プレスリリース 2025年

GPUの活用によるソフトウエアのみでのAI-RAN、
Massive MIMOを実現

~「AITRAS」で16レイヤーのMU-MIMOの屋外実証に成功~

2025年10月29日
ソフトバンク株式会社

ソフトバンク株式会社(以下「ソフトバンク」)は、米国カリフォルニア州サンタクララにあるNVIDIA本社で展開しているAI-RANのプロダクト「AITRAS(アイトラス)」において、NVIDIA GPU(Graphics Processing Unit)を活用して無線信号処理を完全にソフトウエアで実行するAI-RANを構築しました。このAI-RANを活用することで、Massive MIMOに必要な無線信号処理を実現し、ダウンリンク(Down Link、以下「DL」)での16レイヤーのMU-MIMO(Multi‑User Multiple Input Multiple Output)の屋外実証に成功しました。

無線信号処理は従来、FPGA(Field-Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの専用ハードウエアで実行されることが一般的でしたが、今回の屋外実証ではCUDAを使用して高速化されたNVIDIA GPUの大規模並列演算を活用して、全ての処理をソフトウエアで実行し、実際の通信環境下で高い性能を示すことが確認できました。これにより、AI(人工知能)処理と統合可能な次世代vRAN(virtualized Radio Access Network、仮想無線アクセスネットワーク)アーキテクチャーの有用性が実証されました。

屋外実証の概要

「AITRAS」に搭載したGPUの高効率な並列処理性能を活用して、Massive MIMOに必要な大規模行列演算および物理層(PHY層)の無線信号処理を行いました。具体的には、DU(Distributed Unit)内のGPU上において、無線信号処理をソフトウエアで実行し、屋外環境においてDLで16レイヤーのMU-MIMOの動作を確認しました。

実証では、従来の4レイヤー構成に比べてスペクトル効率とスループットが共に約3倍に向上した他、トラフィック集中時においても、1ユーザー当たりのスループットが良好な通信品質で安定し、基地局全体の通信容量拡大につながることを確認しました。これは、GPUによるPHY層の処理を完全にソフトウエアで実行して、Massive MIMOの処理をRANの規定処理時間内で安定的に動作させた大規模な検証であり、AI-RANの商用化に向けた重要なステップとなります。

屋外実証の概要

「AITRAS」のシステム構成と特長

「AITRAS」は、DUとO-RAN 対応無線装置(以下「O-RU」)間のインターフェースはO-RAN Split Option 7.2xに準拠しています。Massive MIMOの実装においては、アップリンクの無線信号のチャネル推定処理と等化処理の全てまたはその一部を、DUからO-RU側に移管して実装する構成もありますが、「AITRAS」では、GPUを活用することにより全てをDU内のソフトウエアのみで処理する方式を採用しています。これにより、O-RUへの新たな機能を追加することなく、汎用的なO-RUをそのまま活用したMassive MIMOのエコシステムを実現しています。

また、複数のO-RUのアップリンク無線信号が、AI処理ユニットを統合した同一のDU内に集約されるため、無線品質に対するAI協調制御が複数のO-RU間にも適用可能になります。これにより、アップリンクチャネル補間による無線品質の改善や、ビームフォーミングによる通信容量の向上などが期待されます。

この構成は、3GPPおよびO-RANの標準仕様に準拠しながら、AIでRANの能力を最大化する完全ソフトウエアベースの先進的なRANアーキテクチャーです。

[注]
  1. アップリンクチャネル補間とは、通信リソースの一部にのみ割り当てられる復調用参照信号(Demodulation Reference Signal、DMRS)から、データが伝送される伝送路(チャネル)の状態を推定・補間する信号処理技術のこと。限定的な測定情報を基に伝送路全体の特性を正確に把握することで、通信の高速化・安定化を実現する。
「AITRAS」のシステム構成と特長

今後の展開

ソフトバンクは、柔軟かつ持続可能な次世代ネットワークの実現に向けて、「AITRAS」の開発を通して、実用化に向けた取り組みをさらに加速させていきます。今後も実証実験を重ね、2026年以降にソフトバンクの商用ネットワークでの「AITRAS」の導入を目指します。

なお、この取り組みは、2025年10月27日から開催される「NVIDIA GTC Washington, D.C.」内のソフトバンクのブースで紹介しています。

ソフトバンクの執行役員 兼 先端技術研究所 所長の湧川隆次は、次のように述べています。
「今回の実証は、高帯域で、かつ低遅延が求められるMassive MIMOの無線信号処理を、『AITRAS』のGPU上で完全にソフトウエアで実行可能なことを示した重要な成果です。AIとGPUコンピューティングを融合することで、より柔軟で持続可能な次世代ネットワークを実現するというソフトバンクのAI-RAN構想の実現に向けて、今後も開発を進めていきます」

NVIDIAのVice President of TelecomsのSoma Velayutham氏は、次のように述べています。
「ソフトウエアで定義されAIネイティブなアーキテクチャーは、次世代無線ネットワークの革新を加速させ、周波数利用効率を最大化する上で極めて重要です。特にUltra MIMOのような高度なMIMO処理では、AIによるメリットは計り知れません。ソフトバンクがNVIDIAとの連携によって実現した、完全ソフトウエア定義のMassive MIMOによるAI-RANの目覚ましい性能向上は、アクセラレーテッド コンピューティングがRANの世界をいかに変革しているかを明確に示しています」

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ソフトバンク 先端技術研究所について

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