加え、エンタープライズ事業とディストリビューション事業が、いずれも初めて売上高1兆円を超えたことです。これにより、コンシューマ事業、エンタープライズ事業、ディストリビューション事業、メディア・EC事業という四つの「兆円単位の事業」がグループ内に形成されました。通信が生み出す安定的なキャッシュ・フローを基盤に、非通信のビジネスを着実に伸ばしてきたことが、当社グループ全体の成長力を大きく高めています。
前中期経営計画では、財務目標・非財務目標を全て達成し、3期連続で期初予想を上回ることができました。この成果に至るまでの道のりは、決して平坦なものではありませんでした。社長就任後の2年半は、通信料値下げの影響によりモバイルサービス売上が大きく減少したため、コンシューマ事業の収益基盤を立て直すことが急務でした。顧客基盤を拡大しながらコスト構造を見直し、ネットワーク投資の効率を高めるとともに、エンタープライズ事業を中心とする非通信ビジネスの成長を加速させることに注力しました。
この立て直しを進める中で、全社業績のV字回復への手応えを得てからは、次の成長に向けた準備を前倒しで進めました。通信料値下げ、国際紛争、円安、物価高など、事業環境が大きく変化する中でも事業基盤を毀損することなく乗り越え、最高益を更新できたことは、私にとって大きな自信となりました。
前中期経営計画が想定以上に好調に推移したことで、新中期経営計画に向けた準備を前倒しで進めることができた点も、今後の布石として大きな意味がありました。コンシューマ事業は、引き続き当社の屋台骨を担う重要な事業ですが、その上に新しい成長領域を積み上げていかなければ、中長期的な企業価値の向上は実現できません。私は、社長就任時から「AI共存社会」を見据え、将来必ず必要になると予想できるもののうち、時間がかかるものから先に手を打ってきました。
AIデータセンター、AI計算基盤、ソブリンクラウド、国産生成AI、「Infrinia AI Cloud OS」(以下、「Infrinia」)、「AI-RAN」などは、短期間で成果が出るものではありません。しかし、AIが社会の中で本格的に使われる時代が来ると考えれば、先に準備しておかなければ需要を捉えきれません。前中期経営計画の成果によって生まれた余力を、次の5年、さらにその先の成長に向けた布石へ振り向けてきたことが、現在の当社のポジションにつながっています。
10カ年計画の前半は、厳しい局面からの回復と次の成長に向けてAIを社会実装するための「種まき」の5年間でした。後半は、「収穫期」としてその実りを刈り取り、次世代社会インフラ企業への進化を加速させる5年間にしていきます。
- [注]
-
- ※1
プライマリー・フリー・キャッシュ・フローは、調整後フリー・キャッシュ・フロー(LINEヤフーグループ、PayPayなど除く)に、長期性の成長投資として支出した金額を足し戻した指標。なお、長期性の成長投資はAI計算基盤・AIデータセンター関連投資を含みます。調整後フリー・キャッシュ・フロー(LINEヤフーグループ、PayPayなど除く)= フリー・キャッシュ・フロー +(割賦債権の流動化による調達額 - 同返済額)+ Aホールディングス(株)からの受取配当 - PayPay(株)への出資 + PayPay証券(株)株式の売却収入 - LINEヤフーグループ、PayPayなどのフリー・キャッシュ・フロー。なお、LINEヤフーグループ、PayPayなどにはAホールディングス(株)、LINEヤフー(株)および子会社(LINEヤフーグループ)、Bホールディングス(株)、PayPay(株)、PayPayカード(株)、PayPay銀行(株)、PayPay証券(株)などを含みます。
- ※1
新中期経営計画:
AIの社会実装を
企業価値の
向上へつなげる5年間
「Activate AI for Society」の
下で、成長と株主還元を
次のステージへ
新中期経営計画のテーマは、「Activate AI for Society」です。これまでの5年間は、世界中でAIの頭脳を作る、いわば「学習」の時代でした。これからの5年間で重要になるのは、そのAIを企業活動や人々の生活の中で実際に使いこなし、社会実装していくことです。AIの中心は「学習」から「推論」へ移り、自動運転、ロボット、AIエージェントなどが日常生活の中で推論しながら動く時代が到来します。
