プレスリリース 2022年

土砂やがれきに深く埋まった遭難者のスマホの位置を
ドローンで特定するシステムの実証実験に成功

~最大5メートルの土砂に埋まったスマホの位置を特定、
2機の有線給電ドローンの活用で障害物を回避しながら連続100時間以上の捜索が可能~

2022年11月18日
ソフトバンク株式会社
双葉電子工業株式会社

ソフトバンク株式会社(以下「ソフトバンク」)と双葉電子工業株式会社(以下「双葉電子」)は、国立大学法人東京工業大学工学院 藤井輝也研究室(以下「東京工業大学」)と共同で、地震や台風に伴う土砂崩れなどにより遭難された方や要救助者の捜索を支援することを目的に、ドローン搭載バッテリーで運用していた「ドローン無線中継システムを用いた遭難者位置特定システム※1」を地上からの有線給電で運用することで、ドローンを長時間飛行させながら、土砂やがれきの中に深く埋まったスマホの位置を特定する有線給電ドローンシステム(以下「本システム」)を開発しました。

本システムは、有線給電ドローンを活用しているため、連続100時間以上飛行させることが可能です。一方で、地上の給電装置からドローンまで電源ケーブルを伸ばすと、途中で倒木などの障害物に引っ掛かってしまう恐れがあるため、スマホを捜索するドローン(主ドローン)と、電源ケーブルを持ち上げて制御する補助ドローンの計2機のドローンを活用することで、給電しながら最長約200メートルの移動距離を実現しています。

また、千葉県の長生村にある双葉電子の長生工場に、通信圏外かつGPSの信号が届かない土砂の山を築き、その中にスマホを埋めて本システムで捜索する実証実験を行ったところ、最大5メートルの土砂に埋まったスマホの位置を特定することに成功しました※2

本システムの開発の背景

ソフトバンクと東京工業大学は、雪山や山岳地帯などでの遭難者や、地震などにより土砂やがれきに埋まった要救助者の位置をドローンで特定するシステムの研究開発に2016年から取り組んでおり※3、2020年には双葉電子と共同で「ドローン無線中継システムを用いた遭難者位置特定システム」を開発しました。一方で、土砂やがれきの中に深く埋まって圏外となっているスマホを通信圏内にするためには、現場上空をゆっくりと飛行してドローンから発信する電波を地中深くまで届くようにする必要がある他、位置特定の精度を向上させるために現場上空でくまなく測定する必要があり、捜索範囲の広さによっては長時間の飛行が必要になります。しかし、従来の「ドローン無線中継システムを用いた遭難者位置特定システム」は、ドローンに搭載しているバッテリーでドローンと無線中継システムに電力を供給しており、1回当たりの飛行可能時間が最大約30分のため、捜索範囲が広い場合は捜索を中断してバッテリーの交換を行う必要があり、迅速な救助支援への障壁となっていました。そこで、地上から有線で電力を供給し、長時間の運用が可能な「有線給電ドローン無線中継システム※4」と組み合わせることで、連続100時間以上の捜索ができる本システムを開発しました。

本システムの概要

本システムの基本的な仕組みは、従来の「ドローン無線中継システムを用いた遭難者位置特定システム」と同様です。土砂やがれきの中に深く埋まった場合、「ドローン無線中継システム」によって通信圏内となっても、スマホはGPSの信号を受信できないため、位置情報を取得することができません。そのため、捜索現場の上空にドローンを飛行させ、ドローンに搭載した下向きの指向性アンテナによって、スマホから送信される電波の受信電力と、GPSの信号を受信しているドローンの位置情報を同時に取得することで、飛行経路上で受信電力が最大となるドローンの位置をスマホの現在位置として特定する仕組みになっています※5。なお、ドローンによって特定したスマホの位置情報は、「位置情報取得システム」によって遠隔地からパソコンやスマホで確認することができます。

一方で、本システムは有線給電ドローンを活用しているため、地上の給電装置からドローンまで電源ケーブルを伸ばすと、捜索現場までの間に倒壊した家屋や倒木があるような場合、電源ケーブルがそれらに引っ掛かって捜索が継続できなくなる恐れがあります。そこで、無線中継システムを搭載してスマホの位置を捜索するドローン(以下「主ドローン」)に加え、電源ケーブルを持ち上げて制御する補助ドローンの計2機のドローンを活用することで、障害物を回避しながら、約200メートルの範囲を連続100時間以上安定して捜索ができるシステムを実現しました。

なお、ソフトバンクと東京工業大学は、2021年に消防庁の「消防防災科学技術研究推進制度」の研究課題に採択されており※6、本システムはこの研究の一環として開発したものです。

実証実験について

千葉県長生村の双葉電子の長生工場内に土砂の山を築き、その中にスマホを埋めて、本システムによってスマホの位置を特定する実証実験を行いました。土砂の山と地上の給電装置の距離は約200メートルで、その間には高さ約10メートルの木々や高さ約3メートルの柵があり、主ドローンだけでは電源ケーブルがそれらに引っ掛かるため捜索ができない環境です。実証実験の結果、主ドローンは補助ドローンのケーブル制御によって土砂の山の上空に到達することができ、最大5メートルの土砂に埋まっているスマホの位置を数メートルの誤差で特定することに成功しました。この結果により、スマホが土砂やがれきの中に深く埋まって通信圏外かつGPSの信号が受信できない場合であっても、本システムによって位置の特定が可能なことが検証できました。なお、今回の実証実験における主ドローンと補助ドローンの飛行は、異なる操縦者による手動操縦で行いました。

今後もソフトバンクと双葉電子は、東京工業大学と共同で本システムの実用化を目指すとともに、自治体や公共機関、企業と連携し、ドローンを活用した災害対策や社会課題の解決に向けた研究を進めていきます。

本システムの概要
本システムの概要
[注]
  1. ※1
    2020年8月31日付のプレスリリース「ドローン無線中継システムを用いた遭難者などの位置特定の実証実験に成功」をご覧ください。
  2. ※2
    電波が到達する深さは土砂に含まれる水分量(含水率)によって異なり、水分量が多くなるほど浅くなります。実証実験では、水分量が50%以下の土砂の山において、5メートル下に埋まったスマホの位置を特定しました。
  3. ※3
  4. ※4
    2020年7月9日付のプレスリリース「有線給電ドローン無線中継システムの実証実験に成功」をご覧ください。
  5. ※5
    スマホの電波をドローンが受信できるようにするためには、所有者の許諾の下、専用のアプリケーションをスマホにインストールしておく必要があります。
  6. ※6
  • SoftBankおよびソフトバンクの名称、ロゴは、日本国およびその他の国におけるソフトバンクグループ株式会社の登録商標または商標です。
  • その他、このプレスリリースに記載されている会社名および製品・サービス名は、各社の登録商標または商標です。