プレスリリース 2018年

雪山や山岳地域などでの遭難者救助を目的とした
ドローンによる新無線中継システムの実証実験結果と
実用化に向けた提言について

2018年10月18日
ソフトバンク株式会社

ソフトバンク株式会社(以下「ソフトバンク」)は、雪山や山岳地域などでの早期の遭難者救助を目的に、独自に開発したドローン無線中継システム(以下「本システム」)を用いた屋外実証実験を実施するために、実験試験局の本免許を総務省北海道総合通信局から取得して、2018年3月30日から9月30日まで実証実験を行いました。本システムを実用化するための、制度面の整備への提言を含めた実証実験結果についてお知らせします。

実証実験の背景

この実証実験に先立ち、ソフトバンクは、2016年8月31日から2017年3月31日までの間、総務省北海道総合通信局から雪山や山岳地域での遭難事故による遭難者の迅速な救助を目的とする「携帯・スマホ等を活用した遭難者の位置特定に関する調査検討」を受託し、調査や試験などを実施しました。この試験事務では、携帯電話やスマートフォン(スマホ)の位置情報サービスを捜索活動に生かすことを目的に、雪上車係留気球無線中継システムおよびドローン無線中継システムの臨時無線中継システムを活用し、雪中に埋もれたスマホのGPS機能で取得した位置情報を、それぞれの臨時無線中継システムで中継した移動通信ネットワークを介して捜索側のパソコンやタブレットに通知して、遭難者の位置を迅速に特定する「遭難者位置特定システム」を提案し、その実証実験を北海道倶知安町のスキー場で行い※1、その有効性を確認すると共にノウハウなどを蓄積してきました。

実証実験の内容

北海道大樹町の「大樹町多目的航空公園」で、2018年4月からソフトバンクが独自に改良したドローン無線中継システムを利用した屋外実証実験を実施※2しました。今回は、従来の単一移動通信事業者のスマホとの無線中継に代わり、複数の移動通信事業者の電波を同時に無線中継する機能を開発し(図1)、ドローン無線中継システムを介してそれぞれの移動通信事業者のスマホとデータ送受信を可能とすることで、雪中に埋もれたスマホのGPS機能で取得した位置情報を捜索側のパソコンやタブレットに通知し、遭難者が加入する移動通信事業者に依存することなくスマホの位置が特定できることを確認しました。(図2)

また、移動通信ネットワーク経由でドローンを制御するための通信モジュールを開発して本システムに搭載することで、移動通信ネットワークを介して遠隔地からドローンを操縦することを可能とし、また無線中継局の電波の送信や停止などの運用を遠隔地から操作することを可能にしたことから、ドローン操縦者や通信事業者が現地に赴くことなく本システムを運用できるようになり、捜索開始までの時間を大幅に短縮できることが実証実験で明らかになりました。

さらに、本システムを用いればドローン無線中継システムを介して現場上空での無線中継が可能となるため、実証実験では遠隔操縦でカメラを搭載した別のドローンを、位置を特定した遭難エリア上空に飛ばして、現場の状況をリアルタイム映像として確認することができました。

本システムの実用化に向けて新たに追加したこれらの機能により、移動通信事業者やドローン操縦者が現地に直接赴くことなく、本システムが運用できるようになり、また遭難者が加入する移動通信事業者に依存することなくスマホの位置特定が可能となったことから、運用開始までの時間を大幅に短縮できることが今回の実験で明らかになりました。

図1:複数の移動通信事業者に対応したドローン無線中継システムの構成

図1:複数の移動通信事業者に対応したドローン無線中継システムの構成

図2:複数の移動通信事業者に対応した無線中継システムの実証実験の様子

図2:複数の移動通信事業者に対応した無線中継システムの実証実験の様子

これらの実証実験を通して雪中約5m程度の深さに埋まった遭難者の位置特定が、所持しているスマホの移動通信事業者に依存することなく可能であることが確認でき、本システムが雪中深く埋まった遭難者の早期の救助支援に大変に有効であることを確認できました。また、移動通信ネットワークを使った遠隔操作が可能になり、本システムの運用開始までの時間が大幅に短縮されるため、救助隊による初動捜索、救助に有効であることも確認しました。
ただし、本システムを早期に実用化させるためには制度面などの整備が必要であり、その一部を提言案としてまとめました。

ドローン無線中継システム実用化に向けた提言

  1. 無線通信関連での制度改正
    ドローン無線中継装置は今までの実証実験を通して技術的に動作可能であることを確認し、実際の救助活動の現場への配備が可能と考えます。しかし、携帯電話の無線設備(基地局、レピーター※3、携帯電話機など)は干渉条件などの知見が足りないため、現状ではドローンへ無線設備を搭載したサービス提供が実現できません。本実証実験の知見などを関係省庁へ提供しつつ、それらの省庁と協力して遭難者などの人命救助に本システムの利用ができるように、早期の制度化または制度改正が必要です。
  2. ドローン飛行関連での制度改正
    移動通信ネットワークを介してドローンを遠隔地から操縦する場合は、目視外飛行に当たるため、それを実現するには関係省庁の承認を受ける必要があります。そこで、本実証実験の知見なども関係省庁へ提供をしつつ、それらの省庁と協力して遭難者などの人命救助に本システムの利用ができるように、早期の制度化または制度改正が必要です。

ソフトバンクは、雪山や山岳地帯などでの遭難者救助を目的としたドローン無線中継システムの実用化を目指し、一刻も早く実際の救助活動の現場で導入いただくために、関係省庁への働きかけを継続していきます。

[注]
  1. ※1
    受託後の報告の詳細については、2017年5月22日のプレスリリース「気球・ドローン無線中継システムを活用した雪山での遭難者位置特定、調査検討結果について」をご参照ください。
  2. ※2
    実証実験の内容については、2018年3月30日のプレスリリース「雪山や山岳地域の遭難者救助を目的としたドローンによる新無線中継システムの実証実験について」をご参照ください。
  3. ※3
    基地局の電波を屋内へ引き込み、お客さまの自宅などの電波状況を改善する装置
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