当社にとって新中期経営計画は、この変化を収益機会に変える期間です。コンシューマ事業、エンタープライズ事業、メディア・EC事業、ファイナンス事業、グリーントランスフォーメーション(以下、GX)の取り組みといった当社グループの全ての事業が、AIと融合して進化していきます。重要なのは、AIを技術的な研究開発の領域に留めるのではなく、AIの社会実装にグループ総力を挙げて取り組むことでAIの可能性を「Activate(起動)」させ、その成果を当社の企業価値向上につなげることです。
そのために、グループ各社の役割分担をより明確にしながら取り組みを進めています。当社は、AIデータセンターやAI計算基盤といったAIインフラを整備し、クラウド・AIサービスを法人のお客さまの業務や社会インフラに実装していきます。LINEヤフーは、国内最大級の顧客接点を生かし、人々が日常的に利用するサービスの中で自然にAIを活用できる環境を提供します。PayPayは、AIの社会実装によって企業や個人ごとにカスタマイズされて広がる商取引や金融取引を、決済・金融サービスへとつなげていきます。
新中期経営計画では、2030年度に連結売上高9兆円、連結営業利益1.7兆円、親会社の所有者に帰属する純利益7,000億円を目指します。営業利益を年平均成長率10%で成長させ、最高益の更新を継続していく計画です。純利益7,000億円は保守的に見えるかもしれませんが、今後5年間で最低限やり遂げたい水準としてお示ししたものです。もちろん、私自身の目線はさらに上にあります。
当社の新中期経営計画に織り込んでいるクラウド・AI領域の主な取り組みは、これまで他社に先駆けて構築してきたAI計算基盤の提供、大阪堺AIデータセンター(140メガワット※2)や北海道苫小牧AIデータセンター(50メガワット規模※3)の稼働などであり、収益化の確度が比較的高いものです。これらを着実に立ち上げることで、まずはクラウド・AI領域の成長を確実なものにしていきます。一方で、後述する米国でのネオクラウドビジネスや革新型バッテリーなどのGXビジネスは、さらなるアップサイドとして追求していく取り組みです。計画に織り込んだ成長を確実に実行しながら、将来の企業価値を高める選択肢も広げていきます。
株主還元についても、成長の成果を着実に反映していきます。2026年度の普通株式1株当たり配当金は8.8円への増配を予定しており、利益の成長に合わせた継続的な増配を目指します。配当の目線としては、親会社の所有者に帰属する純利益6,000億円で9円、7,000億円で10円を考えています。利益が上振れた場合には、追加の株主還元も検討していきます。
同時に、当社は中長期の成長を見据えた投資も着実に実行していきます。後ほどキャピタルアロケーションの考え方についても説明しますが、財務健全性と資本効率を意識しながら、AI時代の成長機会を取り込むために必要な投資を行い、その成果をさらなる成長に再投資するとともに株主還元の強化につなげる。このサイクルを続けることで、株主・投資家の皆さまから、当社を単なる高配当銘柄ではなく、AI時代の成長銘柄としても評価いただける会社にしていきます。
- [注]
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- ※2
構築を目指している110エクサFLOPSの計算能力を有するAI計算基盤で必要と想定される受電容量
- ※3
構築を計画しているデータホール棟の最大受電容量
- ※2
成長ドライバー:
エンタープライズ事業
「クラウド・AI」領域の成長
顧客企業の競争力向上に向けた
提案力をAXでさらに強化
新中期経営計画における成長のけん引役はエンタープライズ事業です。これまでのエンタープライズ事業は、法人のお客さまのデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援することで大きく成長してきました。当社が重視してきたのは、お客さまの売上向上やコスト効率の改善に資する提案を行い、その成果によってお客さまの競争力向上に貢献することです。お客さまの事業が発展すれば、次の課題解決に向けた相談をいただく機会も拡大します。この好循環が、エンタープライズ事業の成長を支えてきました。
今後はそこにAIが加わり、DXからAX、すなわちAIトランスフォーメーションへと進化していきます。AIは、全ての法人のお客さまに対する新しい提案機会です。AIを導入しない企業は存在しない時代になりつつあります。だからこそ、当社はDXで培ってきた提案力をAXでさらに強化し、法人のお客さまの事業変革と競争力向上を支援していきます。
