プレスリリース 2025年
「AITRAS」のエッジAIサーバー上で動作する
「遠隔自動運転サポートシステム」を開発
~レベル4の自動運転の社会実装に向けて、慶應義塾大学SFCで実証~
2025年3月19日
ソフトバンク株式会社
ソフトバンク株式会社(以下「ソフトバンク」)は、レベル4(高度運転自動化)※1の自動運転の社会実装に向けて、AI-RANの統合ソリューション「AITRAS(アイトラス)」※2のエッジAI(人工知能)サーバー上で動作する「遠隔自動運転サポートシステム」を開発しました。このシステムは、自動運転車と連携することで、自動運転車のセンサーやシステムの一部に不具合が起こった場合や、想定外の事象によって自動運転車が意図しない動作をした場合に、遠隔サポートで安全な自動走行を実現するものです。
ソフトバンクは、慶應義塾大学の大前研究室と共同で、「遠隔自動運転サポートシステム」の実証実験を同大学の湘南藤沢キャンパス(神奈川県藤沢市、以下「SFC」)で2025年2月に開始しました。この実証実験では、「AITRAS」のエッジAIサーバー上で動作する「遠隔自動運転サポートシステム」や「交通理解マルチモーダルAI」※3の活用による、自動運転車の走行サポートを検証しています。これまでに、自動運転車がカーブを走行中、自動運転システムに不具合が生じた場合を想定した検証を行った結果、「遠隔自動運転サポートシステム」で安全な停車位置まで自動走行ができることを確認しました。
「遠隔自動運転サポートシステム」の概要
ソフトバンクが開発した「遠隔自動運転サポートシステム」は、自動運転車に搭載した前方カメラの映像を、5G(第5世代移動通信システム)ネットワークを通してリアルタイムで「AITRAS」のエッジAIサーバーへ送信します。エッジAIサーバー内にある、GPU(Graphics Processing Unit)を搭載したNVIDIA アクセラレーテッドコンピューティングプラットフォームで動作する認知AIが、送信された映像を基に前方の障害物や路面の形状などを即座に認知し、その結果を自動運転車へ伝送することで、自動走行のサポートを実現します。この一連のAI処理には、NVIDIA DeepStream SDKを使用しており、ニューラルネットワークなどの複雑な処理タスクを組み込むことで、リアルタイムでの映像分析およびトラッキングを実現しています。計算コストがかかるAI処理をエッジAIサーバー上で行い、走行に必要な情報のみを自動運転車へ伝送することで、自動運転車側は大きな計算リソースを搭載することなく自動走行を実現できます。現在は特定のシーンでのサポートに対応していますが、将来的にはあらゆるシーンで自動走行をサポートすることを目指しています。

実証実験の一例
SFCで実施している実証実験のユースケースの一つとして、自動運転車がカーブを走行中、自動運転システムに不具合が生じ、安全に走行を継続できない場合に、エッジAIサーバー上の「遠隔自動運転サポートシステム」によって、通常の自動運転システムと同等の走行ができるかどうかの検証を行いました。このシナリオでは、カーブを走行中に自動運転システムの機能の一部を意図的に失陥させ、代わりに「遠隔自動運転サポートシステム」によるサポートを行いました。自動運転車のカメラの映像を基に認知AIが周囲の認知を行い、自動運転車にその情報を伝送することで、リスク最小化制御モードで動作する自動運転システムが認知結果を基に経路計画を行います。カーブで前方が見渡せない状況や、障害物を検知している際には停車動作を行わず、安全なスペースを見つけて停車できるかどうかを検証しました。

このケースでは、車線や障害物の認知が適切に行えないと、車線から逸脱したり障害物に衝突したりするリスクがあります。そのため、走行可能なエリアと障害物の位置をリアルタイムに認知し、その認知結果に応じて適切な経路設定および制御指示を行う必要があります。今回の実証実験では、「AITRAS」のエッジAIサーバー上で動作する「遠隔自動運転サポートシステム」を用いて、カーブ走行中に障害物がある状況でも自動走行ができることを確認しました。
「交通理解マルチモーダルAI」との連携
「AITRAS」のエッジAIサーバー上で動作する「遠隔自動運転サポートシステム」と「交通理解マルチモーダルAI」を連携させることで、自動運転車の自動運転システムや認知AIでは対応できない複雑で予測が困難な事態に直面した場合でも、スムーズに走行を続けることが可能になります。「交通理解マルチモーダルAI」は、汎用的なAI基盤モデルに、交通教本や交通法規などの日本の交通知識に加え、一般的な走行シーンや予測が困難な走行状況におけるリスクと対処方法を学習させたものです。「交通理解マルチモーダルAI」は、自動運転車から送信された走行映像などを基に交通状況を判断し、そのリスクと対処法をリアルタイムで言語化することが可能です。これにより自動運転車が誤った判断をした場合や、おかしな挙動をしている場合など、走行を継続すると危険な状況においても、遠隔でのサポートによる安全な走行を実現することができます。

SFCで実施している実証実験では、「横断歩道に障害物がある状況での走行」というシナリオで検証を行いました。「交通理解マルチモーダルAI」が交通状況のリスクを分析して停車指示を生成し、「遠隔自動運転サポートシステム」がその結果を自動運転車へ伝送することで、安全に停車できるかの検証を行いました。検証の結果、「AITRAS」のエッジAIサーバー上で動作させることで、低遅延で自動運転車へ停車指示を伝送することができ、「AITRAS」のエッジAIサーバーを使用しなかった場合と比べて、障害物の手前で安全に停車できることを確認しました。
ソフトバンクは、実際の走行環境で発生する、予測が困難な走行リスクと対処方法を継続的に学習させることで、「交通理解マルチモーダルAI」の精度を向上させていきます。また、将来的には、「遠隔自動運転サポートシステム」と「交通理解マルチモーダルAI」を活用した、自動運転車の運行業務の完全無人化を目指します。今後もソフトバンクは、自動運転車の安全性の向上や運行コストの削減などの課題解決を目指すとともに、自動運転の社会実装に向けた研究開発を推進していきます。
ソフトバンクの執行役員 兼 先端技術研究所 所長の湧川隆次は、次のように述べています。
「現在の自動運転車は、基本的な走行は可能な状態にあるものの、予期しない事象への対応が難しく、これが自動運転の社会実装の課題になっています。そこで、車両から見える空間を認知して自動走行する自動運転車と、車両やインフラを含めた交通環境全体をコンテキストレベルまでAIを用いて理解し、最適な走行を支援するエッジAIを組み合わせることで、この課題を解決できるのではないかと期待しています。ソフトバンクは、これらの問題に取り組み、自動運転の社会実装を積極的に推進していきます」
- [注]
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- ※1レベル4とは、特定の条件下で、システムが全ての運転のタスクを実施する状態のこと。
- ※2詳細は2024年11月13日付のプレスリリース「AI-RAN統合ソリューション『AITRAS』を開発」をご覧ください。
- ※3詳細は2024年11月5日付のプレスリリース「低遅延なエッジAIサーバーで動作する自動運転向け『交通理解マルチモーダルAI』を開発」をご覧ください。
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