プレスリリース 2025年

量子計算技術の社会実装を推進する
「量子コンピューターを用いた
大規模なエネルギーギャップ計算手法」の開発に成功

~「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に論文掲載~

2025年7月31日
ソフトバンク株式会社

ソフトバンク株式会社(以下「ソフトバンク」)は、慶應義塾大学、三菱ケミカル株式会社およびJSR株式会社と共同で、量子計算技術の社会実装の推進に向けて、実用的な材料・素材の開発に必要な高精度な基底・励起状態間エネルギーギャップ※1の計算を実現する「量子コンピューターを用いた大規模なエネルギーギャップ計算手法」の開発に成功し、その論文が「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載されましたのでお知らせします。(掲載論文のURL:Tensor-based quantum phase difference estimation for large-scale demonstration | PNAS

ソフトバンクは、次世代社会インフラの構築に向けた研究開発の一環として、量子コンピューターの応用技術開発に注力しています。電池材料などの新素材の開発・設計には、分子や原子の振る舞いを精密に予測する計算が不可欠です。中でも量子化学計算※2のエネルギーギャップは、化学反応の起こりやすさを見極める鍵となる指標であり、効果的な素材開発による環境負荷の低減といった社会的課題の解決にも直結する分野で、従来の古典コンピューターでは膨大な計算時間が必要とされてきました。量子コンピューターを用いることで、これまで困難だったエネルギーギャップ計算を効率的かつ高精度に実行できる可能性があり、大規模な分子の解析を実現する技術として大きな期待が寄せられています。

今回、大規模な分子のエネルギーギャップを高精度で求めるために、エネルギーギャップの計算手法の一つである「量子位相差推定※3」と、テンソルネットワーク※4による「量子回路圧縮※5」を組み合わせた手法を提案し、この手法をゲート型商用量子コンピューター「IBM Quantum System One」および「IBM Quantum System Two」上で、ハバードモデル※6および直鎖分子※7に対して実行しました。また、Q-CTRL(Qコントロール)のエラー抑制モジュールを組み合わせることで、さらなる量子回路の圧縮を実現し、従来の5倍以上である最大32量子ビット(32スピン軌道)のシステムに対するエネルギーギャップの計算に成功しました。従来の量子計算手法では、大規模な量子回路の実行ができず、量子位相推定は最大で6量子ビット(6スピン軌道)のシステムまでの実行のみされていました。この結果は、大規模な分子の物性の高精度な解析につながることが期待されます。

ソフトバンクは、今回の成果を生かし、材料開発や環境技術などの分野で、量子コンピューターによる社会課題の解決を目指します。また、今後も学術機関やパートナー各社と連携して共同研究を進めながら、産業応用を見据えた量子計算技術の社会実装に向けた取り組みを推進していきます。

今回の研究開発に関する詳細は、ソフトバンク 先端技術研究所のブログをご覧ください(https://www.softbank.jp/corp/technology/research/story-event/082/)。

[注]
  1. ※1
    基底・励起状態間エネルギーギャップ:物質が基底状態から励起状態へ遷移する際に必要なエネルギー差であり、特定の物質における反応のしやすさを示す指標としても使われる。
  2. ※2
    量子化学計算:分子や原子の性質を量子力学に基づいて解析・予測する計算手法
  3. ※3
    量子位相差推定:量子コンピューター上で対象モデル(物質)における二つの固有値(位相)の差を高精度に推定するアルゴリズム
  4. ※4
    テンソルネットワーク:複雑な量子状態を効率よく表現・計算するための数学的枠組み
  5. ※5
    量子回路圧縮:量子回路の構造を最適化し、必要な量子ゲート数を削減する手法
  6. ※6
    ハバードモデル:電子の移動と電子間の反発作用を記述する、物性物理における代表的な理論モデル
  7. ※7
    直鎖分子:炭素原子が一次元状に連結された構造を持つ分子
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