新中期経営計画では、これまで「その他」に含めていたAIデータセンターや商用化するAI計算基盤をエンタープライズ事業に統合し、サブセグメント「クラウド・AI」領域の中に位置付けました。これは、株主・投資家の皆さまに、今後の成長ドライバーをより分かりやすくお示しするためです。AI計算基盤やAIデータセンターの収益化の確度が大きく高まってきたため、「クラウド・AI」領域の売上高を、2025年度の2,558億円から年平均成長率約30%で成長させ、2027年度に4,300億円とする見通しを示しました。これまで種まきをしてきたAI関連投資が、いよいよ回収フェーズに入っていきます。
当社のクラウド・AI領域は、三つの階層で整理しています。第一に、AIデータセンターやAI計算基盤などの「AIインフラ」です。第二に、「Infrinia」、ソブリンクラウド、国産生成AI「Sarashina」などの「AIプラットフォーム」です。第三に、「Crystal intelligence」などの「AIアプリケーション」です。当社の強みは、これらを個別に提供するのではなく、法人のお客さまのニーズやデータの機密性に応じて組み合わせ、一気通貫で提供できることにあります。
AIインフラでは、これまで構築してきた国内最大級のAI計算基盤に加え、大阪府堺市や北海道苫小牧市におけるAIデータセンターの整備を順次進めていきます。企業がAIを本格的に活用するには、学習や推論を支える十分なAI向けの計算資源が必要です。今後は、AIエージェントやフィジカルAIの普及に伴い、国内のAI計算基盤に対する需要が一層高まると見込んでいます。この需要を見据えて、北海道苫小牧AIデータセンターについては、まずは50メガワット規模からスタートし、将来的にはギガワット規模のAIデータセンターを目指します。当社は、高まる需要に対応するAI計算基盤を整備し、法人のお客さまに提供していきます。
AIプラットフォームの中でも特に期待しているサービスの一つが、当社が自社開発してきた「Infrinia」です。従来、企業がAI計算基盤を利用する場合、ベアメタルサーバー(OSやアプリケーションなどのソフトウエアが一切インストールされていない物理サーバー)を確保し、ハードウエアとソフトウエアの複雑な初期設定を行う必要がありました。そのため、稼働までに数週間から数カ月を要することもあります。「Infrinia」は、この課題を解決し、AI向けの計算資源をクラウドサービスのようにすぐに利用可能にするためのソフトウエアです。顧客企業のエンジニアは、これまでのクラウドサービスを利用するのと同じ感覚で、AIの学習環境や推論環境を利用できます。
AIの中心が学習から推論へ移る時代には、AI向けの計算資源を効率よく使い、高稼働で提供するためのソフトウエアが競争力を左右します。当社は、この将来を見据えて開発してきた「Infrinia」と当社のAI計算基盤を組み合わせた「AIデータセンター GPUクラウド」の国内本格展開に向けて準備を進めています。このサービスをネオクラウドビジネスの足掛かりとすることで、クラウド・AI領域の成長につなげていきます。
ソブリンクラウドと国産生成AI「Sarashina」も、当社の重要なAIプラットフォームです。AIは今後、国力に直結する最重要技術の一つとなっていきます。日本企業、特に製造業には、長い歴史の中で積み上げてきた現場のノウハウがあります。そのノウハウを海外の汎用モデルに安易に学習させれば、明日からそれが世界の常識になってしまい、競争力を失ってしまう恐れがあります。日本企業が守るべき知見を、企業の中に閉じた形で安全に活用できる環境が必要です。その需要を見据えて、当社は国産生成AI、ソブリンクラウドに取り組んでいます。
当社は「Sarashina」を、企業や業界ごとのAI活用を支える国産生成AIのプラットフォームとして位置付けています。日本語に強みを持つ「Sarashina」に、業界や個社のデータを学習させることで、企業ごとの課題に応じたAI活用を可能にします。
AIアプリケーションでは、「Crystal intelligence」を展開していきます。これは、OpenAIと共同で取り組んでいる事業であり、企業内のAIエージェントを連携させ、企業経営全体の最適化を実現する取り組みです。サービス開始に向けて着々と準備を進めています。
AIインフラ、AIプラットフォーム、AIアプリケーションを一気通貫で提供することで、法人のお客さまがAIを実際に使い、成果を出すところまで支援していきます。当社は、重要インフラ15分野を担う法人のお客さま3,000社超を含め、多くのお客さまと長年にわたる取引関係を築いてきました。通信、クラウド、AI、セキュリティを総合的に理解し、お客さまの業務課題に即した提案ができることは、当社の大きな競争力です。AIを作ることだけに主眼を置くのではなく、AIを最も上手に使いこなし、法人のお客さまの成果につなげる会社になる。これが、エンタープライズ事業における当社の成長戦略です。
