プレスリリース 2025年

量子コンピューティング技術を活用した
無線基地局の設定最適化により通信性能を向上

~実証実験において下りデータ通信速度を約10%、データ通信容量を最大50%向上させることに成功~

2025年7月29日
ソフトバンク株式会社

ソフトバンク株式会社(以下「ソフトバンク」)は、量子コンピューティング技術の一種であるイジングマシン※1を活用して、無線基地局の設定を最適化する実証実験を東京都内で実施しました。その結果、キャリアアグリゲーション(以下「CA」)を活用した5G(第5世代移動通信システム)通信において、従来と比較して下りのデータ通信速度を約10%、データ通信容量を最大50%向上させることに成功しました。

今回の実証実験では、CAのエリア拡大を目的に、量子コンピューティング技術を活用して基地局の設定を最適化する検証を行いました。CAは、複数の周波数帯の電波を同時に利用することで、高速で、かつ安定した通信を実現する技術であり、基地局同士の関連付け(以下「CAリンク」)を事前に設定する必要があります。しかし、基地局の増加により、CAリンクの構成は飛躍的に複雑化しています。例えば、10局から2局を組み合わせるだけで45通りが存在し、各組み合わせに「CAリンクを設定する/しない」の選択肢があるため、全体の組み合わせは35兆通り(2の45乗)に及びます。さらに、基地局ごとに設定可能なCAリンクの上限数などの制約もあることから、CAの利用可能エリアを最大化する最適な組み合わせを見つけるのは極めて困難です。

今回実施した実証実験では、複数の5G基地局が設置された東京都内のエリアを細かいメッシュに分割し、複数の基地局から異なる周波数の電波を同時に受信できるメッシュを、CAの利用が可能な候補として抽出しました。このメッシュ情報に基づき、CAが利用可能なメッシュ数を最大化するCAリンクの組み合わせを、量子コンピューティング技術を活用して算出しました(図1参照)。算出に当たっては、数理最適化問題として定式化し、イジングマシンで組み合わせ最適化に特化した計算を行っています。

図1. CA可能メッシュ数を最大化するようにCAリンク構成を最適化
図1. CA可能メッシュ数を最大化するようにCAリンク構成を最適化
図2. 最適化前後のCA可能エリアの一例(青いメッシュ部分がCA使用可能エリア)
図2. 最適化前後のCA可能エリアの一例(青いメッシュ部分がCA使用可能エリア)

算出結果に基づいて作成したCAリンク構成で、CAの利用可能エリアをシミュレーションした結果、従来と比べてより広範なエリアでCAが利用可能になることが確認できました(図2参照)。また、この構成を東京都内で稼働する特定エリアの5G基地局に適用した結果、CAが利用可能なエリアが拡大し、下りのデータ通信速度の平均が約10%向上しました(図3参照)。また、CAの利用割合を示すCAコンフィグ率に加え、セカンダリーセル※2におけるデータ通信量も最大50%増加しました(図4参照)。この結果を踏まえ、イジングマシンを活用して基地局の設定を最適化することで、電波を効率的に利用し、通信性能を向上できることが確認できました。これにより、快適な高画質の動画視聴やオンラインゲームのプレイなどに貢献できます。

図3. 平均下りデータ通信速度が約10%向上
図3. 平均下りデータ通信速度が約10%向上
図4. セカンダリーセルを活用したデータ量が上昇(適用前・適用後ともに各期間のセカンダリーセルのデータ量の合計)
図4. セカンダリーセルを活用したデータ量が上昇(適用前・適用後ともに各期間のセカンダリーセルのデータ量の合計)

ソフトバンクは今後、ネットワーク構成の最適化や運用領域への量子コンピューティング技術の活用を検討します。さらに、さまざまな領域のサービスへ展開し、より快適で高品質なサービスの提供を目指していきます。

[注]
  1. ※1
    組み合わせ最適化問題に特化した専用計算機で、エネルギーが最小となる状態を探索することで最適解を導きます。その動作原理により、古典型・量子型・量子インスパイアード型に分類され、物流や金融などの多様な分野で応用が期待されています。
  2. ※2
    主となるセル(プライマリーセル)に加えて同時に接続する補助的な通信レーン。主にデータ通信容量の拡大を目的として利用されます。
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