プレスリリース 2023年

実用環境における量子もつれの伝送実験を開始

2023年9月21日
ソフトバンク株式会社
LQUOM株式会社

ソフトバンク株式会社(本社:東京都港区、代表取締役 社長執行役員 兼 CEO:宮川潤一、以下「ソフトバンク」)とLQUOM株式会社(ルクオム、本社:横浜市保土ケ谷区、代表取締役社長 CEO:新関和哉、以下「LQUOM」)は、量子インターネット(1)の実現に向けて、実際に東京都心部に敷設されている光ファイバーを使って量子もつれ(2)を伝送する実験を開始しました。実験では、ソフトバンクの本社と東京都内にあるソフトバンクのデータセンターを結ぶ光ファイバーに、LQUOMが研究を進める量子通信システムを組み合わせることで、量子通信技術の検証を行います。

ソフトバンクは、将来の量子社会を支えるインフラとして、既存のインターネット技術と量子インターネット技術を融合したハイブリッドネットワークの実用化を目指して、取り組みを進めています。LQUOMは、量子インターネットの実現に向けて、量子通信システムや関連技術の開発に取り組んでいます。今後、ソフトバンクとLQUOMは、量子インターネットの実現に必要な基礎技術の検証を行い、量子インターネットのユースケースを見極めながら社会実装を進めるとともに、将来のネットワークインフラの高度化に寄与していきます。

既存のインターネットと量子インターネットを融合したハイブリッドネットワークのイメージ
既存のインターネットと量子インターネットを融合したハイブリッドネットワークのイメージ

背景

近年、量子コンピューターをはじめとする量子技術の開発が世界中で加速しています。こうした中、量子技術の社会実装を支えるためには、現在のインターネット技術だけでは実現できない機能があることから、量子インターネット技術の研究開発も進んでいます。量子インターネットの実現により、量子コンピューターの分散処理や、情報理論的に安全な量子暗号通信、量子テレポーテーション、遠く離れた2地点の正確な時刻同期など、現在のインターネット技術だけでは実現できない機能の実用化が期待されています。

量子インターネットを実現するための基礎技術の一つに、量子もつれがあります。量子もつれを発生させる方法はいくつかありますが、光(光子)を使って量子もつれを起こした場合は、その量子もつれ光を、光ファイバーを通して遠くに届けることが可能です。この量子もつれ光をさまざまな地点へ共有するネットワークが、量子インターネットです。

量子インターネットの実現には、量子もつれ光を生み出す技術と、量子もつれ光を光ファイバーで伝送する技術、量子もつれ光を中継する技術が必須となります。しかし、量子もつれ状態は非常に特殊な状態で不安定なため、そのままでは長距離の伝送ができないという課題があります。そのため、通信経路の途中で専用の量子中継器(3)を活用する研究開発が行われています。

実験の概要

通信に使われている光ファイバーは、電柱の上や地下を通っているため、地下鉄や通行車両による振動、風や雨、さらに季節や昼夜の温度の変化など、さまざまな環境の変化にさらされています。そのため、量子インターネットの実用化に向けて、このような環境の変化が量子もつれの状態・品質にどのように影響するのかを確かめる必要があります。

今回の実験では、ソフトバンクの本社と、東京都内にあるソフトバンクのデータセンターを結ぶ光ファイバー(2拠点間のファイバー距離 約16km)に、LQUOMが開発を進めている量子通信システムを組み合わせることで、大都市部の実用環境における量子通信技術の検証を行います。具体的には、実際のネットワーク環境において、量子もつれ状態の振る舞い(安定度や位相の変化など)に関するデータを取得・解析することで、量子通信技術の実用化に向けた課題の洗い出しと整理を行います。将来的には、LQUOMが開発した量子通信システムを使って、ソフトバンクのネットワーク上で量子通信の長距離伝送試験を行う予定です。

量子中継システムの全体図

LQUOMについて

LQUOMは、量子インターネットの実現に向けて、量子通信システム、量子中継器および関連技術の開発と製品化に取り組む、横浜国立大学発のスタートアップです。これまでの技術開発および横浜国立大学との共同研究によって、LQUOMは量子中継器に必要な基礎技術を保有しています。LQUOMは2023年にシリーズA資金調達をし、量子中継器の実現に向けた開発を加速させています。
ホームページURL:https://lquom.com/

技術解説

  1. (1)
    量子インターネット
    2拠点にある量子デバイス(量子コンピューターや量子メモリーなど)をつなぎ、量子もつれ状態を共有し、量子状態をそのまま配送することが可能な大規模な通信ネットワークのこと。
  2. (2)
    量子もつれ
    二つ以上の量子が特殊な条件下でペアになることで発生する現象で、量子力学的な考え方を用いないと説明できない、量子間の強い相関のこと。例えば、AとBの間に量子もつれが発生した場合、AとBが0または1どちらの観測値を取るかはランダムだが、Aの観測値が0ならばBの観測値も必ず0になる、といった相関が成立する。また、同じAとBにおいて、0と1の重ね合わせ状態が観測される場合でも、同様の相関が成立する。このような量子もつれを用いることで、量子テレポーテーションや量子中継などの量子通信を実装することができる。
  3. (3)
    量子中継器
    短距離での量子もつれ配送を長距離化することができる中継機器のこと。量子インターネットの伝送路として既存の光ファイバー網を用いることはできるが、古典的な中継機器を用いると、量子通信において重要な量子もつれ状態が破壊される。そのため、長距離の量子もつれ配送を実現するには、量子もつれ状態を破壊せずに中継する量子もつれ交換が必要であり、既存の光ファイバー網と量子もつれ交換を組み合わせた量子中継器の開発が、量子インターネットの実現に向けて重要となる。
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