国内ビジネスの
成長基盤を強化する
通信と国内有数のサービスを
組み合わせ、
お客さまへの
提供価値を磨き込む
国内のビジネスでは、生活に不可欠な通信サービスを基軸に、LINEヤフーが持つメディア・EC領域の圧倒的な顧客接点、PayPayが担う決済・金融機能を組み合わせ、お客さまに提供する価値を磨き込むことで、持続的な成長を目指します。
コンシューマ事業:
付加価値と顧客獲得コストの効率を
高め、
中長期の成長基盤を確立する
コンシューマ事業は、継続的にモバイルサービス売上を拡大し、増益を目指す方針に変更はありませんが、顧客獲得コストの効率を重視し、サービスの付加価値を向上させながら、強固な顧客基盤を維持・拡大する事業運営に軸足を移しています。これまで当社は、契約数の拡大によってARPUの低下を補い、モバイルサービス売上を拡大する構造で成長してきました。しかし、業界全体で通信キャリアを短期で乗り換えるユーザーが増加したことにより、顧客獲得コストの効率が低下し、収益性のバランスを見直す必要性が高まっていました。短期的な獲得競争を続けることで、顧客獲得コストが膨らみ、事業の収益性やサービス品質の維持に影響が出るのであれば、それは中長期的に持続可能とは言えません。コンシューマ事業が将来にわたって成長し続ける事業であるためには、事業運営の軸足を移す必要があると判断しました。
通信料の改定についても、最後まで慎重に議論しました。特に、既存のお客さまにも負担をお願いすることには大きな重みがあります。お客さまが離れてしまうのではないかという心配も当然ありました。それでも、人件費、ネットワークの保守費など、快適かつ強靭な通信サービスを支えるためのコストはインフレにより広範に上昇しています。加えて、今後の「AI共存社会」を見据えれば、安定した通信品質を維持するだけでなく、ネットワークをより高度化するための投資も必要になります。通信インフラを社会基盤として持続的に発展させ、お客さまに安心して快適にご利用いただけるサービスを提供し続けるためには、料金体系の見直しを避けて通ることはできないと考え、意思決定しました。
もちろん、単に料金を見直すだけでは、お客さまの理解は得られません。既存のお客さまにも負担をお願いする以上、価格に見合う付加価値をしっかりと提供する必要があります。そのため、料金改定にあたっては、サービス内容の拡充やグループサービスとの連携強化など、お客さまに付加価値を実感いただける内容としました。足元では、料金改定後のサービスも受け入れられており、長期的に利用いただけるお客さまとの関係を深め、中長期の成長に向けた基盤が確立しつつあると受け止めています。
メディア・EC事業:
AIエージェントで顧客体験を
進化させ、事業成長へ
メディア・EC事業の中核企業であるLINEヤフーは、国内最大級のユーザーを抱える企業として、検索、ニュース、メッセージ、コマースなど、日常生活の多くの場面で使われるオンラインサービスを提供しています。特に「LINE」は、国内で1億人※4を超える月間アクティブユーザーを有しており、消費者に最も近い顧客接点の一つです。
この1億人を超える顧客接点は、AIエージェントが今後普及していく中で、当社グループの大きな強みになると考えています。AIエージェントの利便性を多くの人々に実感いただくためには、特別なアプリケーションの中だけで使われるのではなく、日常的に利用されるサービスの中に自然に組み込まれることが重要です。多くのお客さまに日々使われるサービスを数多く持つLINEヤフーは、AIエージェントによる顧客体験の進化を、事業成長につなげる有利なポジションにあります。
2026年4月に発表したAIエージェントサービス「Agenti」の取り組みは、ユーザーの情報収集、比較、購買、予約といった意思決定をより自然に支えるものです。ユーザーが必要な情報やサービスにより自然かつスムーズにたどり着けるようになれば、サービスの利便性が高まり、利用頻度や滞在時間の向上にもつながります。その結果、広告やコマースの成長機会も広がっていくと期待しています。
当社にとっても、LINEヤフーが顧客体験を進化させることは重要です。AIエージェントによってLINEヤフーのサービスの魅力を高め、その接点を通信、決済、金融などのグループサービスと有機的につなげていくことで、国内におけるグループビジネス全体の成長を一段と加速させていきます。
- [注]
-
- ※4
2026年3月末時点
- ※4
ファイナンス事業:
決済から金融サービスへ、
収益機会をさらに広げる
ファイナンス事業は、PayPayを中心に大きく成長しています。PayPay銀行(株)、PayPay証券(株)などをPayPayの傘下に集約し、金融サービスを一体で提供できる体制が整ってきました。2026年3月にはナスダック市場に上場し、企業価値が顕在化するとともに、グローバルな成長に向けた検討も開始しました。また、2026年6月には、ユーザーのライフステージに応じた包括的な金融サービスを提供することを目指し、T&Dフィナンシャル生命保険(株)の子会社化を発表しています。
PayPayは、当社グループの決済・金融サービス領域を担う存在です。通信事業の顧客基盤、LINEヤフーのメディア・ECサービス、PayPayの決済基盤がつながることで、日常の消費、オンライン取引、金融サービスの利用機会が広がります。決済回数や取扱高が拡大すれば、クレジット、銀行、証券、保険、融資などの金融サービスを提供する機会も広がります。
今後は、オンライン決済やクレジット決済の拡大、PayPay銀行(株)を中心とした中小企業向け融資などの金融サービスを通じて、決済から金融へと収益機会をさらに広げていきます。Visaとの戦略的パートナーシップを活用した海外展開の検討も含め、国内で磨いたモデルをグローバルへ広げることにも挑戦します。
通信インフラ:
AI時代に最適化した「トークン」を
運ぶAIネットワークインフラへ
当社の通信ネットワークは、コンシューマ事業やエンタープライズ事業の競争力を支える基盤であると同時に、AI時代のサービス体験品質を左右する重要なインフラです。
かつてのネットワークは音声を運ぶものでした。インターネットの普及以降は、データ、すなわちビットを運ぶインフラへ進化しました。「AI共存社会」において、通信はさらに進化します。これから運ぶべきものは、AIが理解して推論し、応答するための「トークン」です。AIへの問いかけ、画像や映像、センサー情報、ロボットや自動運転の制御情報などが通信ネットワークを流れることが増えるので、アップロード側の通信の重要性も今後高まっていきます。このような時代の変化を見据えて、先手を打って準備を進めています。
「AI共存社会」に向けては、ネットワークとAI計算基盤を別々に考えるのではなく、一つのインフラとして全体のアーキテクチャを設計する必要があります。「AI-RAN」は、こうした将来を見据えた取り組みです。AIを快適かつ安全に利用できる通信環境を整備することが、次世代社会インフラ企業としての当社の責任だと捉えています。
海外展開「Beyond Japan」に
向けた布石:SB Neo
財務健全性を維持しながら、
米国のAI需要を段階的に取り込む
私は当社の成長を日本国内だけに閉じるつもりはありません。AI向けの計算資源への需要は、世界中で急速に拡大しています。特に米国では、AIの学習・推論需要が非常に旺盛であり、ネオクラウドビジネスは今後大きく伸びる市場だと見ています。
2026年7月には、米国でネオクラウドビジネスを展開する事業会社SB Neo, Inc.(以下、SB Neo)の設立を発表しました。出資比率は当社が51%、ソフトバンクグループ(株)が49%で、当社の連結子会社となります。
SB Neoは、ソフトバンクグループで開発を進めるエネルギーおよびAIインフラを基に、大規模なAIモデルの学習や推論に必要な計算資源を、ハイパースケーラーなどの米国大企業向けに提供することを目指しており、2027年度にサービスを開始する予定です。
米国で事業を展開する上では、ソフトバンクグループがすでに米国で進めている大規模なAIインフラを構築するプロジェクトの基盤や人材など、さまざまなリソースを生かせることが強みになります。一方で当社は、前述の「Infrinia」を活用したGPUクラウドサービスのノウハウや知見を生かし、米国でのネオクラウドビジネスを推進していきます。
ネオクラウドビジネスは設備投資規模が大きくなることが予想されるため、財務健全性を維持しながら展開していくことが重要です。オフテイカーの需要を確認しながら、段階的に提供していく構想です。案件ごとに特別目的会社(SPC)を活用し、ノンリコースローンによる調達を検討することで、リスクを適切にコントロールしながら成長機会を取り込んでいきます。
AIインフラの本流は、現在、米国を中心に大きく動いています。SB Neoは、その大きな需要地に当社が事業主体として参画し、ソフトバンクグループの力も活用しながら新たな収益機会を追求するための布石です。米国での事業経験や運用知見を蓄積し、それを国内のAIデータセンター運用やクラウド・AIサービスの高度化として還流することで、当社グループ全体の競争力を高めていきたいと考えています。
持続的成長を支えるESG
AI時代の社会課題に向き合い、
企業価値の向上につなげる
AIを社会に実装していく企業として、私たちは、AIがもたらす利便性や成長機会を広げるだけでなく、それに伴って生じる社会的な課題にも責任を持って向き合う必要があります。AIデータセンターの拡大に伴う電力課題、サイバーセキュリティリスクの高度化、上場企業グループとしてのガバナンスの高度化。これらはいずれも、当社の成長と切り離せない重要な経営課題だと捉え、真摯に向き合っていきます。
Environment(環境)の取り組み:
AIデータセンターの電力課題を、
GXの成長機会へつなげる
AIデータセンターの拡大は、電力消費や環境負荷という大きな課題を伴います。新中期経営計画では、AIデータセンターなどの拡大を進める中でも、2030年度のカーボンニュートラル達成を堅持することを非財務目標として掲げました。AIを社会に実装する企業である以上、AIが生み出す環境負荷にも正面から向き合う責任があります。
当社はこれまでも、再生可能エネルギーの活用や基地局の省電力化などに取り組んできました。今後は、AIデータセンターの増加によって、これまで以上に電力の安定供給、ピークシフト、エネルギーマネジメントが重要になります。これはコストの増加要因となりますが、一方で、当社にとって新たな事業機会でもあります。
当社が開発に取り組む革新型バッテリーは、AIデータセンターの電力課題を踏まえた取り組みです。これを自社のAIデータセンターやモバイル基地局に導入し、電力の安定供給やコスト競争力の向上につなげます。さらに、蓄電システムとAIを活用したエネルギーマネジメントシステムを組み合わせることで、データセンターや建物が自律的に電力を制御できる世界を目指します。また、コンシューマ事業やエンタープライズ事業のチャネルでも販売し、社会全体の電力消費の最適化にも貢献していきます。日本で実績を積んだ後には、海外展開にも取り組み、2030年度には1,000億円規模のビジネスにしていく考えです。AI時代の電力課題の解決に取り組むことは、持続可能な社会の実現に貢献するだけでなく、当社のGXビジネスの成長機会にもなると捉えています。
Social(社会)の取り組み:
日本の重要インフラを守る責務を
果たし、事業成長へつなげる
AIの社会実装が進むほど、社会インフラにおけるサイバーセキュリティの重要性は飛躍的に高まります。AIは生産性を高める一方で、攻撃手法の高度化ももたらします。通信インフラを担い、重要インフラ分野のお客さまと長年向き合ってきた当社にとって、サイバーセキュリティの強化に取り組むことは、事業者としての社会的責務です。
当社自身も、社会インフラである通信ネットワークを担う企業として、脆弱性管理、認証・ID管理、ファイアウォール構築、DDoS対策、24時間365日の監視など、サイバー攻撃に対するさまざまな対策を講じてきました。その上で、OpenAIの国内におけるファーストカスタマーとしてサイバーセキュリティ分野に特化したAIモデルを活用して検証を行ったところ、人間だけでは見つけきれなかった多くの攻撃の糸口を短期間で洗い出すことができ、必要な対策を早期に講じることができました。AIによるセキュリティ対策の有効性を、身をもって実感するとともに、AI時代のサイバーセキュリティは、従来の延長線上では対応しきれない新たな経営課題になったと捉えています。
当社はOpenAIとともに、「Patching as a Service」に取り組んでいます。これは、前述のAIモデルを活用し、企業のシステムの脆弱性を診断し、パッチと呼ばれる修正プログラムを適用するサービスです。サイバー攻撃によって企業のシステムが止まれば、売上が一瞬で失われ、社会インフラが混乱する可能性があります。これは企業のサステナビリティそのものに関わる問題です。日本の企業のサイバーセキュリティ対策を強力に支援し、重要インフラを守るための取り組みとして、全速力で進めていきます。重要インフラを担う企業や、機密性の高いデータを扱う企業にとって、AI活用とセキュリティは切り離せない課題です。当社は、通信、クラウド、AI、セキュリティを一体で提供することで、社会的な責任を果たしながら、法人のお客さまの課題解決を支援し、事業成長につなげていきます。
Governance(ガバナンス)の
取り組み:
自律性と市場規律を
生かすグループ構造
当社は、ソフトバンクグループ(株)の上場子会社であると同時に、LINEヤフーやPayPayなどの上場子会社を持つ親会社でもあります。親子上場については、投資家の皆さまから、利益相反のリスクや現在のグループ構造の妥当性についてご意見をいただいています。この点について、私の考えを明確にお伝えします。
まず、当社がソフトバンクグループ(株)の上場子会社であることについてです。ソフトバンクグループ(株)と取引を行う際に重視しているのは、その取り組みが当社の企業価値向上に資するか、当社の収益機会につながるかという点です。当社単独で十分に実行できる事業であれば、共同で事業を行うことは原則としてありません。一方で、SB Neoの展開やOpenAIとの協業のように、ソフトバンクグループ(株)のグローバルなネットワークや投資先との関係を活用することで、当社単独では得られないスピードで事業展開する機会を獲得できる場合があります。
完全に資本関係を切り離せば、形式的な独立性は高まるかもしれません。しかし、ソフトバンクグループ(株)が持つグローバルな情報、ネットワーク、投資先との関係を活用できる機会は少なくなります。一方で、完全子会社化されれば、当社は少数株主の皆さまから直接評価を受ける上場会社としての市場規律を失います。現在の形は、親会社の知見を活用しながら、当社自身が上場会社として市場の声を受け止め、自律的にスピード感を持って意思決定できるという両面を持っています。
もちろん、利益相反への対応は不可欠です。当社では、取締役の過半数を独立社外取締役とし、一定基準を超えるソフトバンクグループ(株)との重要取引については、独立社外取締役のみで構成される会議(独立社外取締役会議)で事前に検討する体制を整えています。少数株主にとって不利な意思決定を防ぐ仕組みを維持しながら、必要なシナジーを取り込む。このバランスが重要です。
次に、当社がLINEヤフーやPayPayなどの上場子会社を持つ親会社としての立場についてです。これらの企業を完全子会社化すれば、グループとしての統制は強まります。しかし、各社が上場企業として市場から直接評価を受け、自律的にスピード感を持って経営し、優秀な人材を獲得しながら成長できるメリットは小さくなります。一方で、完全に資本関係を切り離せば、各社の独立性は高まるものの、われわれの「経済圏」から得られるメリットは小さくなることでしょう。
現在の体制は、各社の自律性と市場規律を保ちながら、グループ全体としての方向性を共有し、重複投資を避け、それぞれが最も強い領域に集中して成長するための構造です。こうした連携をさらに強めるため、LINEヤフーとPayPayのCEOも2026年6月から当社の取締役に加わりました。また、私自身もPayPayの取締役、LINEヤフーの親会社であるAホールディングス(株)の取締役を務めています。経営トップ同士が継続的に方向性を共有し、ガバナンスを効かせながら、グループ全体でシナジー創出を加速していきます。
親子上場は、形だけで評価されるべきものではありません。重要なのは、その構造が各社の企業価値向上に貢献できているか、少数株主の利益を守る仕組みがあるか、そしてグループ全体として社会に提供する価値を最大化できているかです。われわれは、これらの観点から現在の体制を不断に検証し、投資家の皆さまの疑問や懸念に真摯に応えていきます。
キャピタルアロケーション:
成長投資と財務規律
財務健全性、資本効率を
維持・向上させながら、
成長投資と株主還元を両立する
新中期経営計画では、キャピタルアロケーションの考え方を明確にしました。継続的な増配を目指す一方で、AI時代の成長機会を取り込むためには、財務健全性や資本効率を意識しつつ、必要な成長投資を実行していくことが不可欠です。
2026年度から2028年度までの3年累計※5では、コンシューマ事業とエンタープライズ事業を中心に3.4兆円の営業キャッシュ・フロー※6を創出する計画です。通信料などによる安定的・継続的な創出に加え、国内最大規模のAI計算基盤やAIデータセンターの収益が加わります。この営業キャッシュ・フローは、後述の通信関連の設備投資と株主還元の強化などを賄える水準です。
キャッシュアウトについては、モバイルサービス売上の増加を背景に、快適で強靭なネットワークを構築し競争力を維持するため、主に通信関連の設備投資として3年累計1.5兆円を計画しています。また、基地局設置のための土地・建物に関するリース料※7の支払いとして0.4兆円、株主還元として1.3兆円を見込んでいます。これらに加え、AI関連の追加設備投資、M&A、自己株式の取得などに活用する戦略枠として1.0兆円を確保しています。
この戦略枠1.0兆円のうち、現時点で0.3兆円の使途が決まっています。大阪堺AIデータセンター(140メガワット)や北海道苫小牧AIデータセンター(50メガワット規模)の構築、革新型バッテリー製造が含まれます。残りの0.7兆円については、企業価値を高めるための次の一手として、リターンの大きさや確度、資本コスト、財務健全性への影響を見極めながら意思決定していきます。
上述の戦略枠1.0兆円の判断に合わせ、資金調達については3年累計で総額0.8兆円を想定しています。調整後ネットレバレッジ・レシオ※8は2倍台半ば、連結調整後ROE※9は20%前後を目線とし、財務健全性と資本効率性の両立を追求します。調整後ネットレバレッジ・レシオが2倍台半ばを超える場合には、投資回収の蓋然性をより慎重に見極めながら投資判断を行います。
このようなキャピタルアロケーションの考え方をベースに、成長投資・株主還元・財務健全性のバランスを取りながら、企業価値の最大化を目指します。
- [注]
-
- ※5
キャピタルアロケーションは、LYグループ・PayPay等を除いて管理
- ※6
割賦債権流動化による影響を含む
- ※7
通信設備、基地局用不動産および構築物のスペース、通信ネットワーク用不動産、事務所および倉庫などの賃借料に関わるリース負債の支払い
- ※8
調整後ネットレバレッジ・レシオ = 純有利子負債 ÷ 調整後EBITDA(該当四半期の直近12カ月)
- ※9
連結調整後ROE =(親会社の所有者に帰属する純利益-社債型種類株式の配当総額)÷(親会社の所有者に帰属する持分-社債型種類株式の残高)
- ※5
株主・投資家の皆さまへの
メッセージ
「AI共存社会」の「当事者」
として未来を創る
私は、5年先、10年先だけを見て経営上の判断をしているわけではありません。当社はインフラ企業であり、20年後、30年後にも社会の中で重要な役割を担い続ける会社です。だからこそ、「30年後のソフトバンクにとって、今やるべきことは何か」という目線で意思決定するように心がけています。私が社長である期間だけの短期的な利益を創出するために、将来に負担を先送りする経営はしたくありません。中長期的な目線で「あの時の仕掛けが効いた」と言われるような仕事をしたいと考えています。
AIは、世の中を便利にする一方で、人・企業・社会のあり方を大きく変える可能性を持っています。便利さの先に本当に人の幸せがあるのか。AIが企業や社会をよい方向に導くのか。私は、その問いに対して、当社が「傍観者」ではなく、「当事者」になりたいと考えています。どこか一部のパーツだけを担うのではなく、AIデータセンター、ネットワーク、クラウド、セキュリティ、AIサービス、そして消費者との接点まで垂直統合で関わるからこそ、AI社会をよい方向へ導く「当事者」になり得るのです。
これからの5年間は、これまで投資してきたAIインフラやAIサービスを収益化し、まずは株主の皆さまにお示しした新中期経営計画の目標を着実にやり遂げます。同時に、SB Neoによる米国でのネオクラウドビジネス、「Patching as a Service」、革新型バッテリー、次世代メモリ、HAPS※10、「AI-RAN」、ソブリンAIなど、収益化の確度を高めながらアップサイドを狙う取り組みも進めています。短期的に利益貢献するものもあれば、本格的な収穫時期がさらに次の中期経営計画期間になるものもあります。しかし、20年後、30年後のソフトバンクを考えれば、今から種まきしておくべきものばかりです。
株主・投資家の皆さまに、当社をAI時代の成長企業として評価いただくためには、私たち自身が成果を数字で示し、その進捗を分かりやすく説明し続けることが必要です。これまで種まきしてきたAI投資を着実に収益化し、新中期経営計画の目標を達成するとともに、さらなるアップサイドを追求する。そして、成長の成果を株主還元にもつなげ、株主の皆さまとも分かち合っていく。その一つ一つを実行し、市場との対話を重ねながら、ソフトバンクは次世代社会インフラ企業としての進化を加速させていきます。引き続き、当社の中長期的な成長にご期待いただき、ご支援を賜りますようお願い申し上げます。
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HAPS(High Altitude Platform Station):成層圏において長期間滞空する通信プラットフォームを運用し、広域エリアに通信サービスを提供するシステムの総称。
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